第20話「幼馴染は看病する」

「っぐ、ごほっごほっ……んっ……」


「おいおい、大丈夫か?」


 翌朝、藤崎が起きると御坂が苦しそうな顔で咳ごんでいた。


「うぅ……」


 どうやら彼女は風邪を引いているようだ。熱は38.2度でそこまで高くはないものの、春の風邪はどうなるか分からないことが多い。こういう時は布団の中で安静にしているのが一番だろう。


 そう思った藤崎は彼女の額に手を当てる。


「だ、だいじょっ……ぶっ……ごほっごほっ!」


「……どこがだ、安静にしてろっ」


「っや、でも……大学っ」


「大学は今日は休みだ。土曜日だぞ?」


「っや……でもっ……ご飯とか……」


 どんなに言い聞かせても無理やり体を起こしてくる御坂。


 頑張ってくれるのはすごく嬉しいがあまり無理されて、悪化するのも困る。それに昨日のお花見の前にラーメンをたらふく食べてから、夜中はすぐに薄着で出歩いたのがダメだったんだ。あの感じで連れて行ってしまった自分にも責任はある。


「いいから、昨日とか少し無理しただろ? 俺も悪かった……だから今日は安静にしててくれ」


「うぅ……昨日はっ、私がっ……」


「はいはい、そういうのはいいからっ。御坂は頑張りすぎなんだよ、たまには俺も役に立ちたいんだ」


「……っ、ごほっ……わ、わかったよぉ……」


「うん、それでよろしいっ」


「な、なに……胸張ってるのっ、よぉ……」


「はは、御坂にはないもんn——っ!」


 バコン!

 その弱弱しい拳が藤崎の溝内に突き刺さる。

 少々冗談が過ぎたようだ。


 さすがは御坂、風で弱っていても力は強い。


「……っ、ごめ、ん」


「調子に乗らないでっ……っう、ごほっ……」


「へへへっ……たまには優位に立ちたくてね」


「……何よ、それっ」


「まあね。じゃあ、ほら寝てな、家事とか色々は俺がしておくからゆっくり寝ててな」


「……ん」


 藤崎が優しく布団を掛けると頬を赤らめた御坂はゆっくりと目を閉じた。


 しかし、いつもよりも汗ばんでいて、熱くなっている彼女を見ていると少し変な気分になる。どこか色っぽいというか、いつもの元気な雰囲気からは想像できない弱弱しさが見受けられて、変な背徳感もある。


「……か、かわいぃ……」


 ――あ。


 そう気づいたときにはもうすでに遅く、本音を口走っていた。だが、御坂の表情には変化もなく心地よさそうに寝ているようで、藤崎は自分の顔を二回叩いて立ち上がる。


「じゃなくて……よしっ、おかゆでも作るかっ!」



☆☆



「————ぅ」


 ゆっくりと歩を進めてキッチンへ向かう藤崎を横目に、布団の中に顔を隠す御坂。熱なのか、それとも気持ちの高ぶりかは分からなかったが自分の体がそこから次上げるような熱で熱くなる。


「ず……ずるぃ……」


 いつもよりも優しくて、カッコよく見える藤崎の背中に彼女は小さく呟いた。



☆☆



「ん……ぁ、あ……」


 御坂が目を覚ますとずしっとした重さが膝辺りに圧し掛かるのを感じた。

 そこで、恐る恐る視線をずらしていくとそこにいたのはエプロンを掛けている、汗で髪がぐちゃぐちゃになった藤崎だった。


「は、やと……ぉ」


 自ら額に手を当てるとどうやら熱は引いてきているらしく、枕元に置かれた温度計で測ると37.5度まで下がっていた。


「ふぅ」


 一度ため息をついて、呼吸を整えてもう一度彼の顔を覗く。


「……すぅ、すぅ……すぅ」


「子供……みたい、ね」


 未だ少しだけ喉がイガイガしていたが膝元で寝ている藤崎を見ているとそんなこともどうでもよくなった。気持ちよさそうにすやすやと寝ていて、体が汗ばんでいるのを見ると少し申し訳なくなった。


「……うつって、ないわよね」


 体が熱くなっているのを感じ、自分がうつしてないか心配になる。人間は寝る時、体が熱くなるらしいがそんな単純なことも気づけないくらいに御坂は混乱していた。


「うぅ……あ、ぉい……」


「⁉」


 すると、彼が小さな声でそう言った。


「あ、おい……」


「な、なにっ……」


 しかし、藤崎からの返答は返ってこない。

 中学以来呼ばれたことがなかった名前呼びで少し驚いたが寝言の様だ。


「……は、はぁ……びっくりしたっ、急に何よ……」


 額に手のひらを添える。

 もわんとくる熱に生唾を飲んだ。


「ん……」


 すると汗が垂れ、彼の胸元もシャツの色が変わっていた。

 そんな汚れた藤崎のシャツに鼻を近づけてくんくんと嗅いでみると——汗臭さはあるものの御坂からしてみれば嫌な匂いではなかった。


「……私、何やってるんだろ……変態じゃん」


 胸が跳ねる。


 ドキドキが心臓の鼓動の大きさに比例して、もの凄く大きな音へと変化する。多少の怖さと、高鳴りを感じたが深呼吸をして息を整えた。


「……ねぇ、ねぇ。隼人、起きて」


 肩を揺すると体を起こしながらゆっくりと目を開ける。


「……ん、あぁ……ぁ……!?」


「お、おはよっ」


「あれ、俺、もしかして寝てた!?」


「うん……すっごく気持ちよさそうに寝てた」


「ま、まじか……あ、ちょっとやばっ! おかゆ‼‼」


「え?」


「おかゆ、作ってんだけど鍋‼‼」


「——ぁ」


 すると、藤崎は立ち上がり、速足でキッチンに向かう。だが、ついた頃には時すでに遅く。鍋からは泡が溢れて、IHコンロの安全装置が作動したのか日が止められていて、ぐちゃぐちゃになっていた。


「……あぁ、くそっ。やっちまった、これじゃあ、おかゆが……」


「だ、大丈夫?」


 険しい顔を怪訝な表情で見つめる御坂。

 どうやら、作っていたおかゆが失敗したようだった。


「ごめん。おかゆ、失敗しちゃった……」


「そ、そっか……」


「ごめん……」


 俯いて、申し訳なさそうにする彼の表情は少し苦しそうでこちらの胃もぎゅるりと委縮してしまいそうだ。


「いやいや、大丈夫だよ! 気持ちだけでも嬉しいからっ」


「そ、そう?」


「うん! ありがと!!」


 熱も治って来たし、寝れば治る。それに藤崎が作ろうとした――その気持ちだけで本気で嬉しい。好きな男の子がいつもとは違う優しさを自分に向けてくれて、頑張ったのだ。それだけですごく嬉しかった。


 ニコリと微笑んで、御坂は答える。


「コンビニでも大丈夫?」


「え、別に……大丈夫だけど……」


「じゃあ行ってくる‼‼」


「あ、ちょっ!」


 そう言い残して、藤崎は足早に玄関を飛び出ていった。



<あとがき>

 幼馴染を看病する回!

 どうでしたでしょうか⁉ やっぱり風邪を引いて弱っている女の子は少し可愛く見えてしまうのは僕だけでしょうか? この変な背徳感がたまらなく好きです!!


 良かったら、応援、コメント、☆評価待ってます! もう一度ランキングに返り咲けるようによろしくお願いします!

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