44.特別賞


「もう少しで時間ですね」


 図書室で春野先輩と本の貸し出しイベントが始まるのを待っている。


「どうやら猫ちゃんは俺を待っているのかな?」


 急に聞こえたその声の持ち主は、光先輩だった。


「やっほーい、元気? 何やら楽しそうなことをすると聞いて来たよ」


 私の返事も聞かずに言葉を続ける。

 春野先輩はそれを見て「良かったね」とだけ言った。

 違うんです、この人はそういうんじゃなく来ているんです。とは言えず。


「こんにちは、春野先輩。俺は宇佐見です。猫ちゃんとは仲良くさせてもらっています」

「春野先輩、違うんです」

「え、俺のこと嫌い?」

「き、嫌いじゃないですけど……」


「仲良しだね。猫宮さん、宇佐見君が来てくれて嬉しいね」


 そんなほのぼのとした春野先輩の空気に二人は飲み込まれていく。


「そ、そうですねー。それで光先輩は本借りるんですか?」

「借りるに決まってるよ。ちょっと待っててね。探してくるよ」


 そう言って、光先輩は本棚をうろうろし始めた。何度か止まって何かを見ているようだ。


「春野先輩、もしかしてイベント一人目って……」

「宇佐見君になるだろうね」


 なんか、嬉しいような悲しいような身内票みたいな感覚がある。


「猫ちゃん、これ。俺はこれを借りるよ」


 光先輩が持ってきたのは私がポップを書いた恋愛ものの小説。


「せっかくおすすめしてくれてるんだから読まないとね」


 見てくれた嬉しさと、あなたか……という気持ちと半々。


「まぁ俺だったら、気持ちは伝えるからすれ違わないけど、そういう人のも勉強しないとね」


 どういうことかは聞かないでおこう。


「じゃあ、くじ引いてください」

「よーし、えいっ」


 引いたくじには参加賞と書かれている。


「宇佐見君、参加賞だね」

「あぁ、残念。せめて猫ちゃんが渡してくれるかな?」

「え? はい?」


 棒が付いた飴を渡すと光先輩は笑顔でこう言う。


「猫ちゃんからのプレゼントだ。夏休みに入ったら会えないからね。その間の原動力にしちゃおっと」


 そして手を振って図書室から去っていった。


「宇佐見君は元気だね」

「春野先輩にはそう見えるんですね」


 にこにこ笑顔の春野先輩。


「そういえば、猫ちゃんって呼ばれてるの可愛いね。僕はそうは恥ずかしくて呼べないけど、空ちゃんって呼んでもいいかな? なんだか羨ましくなっちゃった」


 空ちゃん? 先輩から? おおおおお、大丈夫だ、落ち着け。


「もちろんです、呼んでください」

「ありがとう、じゃあ僕のことは湊君って呼んでもらおうかな?」

「せ、先輩、君は出来ませんよ!」

「あはは、冗談だよ」


 光先輩のおかげで春野先輩ともっと仲良くなれた気がする。


 この後、次々と本を借りる人が現れイベントは大盛況に終わった。光先輩が最初に来てくれたからかな。


 私も最後にくじを引いたら参加賞だったが、それ以上の物を今日は貰ったような気がする。



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