38.おじゃま虫
やってきました、放課後。本日の予定はさやかちゃんと南ちゃんが所属する陸上部の見学。一条先輩に誘われて来ることになったが、邪魔にならないようにしなければ。
「くぅちゃーん! こっちだよー」
この声はさやかちゃんだ。
野球部とテニス部の間を通り過ぎ、グラウンド奥の陸上部の元へ。
「今、ストレッチの途中。この後、長距離やダッシュが入るよ」
うんうんと頷く私に気付いた一条先輩。少し遠くから叫ぶ。
「猫宮、来たか。ゆっくり見てってくれ」
え、見学? と他の人に見られる。入部してくれないかなぁと期待の目で見られた。すみません、見学のみです。
「暑いからみなさん水分補給はこまめにお願いします―! くぅちゃんもね」
確かに今日は特に暑い。炎天下の中、こんなに動いていたら飲まないと危険なくらいだ。
みんなすごいなと思っていたら、ストレッチが終わったのか各々違う行動をし始めた。さやかちゃんは何人かと紙を見ながら話している。南ちゃんは一条先輩と何やら相談中。
「いやぁ、こんな暑いのにみんなよく出来るよね。俺なら溶けちゃうよ」
隣から急に声が聞こえ、見るとそこには光先輩。
「先輩来てたんですね」
「俺は、猫ちゃんのいるところに現れるんだよ。だからこの暑い中参上したわけさ。猫ちゃんが暑さで倒れないように見ていないとね」
またそういうことを。
「と言いながら、一条先輩を見に来たんですよね?」
「あながち嘘とは言えないなぁ。彼はね、頑張りすぎるところがあるから。たまに俺が息抜きさせてあげないと」
そう言い、光先輩は一条先輩に目をやった。
「あ、光。お前また来たのか。邪魔するなよ!」
自分を見ている光先輩に気付いた一条先輩はこんな反応。
「俺の愛は届いてないみたい」
「いつも邪魔しかしてないんじゃないですかね?」
「それが息抜きだよ、猫ちゃん」
こんな話をしている間に部員は走り始める。
「ちょっとした小話、陽ってね、昔走るの苦手だったんだよ。遅いしすぐ転ぶし、俺が教えてあげてた」
「え、そうなんですか。想像できないですけど。光先輩が教えてたというところも含めて」
「俺をどう思ってたのか気になる発言だなぁ」
「走ったりするの好きなんですね。いつもだらだら過ごしているのかと」
「刃物のような言葉だねぇ。まぁ、そうも見えるかもしれないね」
はい、もう一本。と言われて部員はエンドレスダッシュ。
息を切らした一条先輩は水を飲みにこちらにやってきた。
「猫宮に変なこと言ってないよね?」
「変なことは言ってないよ。昔、陽は走るの下手だったっていうのは言ったけど」
「そういうことを言うなって言ってんの!」
じゃれているように見える二人の関係、すごく仲がいいんだってことが分かる。性格は正反対に見えるけど。これじゃあ、私が二人の邪魔をしているみたいだ。
「よし、じゃあそろそろデートしない? 猫ちゃん」
「おい、だから変なこと言うなって」
「しませんよ」
一条先輩は、うんうん頷いて「そうだよな」と呟く。
「前にお祭りデートしたもんね」
光先輩が言った言葉を繰り返し、焦る一条先輩。
「ど、どういうことだ! それは聞いてない! おい、光どういう……」
「はい、先輩、練習に戻りますよー」
「そうですよ、練習練習」
「待って、まだ話は聞いていな……」
さやかちゃんと南ちゃんに引っ張られて行ってしまった。
「助かったような」
「猫ちゃんは二人だけの思い出にしたかった?」
「そういうんじゃありません!」
真面目に部活見学のはずが、これじゃあ部活の邪魔をしたかもしれないと思い始めていた。
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