第19話「美味しいかな?」
「どう、美味しいかなっ?」
きつね色の焦げの付いたみたらし団子を手に持ちながら、御坂はニコリと微笑んでいて、そのうちの一つをパクリと頬張ると嬉しそうにそう訊いた。
「ああ、美味しいな」
「へへっ、でしょぉ」
「なんで御坂が嬉しそうにしてるんだよっ」
「え、だって、ここのお店私のすきな店なんだよ!」
「へぇ……出店が、か?」
「そんなわけないでしょ」
先ほどのニコニコフェイスはどこに行ったのか、藤崎が否定すればすぐに血相を変える。少し揶揄いすぎているのか、単に彼女がオープンになっただけなのか、それは理解しかねる。
「へーい、すんません」
「何よ! すんませんって!」
「謝ってるんだよ」
「それのどこが謝りだよ……もっと誠意を込めるものよっ」
「ははっ。そこまでの義理はないねぇ~~」
「うわぁ、非を認めない男はモテないよ?」
「おい、やめろ。決別したからと言って心には突き刺さるぞっ」
「(何よ、人の事も知らないくせに)」
「なに?」
「なんでもなーい」
「……そうか」
実際、御坂が何を言ったのかは分からなかったがその表情から不貞腐れてるようだ。
「それにしても……やっぱり、桜だなっ」
「桜? 誰、女の子?」
「なんでそうなるんだよ、あと睨むんじゃねえ」
「ははっ、冗談。それで、綺麗なのはどうとかって話さなかったっけ?」」
「まあな、改めてってやつだよ」
「改めて? それにしては早いと思うけど?」
「早いくらいがちょうどいい」
「それはもう、ブーメランかも」
「ブーメラン?」
「うんっ、自分で考えてみたら?」
女子というのは面倒くさいというがそれは幼馴染にも当てはまるのかもしれない。きっとそんな面倒くささに気づかない自分は鈍感なのだろう。
はぁ、と溜息をつくと御坂は藤崎の方にくっついた。
「っ——!」
「何驚いてんの?」
「えっ、いやだって急に……」
「昔はよくしてなかった?」
「し、してない――ことはないけど、今はもう大人だろっ」
「大人とか言ってるくせに、すっごいドキドキしてるじゃんっ」
「し、してねぇし」
「聞こえてるけどぉ? とくん、とくん、とくん、とくん……って」
「やめろ、言うんじゃねえ! はいはいっ、とにかく俺はドキドキしてないからっ!」
「ははぁ~~、顔赤くしちゃってかわいい~~」
「うるせえ、御坂も赤いぞっ」
「……っ、そ、そんなわけないしっ」
自分で言う割には無防備の様だ。
銀髪碧眼の少女というのはあれだが、真っ白な肌だとそれも目立つ。藤崎もドキドキはしているがそれは彼女も同じで、桜並木の下でお互いに頬を赤く染めるのは少しロマンチックだと思う。
銀色の眉毛が霜のように輝いていて、雪の中に立っていたらきっと見つけることはできない。そんな彼女に少しだけ見惚れていた。
「——んで、今日の夜は何食べたいの?」
「夜? あーーなんだろうね、Hamburg steak?」
「なんで急に英語っ。あと、すこし発音違うよぉ」
「んへ、まじ?」
「大嘘っ」
「んだよっ!」
「へへっ、私よりも賢いんだから」
「だからって揶揄うな、英語もそれなりに得意なんだから傷つくって」
「じゃあたくさん傷つけようかっ!」
「やめろっ」
ニヤリと微笑む御坂。これはまたやるよって顔だった。
「はいはい、もうしないからっ」
「するだろ」
「どうかなぁ、隼人のお行儀の良さ次第?」
「なんだそれっ。勘弁してくれよ」
「やーだ」
「はぁ……ったく」
「……それじゃあ、かえろっか?」
「……あぁ、そうだな」
二人の夜はまだこれから――なんてナレーションが入るのかもしれないが、実際のところ、付き合ってもいない二人の家ではご飯を食べて寝るだけだった。皆さんの期待を踏みにじってしまい申し訳ない。ただ、まだまだ二人の同棲生活は終わらないのであった。
——って寒いか。
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