君に重なる姿

 私たち、中学3年生。そう、こう見えて受験生。


 私は将来やりたいことも特に決まってないし、地元を離れるつもりも特にないので、近くの公立の高校を受けることにした。この中学に入っている人のだいたいがそういう進路だと言う。


 そこの高校はさほど偏差値も高くないので、受験生らしい勉強、勉強、の日々は、9月になっても全く見えてこないまま。教室も毎日のようにどんちゃん騒ぎである。勉強してる人なんて1人も……。あ、鈴木くんは勉強してる。


 拓真の親友の鈴木くんは、頭脳明晰、イケメン、それにサッカー部のエースと、モテる要素を色々持っている、いわば男子に疎まれる男子である。今日も休み時間に教科書を開く鈴木くんに他の男子が邪魔をしている。


「お前ら、邪魔すんなよ。」


そんな時、邪魔な男子を睨み付けたのは拓真。本当、あの2人仲良い……。


「べ、別に邪魔してねーし。」


そう言って離れていく男子たち。


「あ、ありがと……」


イケメンでも恥ずかしがり屋な鈴木くんは、また女子の人気を上げてしまうのだ。


「いいって、受験頑張れよ。」


「……うん。」


なんとなく頬を染めている鈴木くんは、嬉しそうだった。まぁ、拓真に褒められたら私も……。


「好きになるよねぇ。」


なんてね。








 その放課後。見てはいけないものを見てしまうことを、私は知らずに教室に向かっていた。


「テニスラケット、忘れた……」


廊下のロッカーに忘れていったラケットを走って取りに行く。ちなみに、教室の前にロッカーがあって、そこにリュックやら何やら、自分の荷物を置いている。


『……だよ』


「え?」


くぐもった声が不意に聞こえて、くるっと後ろを向く。もちろん誰もいなくて、教室の中から声が聞こえた。


『……よ?』


その声は……矢萩ちゃん?忘れるはずもない、……なんで忘れられないんだろう……矢萩ちゃんの声がして、ダメだと分かっているのに半開きしている教室のドアを覗いた。


 深い意味はなかった。ただ、矢萩ちゃんが誰としゃべっているのか気になって。


 それは悪かったのか、なんなのか、運命が左右する。


 今日はくもりで、電気が消された教室の中は見ずらかった。でも、矢萩ちゃんと他の誰かの影が重なっているのが見えたから。


 その誰か、は……。


 言わなくても、分かるかな?


 私は、本能的に飛び出してしまったよ。












 「……待ってっ!!」 



 










 

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