第21話「アーサーとエミリアの特待生試験」

第21話


そういえばアーサーと会ったのはさっきだからな。どういう風に戦うんだろうか。まぁアーサー同様、エミリアもどうやって戦うのかは知らないんだけどね。俺はそう思いながら舞台に上がってくるアーサーを見つめる。


「アーサー頑張れー!!」


うわ!ビックリした。急に隣でレイヴンス陛下が叫んだのだ。………親バカなのね。エミリアの時は耳ふさいどこ。


"始め!!"


先程と同じように案内役の女の人が合図をする。するとアーサーはさっきのライナーとは違い、速攻はしなかった。アーサーはゆっくりと腰から綺麗で透き通った剣を抜き、構えるとだんだん剣先に光の粒子が集中していくのが見えた。そしてそれにつれ舞台の地面が砕け、石が浮き上がってきた。何て魔力量だ。


"ゴゴゴゴゴォーー"


さらに揺れてきてアーサーの剣が金色に輝いた。あれって聖剣ってやつじゃないのか。

そう思いながら隣を見ると、レイヴンス陛下は「おぉ!」と何やら楽しそうで、レオナルド大将軍は「ほぉ………」と何やら頷いている。そしてニコラス宰相は「これが新たな聖剣継承者ですね。」と言っている。


待てよ、そういえばレイスさんの仲間に聖剣使いの人がいたよな。名前は確か………アーサーさんだったよなレイスさんがマーチャントで言ってたのは。

そうかどちらもアーサーかなんだか運命的だな。


だが準備を整えるのは当然アーサーだけではない。相手は鉄壁を誇るSランク冒険者のグリアモールさんだ。色々な戦場を経験しているはずだ。

俺はそう思いながら今度はグリアモールさんを見る。すると彼は大楯を構えたまま、岩石を纏ったかのように皮膚が分厚そうな鎧と同じ色の黒になった。

これが金剛なのか?と思っているとニコラス宰相が


「これは金剛ダイヤモンドといってグリアモールさんがよく使う技ですね。これを使ったグリアモールさんは随一の硬さを誇ります。」


と説明してくれた。それを聞いて、そうなのか。と納得していると、今度はレオナルド大将軍が「来るぞ」と一言だけいった。


まず先に仕掛けたのは意外にもグリアモールさんの方だった。グリアモールさんは背中からあの巨大な大剣を取り出し走り出した。ちなみに片手には大楯を、もう片方の手には大剣を持っている。何でそんなデカいの二つ持って走れんだよ、と思ったが今はそれよりアーサーがどうするかだ。


グリアモールさんが走って迫ってくる中、アーサーはまだ魔力を溜めるというか凝縮、集中させていた。それにつれ輝きもどんどん増し、アーサーの剣の刃まわりには覆い被さるようにして第二の光の刃が形成され始めた。


「なんて密度だ。」


俺はそう言ってと息を飲んだ。


"ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!"


アーサーにグリアモールさんが迫っていき、グリアモールさんは魔力をはらませた黒くて硬そうな大剣をアーサー目掛け振り下ろした。それにしてもグリアモールさん全部黒でマジで金属みたいだな。


グリアモールさんがアーサー目掛け振り下ろした大剣がアーサーにもの凄いスピードで迫る。俺は本当に大丈夫なのか!?と思い、おもわず立ち上がる。が、それは杞憂なようだ。

アーサーはゆっくりと目を開け、まるでこのタイミングを狙っていたかのように光の大剣を振り抜いた。そして、アーサーの振り下ろした光の大剣はまずグリアモールさんの大剣に接触した。そしてそれは音もなくグリアモールさんの大剣を切り裂いた。


「マジかよ………魔力高密度すぎるだろ。」


あのめっちゃ硬そうなやつを切り裂くなんて………どれだけ高密度で光の量子が高速で動いているんだ。あぁーエグいな。


続いて光の刃はグリアモールさんの大楯に接触する。これもすぐ切られるんじゃないか。と思っていると、案の定スパッと切られた。

これであとはグリアモールさん本体だけだ。それはいいんだが、あのままじゃ死ぬんじゃないかグリアモールさん。

どうなるんだろう………いやでも危なくなったらアーサーも流石に止めるよな。


そう俺が考えてながら見ていると、グリアモールさんは急に拳と拳を合わせ"ガツンッ!!"と音を立てた。

するとグリアモールさんはさらに黒くなっていった。なんやねん、そうなるんかいw。

しかしそれだけでなく、グリアモールさん自身の目の前に巨大な黄金の壁が出現した。そして、その壁とアーサーの光の刃がぶつかった。


"ガキーーーーン"


とてつもない金属音が鳴った。どうやら今度はスパッとは切れないようだ。凄いな、流石はSランクの防御自慢だけある。

それから少し経っても、ずっとグリアモールさんの方がアーサーの攻撃を凌いでいる。すると、急にアーサーが膝から崩れた。こりゃ魔力切れというやつかだろうか。急にアーサーから圧みたいなものがなくなったが。

その証拠に隣ではニコラス宰相が「魔力切れのようですね………」と言っている。


"試験終了!!担架持ってきて!!"


