八月
45.川のせせらぎを聞きながら
夏休みに入ったからといって、やるべきことがあるわけでもなく。なお宿題は目を瞑る。
この暑い中をただ自転車を漕いで進む猫宮空。何処に行こうというわけでもないのだが、なんとなく川に向かっている感じである。二駅分くらいの距離があるが自転車ならすぐだろう。
ぼーっと漕いでいたら、遠くから水の流れる音がした。このまま川に突っ込まないようにだけ気を付けよう。
見えてきた。暑いし、川を見ながら休もうかな。
自転車を止め、階段を降り川の前に行こうと近くまで来たところで先客を見つけた。
グレーの髪が靡いている。
「一条先輩、こんにちは」
「んあ! え? あぁ、猫宮か」
寝ていたのか、私が声をかけたのに驚いた様子。かけない方がよかったかもしれない。
「こんなところで何してるんだ?」
寝転がっていた先輩は上体を起こし、隣に来た私を見た。
「自転車でぶらぶらと」
「俺と同じかぁ」
風に靡いた髪が目に入ったのか、先輩は目を擦る。
「何時までここにいようとか考えずに過ごすのもいいが、そうなると時間を無駄にしてる気もするんだよな」
「分かります。きっと今日は何にもしなかったと思うんでしょうね。ところで、先輩部活は?」
「今日は午前中だけ」
先輩は私と違って、しっかり活動してからのようだ。さっき起きたとは言えない。
「お疲れ様です」
「猫宮はこんなところで油売ってていいのか?」
「今日はいいんですよ」
「宿題はやれよ?」
「うっ、はい、やります」
痛いところを突かれてしまった。
「なんか今のお母さんみたいだったな」
そう言って先輩は笑った。
「まっ、今日はいいか」
こうして今日という惰性で過ごそうとした一日が、一条先輩に会って楽しく話した日と変わった。
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