41.案内係(ほくほく編)
「あの、猫宮さん。ちょっといいですか」
お昼休みの教室で、私は転入生として来たばかりの冬城君に話しかけられていた。冬城君は初めのうちは男の子達にたくさん話しかけられていたが、今は落ち着いたみたいだ。ちなみに女の子達は遠くから眺める人が多い。イケメンだと他のクラスにも噂が広がっているらしい。
「大丈夫だよ。どうしたの?」
言うか悩むような顔をしてからゆっくりと話し始めた。
「街を……この周辺のことを教えてほしくて」
来たばかりでまだ慣れていない様子。それならば私がと気合が入る。
「もちろんいいよ。いつ行こうか?」
一瞬嬉しそうな顔をした。
「ありがとうございます。今日の放課後はお時間ありますか?」
私は笑顔で「もちろん」と答えた。
放課後、みんなが帰り始めたりおしゃべりを始める中、冬城君と顔を合わせる。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
ちらちらと何人かの生徒がこちらを見ているが気にしないことにする。話題の人といると注目されてしまうのか。
学校を出て、まずはこの辺をと思ったが、何を教えればいいか分からない。
「冬城君、まずは学校周辺でと思ったんだけど、どんなジャンルがいいかな?」
「……猫宮さんのおすすめのお店とかあれば」
うーん、それならばと少し歩いた先にあるあのお店に連れて行こう。
「よし、行こう!」
歩いている間も特に話すわけでもなく、淡々と進む。何か話しかけた方がいいのだろうか。
そうこうしている内に着いてしまう。
「まずはここです」
なぜか敬語になる私。急に緊張感が出てきた。
「和菓子屋さんですか」
「トテモ、オイシイ」
片言の日本語。
「そうなんですね、何がおすすめですか?」
「かぼちゃ大福!」
おそらくこの時の私は満面の笑みを浮かべていたことだろう。
冬城君はそんな私を見てちょっと笑った。
「分かりました。買ってきます」
そう言って、お店に入っていった。
少しして冬城君は戻ってきたが、袋を二つ持っている。そんなに買ったのかな。
「これを」
袋の一つを差し出され、思わず受け取ってしまう。
「かぼちゃ大福です。どうぞ」
「あ、ありがとう」
好きだからって私の分も買ってくれたみたい。
「夏にあるの珍しいですよね。秋にあるイメージでした」
話してくれた。
「そうなの。ここは季節関係なく置いてくれてて嬉しいんだ」
「本当に好きなんですね」
「うん」
こう言った私はどんな顔をしていたのだろう。冬城君が顔を背けてしまったのはなんでなんだろう。変な顔してたのかな?
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