28.はぐれないように


 さやかちゃんと来たお祭りにて迷子の私。光先輩と出会い、さやかちゃんの待つ迷子センターまで一緒に行ってくれるという。


 先輩、昨日見かけた時も女の人と来てたけど今日とは違う人だなぁ。


「さぁ、猫ちゃん。お友達を迎えに行こうか」


 先輩にそう言われ、並んで行列の中に入っていく。あまりの人の多さに先輩ともはぐれそうだ。


「これじゃあ、はぐれちゃうかもしれないなぁ。ほら、猫ちゃん。手を出して?」


 なぜかと疑問に思いつつ左手を出す。


「これで大丈夫だね」


 先輩は私の手を握ったのだ。


「先輩、これは、ちょっと」

「嫌かな?」

「嫌とも違うんですけど、でもそういうのではないというか」

「嫌じゃないなら、このままでいてね。俺に守らせて」


 ただの迷子で大事じゃないのに、そう言われるとなんだか何も言えなくなった。


「はい」


 迷子センターまでの間、私達は一言も話さなかった。いつもはおしゃべりな先輩が何も言わないなんて。


 時間にしてどれ程だったか。さやかちゃんが見えた瞬間、先輩は手を放して「行っておいで」と優しく言った。


 さやかちゃんと言葉を交わし振り返ると、もう先輩はいなかった。本当にただ送ってくれただけだった。さっきの女の人と合流するのかなと思ったら、ちょっともやもやした。


 この後、また迷子になることなく無事にお祭りを楽しめた。


 次、光先輩に会ったらお礼言わないとなぁ。


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