アーサーが倒れてまもなくアーサーは先程のライナーと同じく、担架で運ばれていった。だがまぁアーサーの場合、怪我はなさそうだし心配はいらなさそうだな。まぁレイヴンス陛下はとても心配そうにしているが………


それにしてもやはり"金剛"という二つ名のだけあって本当にスゲェな。それにアーサーの光の刃を最後まで通さなかったあの壁。どれだけ高密度に創り出しているんだか。

俺はどうやってあれを崩そうか……。俺が考えていたら入り口から今度はエミリアが出てきた。さっきも言ったが、エミリアの戦いを見るのも初めてだ。


***


「さて、今度はエミリアの番だな頑張れよ。」


俺が言い、隣を見るとレイヴンス陛下はまたアーサーの時のように「エミリアーー!頑張れー!」と言っていた。


"始め!!"


毎度のごとく案内役の女の人は言った。するとエミリアは一気に駆け出しグリアモールさんの方へと向かっていった。どちらかと言うとライナーに近いが、ライナーとはまるで違うな。流石姫将軍と呼ばれるだけあって動きが洗練されていて無駄がないな。

エミリアがグリアモールさんに迫っていく中でグリアモールさんは予備でも出したのだろうか?新しい大剣を取り出した。そしてその大剣を振り回した。しかしエミリアはそれをものともせず、その美しい流れるような動きで全てかわして、グリアモールさんの背後を回り込んだ。


それを見て俺は思わず「凄いな……エミリア。」と言ってしまった。だがそう言ってしまうほど美しい動きだったのだ。


グリアモールさんの背後に回り込んだエミリアは刃にかなり鋭利な氷を纏わせ斬りつけた。だがグリアモールさんはそれを全くものともしていなかった。それはさっきアーサーの時に使った金剛ダイヤモンドの効果だ。それを見たエミリアはすぐさま後ろに退避し、地面に剣を突き刺した。


"ビキーーーーーン、ズザザザザザ!!"


そうすると地面から巨大な氷がグリアモールさん目掛け迫っていった。正直アーサーには劣るが、これもまた凄い高度な魔法だ。そう、それはこれでやったか。と思えるほどに。

だが相手はSランク冒険者で騎士団の教官も務める強者だ。そんな簡単にはいかない。


というか今気づいたけど、これって師匠対弟子的な構図になるのだろうか。


今度はグリアモールさんが地面を殴りつけた。すると地面から岩石の柱が


"ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!"


とエミリアの出した巨大な氷を砕きながら、今度は岩石柱がエミリアへと迫っていった。


「まずいな、岩石に氷じゃ分が悪いな。」


氷は元は水だからな。金属とかを中心としているものには勝てるわけがない。

……さて、どうするエミリア。


俺たちが見守っていると、エミリアは迫り来る岩石柱を回避するために走りだした。それもただ走るだけでなく、氷の霧のようなものを発生させながら走ったのだ。これは頭いいな、視界を遮ったぞ。


それから少し経って、突如エミリアがグリアモールさんの前に現れた。そしてグリアモールさんはそれに対して攻撃与えるべく大剣を振る。だがエミリアも大剣を止めるため、即座に一歩下り大剣を地面と凍りつかせ固定させた。


「これはとっさには思いつかないな。凄いやエミリア。」


そして剣を固定させたことで一気にエミリアはグリアモールさんの懐に入り込む。そしてエミリアはグリアモールさんに斬りかかった。だが次の瞬間、


"ドゴーーーーーーン"


と言う音が鳴り響くとともに、エミリアが吹き飛ばされた。


「マジかよ………」


何とグリアモールさんはエミリアが固定したはずの大剣を腕力で無理やり、それも即座に引き抜いてエミリアを吹き飛ばしたのだ。

幸いにもエミリアは吹き飛ばされたあと普通に立てていた。だが、


"試験終了!!お疲れ様でした。退場して下さい。"


という声が掛かった。このままでは勝ち目はないと思われたからだろうか、それとももう十分だからだろうか。まぁどちらにせよアーサーもエミリアもあれだけ戦えていたから余裕で合格だろうな。

そう言えばだけどさライナーの時と比べてアーサーとエミリアの時ガチでやりすぎやろ。いくら強いとは言え同じ特待生試験じゃないのかね。まぁ俺は文句なんか言えないんだけど。


***


それからは残りの四人の特待生の試験だったが、なんというかエミリアやアーサーに比べ白熱しなかったし、正直見ごたえがなかった。やはりこの様子じゃアーサーとエミリアは間違いなく受かりそうだ。とりあえず良かった。

………さて次はようやく俺の試験だ。


「緊張はするけど楽しみだな。」


そう言って俺は観客席から立ち上がる。すると、


「ソラ殿も頑張ってくれ。」


「ソラ殿、頑張って下さい。」


レイヴンス陛下とニコラス宰相が言ってくれた。俺はそれに頷くと観客席出口へと向かい、階段を降り、舞台入り口へと向かった。

そう言えばレオナルド大将軍の姿が見えなかった気がしなくもないが………気のせいだよな。

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