第40話「特別講師3」

第40話


「一つ言っておく。其方、このままでは何も出来ぬぞ。」

「えっ………そ、それはどういう意味ですか?」


俺は突如リーフさんに声を掛けられて驚いたが、それよりもこのままでは何にもならないというのはどういう意味なのだろうか。


「一応聞いておくが、其方は何をしようとしているのだ?」


俺はリーフさんに尋ねられたので、包み隠さずに話した。


「俺は今、自分のマナゾーンを作りたいと思っています。」

「ほぉ、この歳にしてそんな概念を思いつくか……面白い。話してみろ。」


意外にもリーフさんもマナゾーンというものは知らなかったらしく、俺はそこでリーフさんに自分の考えついたマナゾーンのことや俺の立てた仮説のこと、そして空気中のマナを感じて掌握するためにどうすれば良いかを聞いた。


「……それで俺は今の時点で空気中のマナを感じることができないんです。だから先程話した仮説のもと俺は基礎魔法も使えないので、熱魔法という特殊魔法しか使えない俺ならば、単一の魔力しか持たない俺ならば何とかなるのではないかと思ったんです。」


俺がそこまで話すとリーフさんが静止を促した。


「なるほど、其方の頭の良さには驚きを覚えるばかりだ。一体其方が何者なのかを知りたい気持ちもあるが、今は魔法を探求する一戦士として其方に協力をしようと思う。……ではまず其方にこちらから聞こうと思う。其方は先ほど何故私を感知することができなかったのか分かるか?」


リーフさんはそう言って、俺に尋ねてきた。


「うーん……もしかしてですけど、空気中のマナに溶け込んでいた、とかですか?」


「うむ、大体は正解だ。」


俺が質問に答えるとリーフさんは頷きながらそう言った。


「……大体は正解だ。だが、少しだけ違う。それは、ただ単に私だけの力ではないということだ。」


「…そ、それは精霊の力の恩恵もあるということですか?……いわゆる"精霊力"というやつですか?」


俺がそういうとリーフさんは少し驚いたような顔をした。


「うむ、そうだ。私たちエルフは元々魔力やマナに敏感というのがあるが、それ以外にも精霊と契約をするとより自然にあるマナをある程度用いることができるようになるのだ。だが、これを人間がやるのはかなり難しいことだろう。」


やはりそうか、でもそれならどうすればいいのだろうか。


「今其方がしたいのは、自然中のマナを感じて掌握して自分の領域を作る。もしくは、自分の魔力である一定の空間を支配することだろう。」


俺は頷いて肯定する。


「で、今其方が悩んでいるのは、自然中のマナを感じることができないということ。そして、自分の魔力で、ある一定領域内の自然中のマナを外に出し切ることができず、自分魔力で空間を満たしきれないといったところだろうか。」


俺は再び頷いて肯定する。流石はエルフのエリートだ。状況把握が早い。


「ならばやっぱり自然中のマナを感じれるようになり、操作もできるようになるということがベストであろうな。」


「そ、それをするにはどうすればいいですか。」


そうなのだが、それをどうすれば実現できるのか今の俺には分からないのだ。


「うーむ、今すぐには難しいな。だから取り敢えず放課後にラビリンスとともに私のいる屋敷に来い。あいつも必要だろうからな。」


「え、校長とですか。」


何故だろうか、まぁいいけど。


「分かりました。」


「うむ、それと今は出来るだけ魔力を自分の外に出さない訓練をしておけ。それが第一段階となるからな。」


「はい。」


リーフさんはそういうと、次の生徒のところへと向かっていった。


「ふぅ………」


俺はリーフさんを見送ると、早速坐禅を組んで自分自身の魔力を感じ取り、それをどんどんと収めて、抑えていくようにしていく。絶対に体の外には漏れないように。


「きっとこれは自然中のマナをより身近で感じるために行うんだろうな。」


それにしても、自分自身の魔力が絶対に外に出ないようにするだけでもだいぶ至難の業だぞ。いつも自分の魔力を感じとっていて良かった。お陰でそれ自体は簡単にできたな。


***


「お久しぶりですねラビリンス校長。」


「ほっほ、そうですねシンモン七将。では早速行くとしましょうか。」


俺は四限の後の放課後にラビリンス校長と合流をして、馬車でリーフさんたちエルフの滞在している屋敷へと向かった。


「少しリーフから話を聞きました。随分と面白いことを思いついたのですね。」


「え、ええまぁ。やはりミナト先輩に勝つには必要だと思ったので。」


「なるほど、彼の特殊魔法は唯一無二にして最強クラスのものですからね。私も始めて見た時は何も分かりませんでしたしね。」


そんなこんな話していると、綺麗な屋敷が見えてきた。まぁ俺のいる屋敷がデカすぎるせいで少し小さく感じなくもないが、素晴らしい屋敷だ。


「こんにちはリーフさん。」


「うむ、ソラ……とラビリンスだな。」


「なんじゃその間は。」


何だよ仲悪いのか?


