第21話「幼馴染は看病する」


「——ごめんな、こんなので」


 藤崎は額に汗を浮かべながら、コンビニで買ってきたコーンスープとお粥をレンジで温める。いやはや、元々料理は少し苦手だし、むしろまずいお粥を御坂に食べさせることになっていたかもしれない。そう考えれば今回はラッキーだった気がしなくもないのだ。


「え、いやっ。全然嬉しいよ!」


「ほんとか?」


「まじまじマジシャン!」


「……なんだよそれ」


「えへへっ……ん、ごほっごほっ」


「お、おいっ! まったく、無理するなよ……」


「別に……無理してないもんっ」


 いや、しかし。

 皆も感じているだろうが、彼女の隣にいる藤崎は余計に感じ取っているだろう。

 ことに、火照っている頬とか、妙に熱い身体とか、弱弱しい声だとか——出せばいくらでも出てくるけど。


 なにより、いつも強気な御坂がめちゃくちゃ弱弱しいのがそそってくる。これが違う人なら寝ている時にちょっかいを出してもおかしくはないだろう。


「無理してるって……ほら」


 自分で起き上がろうとする御坂の背中にゆっくりと手を添える。すると、ほのかに伝わる暖かい感覚に藤崎の胸も震えた。


「あ、ありがとぉ……」


「あんまり自分でやろうとすると悪化するから、言ってくれ」


「……でも、私声でないよ?」


「ん、あぁ……」


 確かに、言われてみればそうだったかもしれない。そう言われて立ち上がり、部屋を探し回ると小さなベルがあった。


「これとか?」


「ど、どれ……」


「いや、このベルとか」


「っ」


 藤崎がベルを枕元まで持っていくと彼女は少し喉を鳴らした。眼を見開いて、右手に持つそのベルを見つめる。何かあるのかなと感じて、ベルを左右に揺らすとチリンチリンと音が鳴り、御坂の綺麗な碧眼も釣られて左右に動いた。


「っっ……」


「い、いきなり何っ……」


 くすりと笑うと自分が何をしているのかに気づいたのかそっぽを向いた。ぱっと赤くなった顔もこれまた面白かったが、猫の様に視線を動かす姿はかなり可愛かった。


「いやぁ……よく見るなぁって」


「う……ぅ」


「可愛いぞっ」


「……や、やめろっ。か、可愛くないし……」


 照れてるのか、喜んでるのか、否定しているのか。いろんな感情がごちゃごちゃになって、弱弱しく握りしめた拳がポコッとお腹当たりを叩いた。


「っ」


 痛くもない、だが何回も叩く彼女に藤崎も少し同情して揶揄うのはやめた。


「んで、どうしたんだ? これに何かあったのか?」


「あ、いや……うん。それ、小学校の時にあげたプレゼントだった気がして……」


「そうだったっけ? まぁ、かく言う俺も何でもらったのかは覚えてないんだけど」


「わ、私も少し曖昧かもっ……」


「でももらったのならありがとな、結構重宝してるし」


「ほんとに? 埃被ってるけど……」


「あ、ぁ————それはね」


「……ん、それは?」


「そ、それは————はい、ごめんなさい、今日まで使ってませんでしたっ!」


「だよね」


「ま、まぁ……飾ってたからまだいいしょ?」


 藤崎が作り笑いでベルを鳴らすと御坂はジト目を向ける。もう一度鳴らすと、そのジト目は睨みに変わった。


「はい、すみませんっ」


「よろしい……っごほっごほ」


「あ、もう、ほらっ!」


「だ、大丈夫だk——っごほっごほ……」


「ほら、寝る寝る。ちょっとお粥取ってくるから、待ってて」


 そう言って、枕に身体を預けた御坂を横目にキッチンへ向かった。



 戻ってくると、御坂は起き上がりスマホを眺めているようだった。


「おい、どうかしたか?」


「あ、いやっ。なんでもないっ」


「——そ、そうか。なら、できたぞお粥っ」


 藤崎は地面に置いたお粥のお椀を持ち上げて、スプーンを拾う。そしてそこから少しだけ掬って、御坂の口元に近づけた。


「——え」


「ほら、口」


「え、いや自分でっ」


「いいから、ほら、口開けるっ」


 そう言って、彼女の顎を掴む藤崎。それに少し驚いたのか、小さな口を開いた。唇で寝ちょっとした唾液が伸びたが案外汚くは見えなくて、熱で暖かくなった吐息がスプーンを持つ手にかかる。自分では言ったものの、こういうことをしたの初めてだ。


 小さい頃はよく好奇心で唇を触り合ったり、あーんをしあったりしたことあるはずだがそれとこれとは状況も歳も、ましては心持だって違う。あの頃とは違って二人は軽くはなかった。


「——んっ」


「ど、どう?」


 もぐもぐと噛んで、ゴクリと飲み込む。喉には優しいはずだが少々多すぎたかもしれない。一気に飲み込むと彼女は呆気にとられながらもこう言った。


「はっむ……ん、ん。お、美味しいけど……」


「本当か? それなら、あれだな。最後の一つ買った甲斐があったな」


「別に隼人が作ったわけじゃないのに……」


「コンビニに感謝しなきゃだな」


「……そ、そうね」


 藤崎がもう一度掬うと今度は御坂の方から口を開けた。


「あ、あーんして……」


「え」


「あーんしてって言ってるの‼‼」


「っ、分かった。分かったって」


 それからはよく覚えてはいない。

 顔を真っ赤に染めた御坂の口に何回もお粥を入れて、変な与太話を繰り返して、一緒に寝たような気がする。とにかく終始一貫、ずっとその火照った顔が可愛かった。


 そんな記憶だけが頭の中に残っていた。

 


<あとがき>

 

 いつも読んでくれてありがとうございます!

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 それと、良かったら昨日から投稿し始めた「お隣に住むサバサバ系幼馴染と同棲することになったんだけど、たまに見せる照れ顔が死ぬほど可愛い。」https://kakuyomu.jp/works/16816452220584720494 を読んでいただけると尚嬉しいです! 

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