46.甘い視線の先
せっかくの夏休み、出掛けないなんてもったいない、はず。ということで、私は今電車に乗っている。目的地は住んでいる地域の中央の駅だ。住宅街というよりデパートなどお店が並ぶ場所となっている。
その中の一つに私は行こうとしている。美味しそうなフレンチトーストの写真を見つけてしまったため仕方ない。そこは食べ物も人気だが、ひそかに店員さんも人気だとか。
問題は、ここに私は一人で行こうとしていることである。そんな人気店に一人で入る勇気。果たしてあるのか。お店の前に行くまで分からない。
ゆらゆら電車に揺られ辿り着いた駅。数分歩けば目的地だ。そこはすぐに見えてきた。中には待っている人がいるらしい。並ぶ覚悟を持った。
店内に入り、名前を記入。横の椅子にて待つ。待っている間、漂ってくるいい匂いに視線を動かしながらも人の物だからと姿勢を正す。
何分待ったか分からないが、名前を呼ばれ席に案内される。メニューとにらめっこし、やはりお目当てのフレンチトーストを頼んだ。飲み物は紅茶だ。
店員さんが行き来するのを見ながら、その中に見知った顔を見つけた。春野先輩? バイトしているんだ。勉強もあって忙しいはずなのに。
そこに紅茶がやってくる。
「失礼いたします。お待たせしました、ホットティーです」
ポットと空のティーカップ。どちらも透明のガラスで綺麗だ。私の横の席の人は来た店員さんを見ている。私も視線を移す。なるほど、店員さん人気というのは顔のことか。納得しながら見ていたが、どうやら顔だけではないことも分かった。
「失礼いたします。お待たせしました、フレンチトーストです」
待ちに待ったものが届いた。ふとまた店員さんの顔を見る。
「あ、先輩」
この言葉で私を見た春野先輩は、にこりとし小さな声で「空ちゃんいらっしゃい」と言った。それ以上の言葉はなくすぐに仕事に戻ってしまった。それもそうだ。こんだけ忙しいのにかまっている暇はない。それにかまわれても周りの視線が怖い。
とにかく美味しそうな物があるんだ。食べよう。柔らかな食感と甘いメープルシロップ。最高である。
食べ終わってのんびりするのも申し訳ない気がして、紅茶を流し込む。すぐに会計へ。
レジ前には先輩。お会計をしながら、先輩と少し言葉を交わす。
「空ちゃんがいて驚いたよ」
「私も先輩がいて驚きました」
「美味しかった?」
「はい、それはもうとても美味しくて――」
熱弁に微笑む先輩。ちょっと恥ずかしかった。
「また来てね」
「はい」
私はお店を後にする。美味しい物も食べれて、先輩の接客姿も見れてなんだかいい日だった。お客さんにとても人気で話しかけられていたのはちょっと複雑な気持ちだったけど。
さて、ぶらぶらして帰りますか。
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