「ま、まぁ早速始めるとするぞ。ソラ、まずは庭の木の根元で坐禅を組むんだ。」


俺ははい。と返事をするといつものように坐禅を組んだ。そして、いつもと違って魔力を一切外に出さないようにした。


「うむ、魔力は全く外に出ていないな。普段自分の魔力を使いこなしてよく鍛錬している証拠だな。」


「ありがとうございます。」


「うむ、では次の段階に進むぞ。ラビリンス」


「…虚無迷宮エンプティネス・ラビリンス


うわっ!!ラビリンス校長が魔法を使った瞬間に意識が真っ暗になった。元々目を瞑っていたから視界は真っ暗なはずなのだが、俺が思わず目を開いても視界は真っ暗なままであった。


(……感じるのだ。意識内で自然を意識して、その自然を体で感じるのだ。今の其方自身の魔力が一切使えない状態で自然を、マナを体で感じて同化するのだ。そして、掌握しろ。)


そんな時頭の中にリーフさんの声が聞こえてきた。


「自然……ね。」


俺はそう一言呟くと、頭の中に山々を、小川を、森林を思い浮かべた。


「こ、これは本物の自然か?」


すると俺の頭で思い浮かべた自然が目の前へと広がった。あたりは太い幹の木々で覆われ、木漏れ日が差し込み、小川が流れていた。こんなことができるのは、ラビリンス校長の魔法のおかげだろう。


(そうだ、そして生命力を感じとれ。木々の成長や、生物の営み、そして季節の移り変わりまでも。)


なるほど、そこで俺は近くで一番太い幹を持つ大樹へと手を触れた。そして俺はその大樹の根や、他の木々のつながり、そこに住む生物たちの熱、いや生命力を、イメージして感じ取っていった。


「あっ…たかい?」


あれからしばらくして、俺は何となくだが生命力?のような温かい何かを感じ取れるようになっていた。


「光の玉?オーブだろうか………。」


(オーブが見れるようになったのか。凄まじい成長速度だな。どのくらい見える、どのように見える。)


俺はリーフさんにそう尋ねられた。


「………大地から小さなオーブのようなものがポツポツとたくさん上がっていって、森林の中に満たされていっているような感じです。」


(………そ、そうか。其方は随分とマナに愛されたようだな。よし、そこまでいけば十分だ。今戻すぞ。)


リーフさんがそう言って、俺は気づいたら先ほどいた森林から離れていた。


「もう目を開けて良いぞ。」


はっきりと耳でリーフさんの声が聞き取れて、俺は再び目を開けた。


「なんとか感じ取ることができたみたいです。」


俺は目を開いてリーフさんに声をかける。


「うむ、上出来すぎるといっていいほどだな。其方ほどマナに愛されているのは女王陛下とほんの一握りのエルフくらいであろう。」


そ、そうなのか。まぁこれはあれだろう、完全に"神の加護"のおかげだろう。


「それは良かったです。……それでどうですか?肝心のマナゾーンについては。」


俺がそう聞くと、リーフさんは唸った。


「うーん…其方の成長速度を鑑みたとしても、やはり自然中のマナ操作をするという高度な次元に至るには、最低でも一月以上はかかるのではないだろうか?」


リーフさんはそう言った。

何でもマナを単に感じることをできる人もいるにはいるが、自然中のマナを実戦レベルで用いることはエルフでも一部しかできないし、自然中のマナを掌握・支配するとなればその難易度はさらに跳ね上がるし、リーフさん自身でさえも見たことがないというほどらしい。


「やはり正直なところ、十傑選定戦の試合には間に合わないだろう。」


リーフさんはそう言い、ラビリンス校長も肯定した。


「しかし、鍛錬を続けることは何よりも重要だ。もし其方がマナゾーンを完璧に使いこなすことが可能になれば、文字通り最強となるための近道となることは間違い無いだろう。それこそ強敵を撃ち倒すためにも、大切なものを守るためにもな。取り敢えず明日からもここでマナと交わって、少しずつ掌握していくということに努めるんだ。」


リーフさんは俺にそう言い、鍛錬の初日はこうして幕を閉じた。

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