第14話「スターリングウォード避難民」(レイス視点)
第14話 レイス視点
ソラに叱咤激励されたあと、私は我に返ってソラの言う通り、私の出来ることをしようと思った。
「私はこの街の冒険者協会、ギルド長だ。私に出来ることをしよう。」
そう言って私は自分の頬を"バチン!!"と叩いて、自らを鼓舞した。
***
私は自身を鼓舞したあと、冒険者協会に一度むかい、ギルド職員に各地で集合している冒険者、傭兵、騎士団を再度西門に集結させるように指示をした。
指示を出してからしばらくして、私は皆んなが集まる西門の城壁の上へと来ていた。
様子を見ると、まだ全員が集まるには時間がかかるようだ。またそれに、冒険者、傭兵、騎士団だけでなく異変に気づいたのか民間人も集まりつつあった。
そんな中、魔の森の方から爆発音がしてきた。何とソラはあの黒龍相手にまともに戦っているのだ。しかもよく見ると黒龍を押さえつけているでように見える。…………本当に凄まじいやつだな。
「………ソラは私たちのために命を削って戦ってくれているんだ。よし、私も早く自分に出来ることをしよう。」
そう言って私は城壁の下にいる人々を見据える。
「ちゅぅーーーもぉーーーく!!!!!」
私がそう叫ぶと、ほぼ全員が私の方を見た。それだけでなく、民間人も出てきた。
「皆んな、落ち着いて聞いてくれ!!私は冒険者ギルドのマスターであるレイスだ!!冒険者、傭兵、騎士団の皆んなはもう知っていると思うが、今は
私は冷静に、伝わるように指示をしていく。そして私は頭にソラのことを思い浮かべてこう言った。
「……今私が一番信頼する最強の冒険者が戦っている!!でも、事態が事態なので被害がどのくらい出るのかは正直のところ分からない!!だからどうか避難に協力してほしい!!」
私がそう叫ぶと城壁の下がザワザワとし始めた。戸惑うのも無理はないだろう。だがやはり、神話級のことについては言わなくて正解だったな。もし話していれば、もっと混乱していたり、勝手に走り出す人とかもいたかもしれないからな。
そんな人々の様子を見つつ、私は冒険者協会の職員たちに声をかけ、出来るだけ早く避難誘導する様に指示を出した。いつここが危険範囲に入ってもおかしくないからな。
「ではソラ、私たちは少し早くいくぞ。………絶対に戻ってこい。」
私はそう言って戦っているソラから目を離し、私も避難誘導などをするために城壁から降りていった。
***
「もうこの家には誰もいませんかー?」
「慌てないで下さーい。こっちでーす。」
今も着々と冒険者協会の職員たちが、避難要請、避難誘導をしている。
そこで私たちは今、王都の方向へと向かうために北門へと向かっていた。
「よし、それでは北門を開門しろ!!冒険者、傭兵、騎士団は民間人を囲むように護衛するように!!」
ついに開門し、王都の方向へと進み始める。それにしても大都市なだけあって、私が想定をしていたよりも人数がかなり多かった。この様では統率が取り切れるかが心配なところだな。
ならば安全を取るために三部くらいに分けるのが良さそうだな。そう私が考えていると私に声がかかった。
「レイスギルド長、お疲れ様です。あの、人数が多いので分けた方がいいと思うのですが。」
「ん、あぁローズ副団長か。うむ、私もそう思っていたところだ。ちょうど三部くらいに分けるのがいいのではないかと考えていた。なのだが、それぞれの統率者が問題でな。一人を私としたら、もう一人はローズ副団長として、最後の一人はゲルド団長にやってもらいたのだ。だがそうすると騎士団から代表者を二人だしてもらうことになるのだ。……でも、だからと言って正直傭兵と冒険者から代表を出すのは難しい。だから騎士団には申し訳ないが引き受けて欲しいのだ。どうだろうか?」
「はい、勿論です。というか私もそう考えていました。それではすぐにゲルド団長に伝えてきます。………あ、そういえば戦っている最強の冒険者って誰のことなんですか?ゲルド団長もとても興味深そうにしていたので。まぁ
まぁ彼女には言ってもいいか。それにゲルド団長の耳にも入れておいた方がいいしな。
「ちょっと来てくれ、話すことがある。これは確実にゲルド団長の耳にいれてくれ。だがゲルド団長以外には情報は絶対に漏らさないでくれ。」
私はそう言って、ローズ副団長と一緒に避難をしている隊列から離れた。
「ローズ副団長、実は今起こっているのは単なる
「それで………ゴクッ。」
ローズ副団長は固唾を飲みながら私の話を聞く。
「それで倒してきた者が、ネクロマンサーが深層から追い出されたと言っていた、と言ったんだ。それで今、従来の
私がそう言うと、ローズ副団長は驚きのあまりバランスを崩して馬から落ちそうになっていた。
「そ、それは本当なのですか?もし本当なら、この国どころではなく、周辺国含め半壊もしくは全壊するかもしれない程の事態ですよ。それに神話級に冒険者一人で勝てるわけが…………。だからとりあえず避難させているというわけですね。ではその冒険者が時間稼ぎを………感謝しなければなりませんね。」
ローズ副団長が顔を俯かせた。だがまぁ今のを聞いたら普通はそうなるだろう。だが戦っているのはソラだ。私が信頼して、あれほどの敵に打って出ることを私が信じて送り出したあのソラだ。だから絶対に……大丈夫だ。
「あぁ私たちは本当にその者に感謝すべきだ。だがその者はただ皆んなのためだけに自死しに行ってなどいない。」
私がそう返すと、余程予想外な答えだったのか、ローズ副団長は「へっ?」と言うばかりだった。
「だって今黒龍と戦っているのはネクロマンサーを単騎撃破した者だぞ。簡単にくたばるわけがない。それにソラ、その者はは私に言った。勝算があるから戦う、その上で私たちを守ると。まぁここまで話してしまったから言うが、ローズ副団長はもう既に一度会っているぞ。」
私が言うとローズ副団長は首を傾げて考えだした。
「誰だろうか?最近ですか?」
「うむ、つい昨日、いや一昨日だ。ほら、男のことを殴って城壁に叩き込んだことがあっただろ。あの時、殴った側というか爆発を起こした奴だよ。」
するとローズ副団長は納得したあと、驚愕するような表情を浮かべた。
「あぁ……えぇっ!?あの男ですか!?……でも確かあの時まだ冒険者になってないって言ってませんでしたか?」
私はローズ副団長を落ち着かせつつ、肯定する。
「うむ、確かにそう言った。だが、ローズ副団長、アイツは正直別格だ。とりあえず私の知る限りでは一番強い。それこそ伝説の
私がローズ副団長にそう言うと、「はい。」と一言だけ言ってゲルド団長の元へと向かって行った。
ローズ副団長と別れてから、次第にグループが三分割されてきた。
「………よし、ちゃんと分かれてきたな。どうやらゲルド団長とローズ副団長がそれぞれ上手く分かれてくれたようだな。」
これで統率も取りやすくなって、移動もしやすくなることだろう。
また私たちがそうやって移動している時でも、背後からは"ドーーーーン"だとか激しい戦闘音が鳴り響いているのが聞こえてきている。勿論そんな激しい戦闘音を聞いて不安にはなるが、その激しい爆発音はまだソラが生きて戦っているということの証明にもなる。ならば私たちはいち早く、ソラのためにも早く避難するとしよう。
***
避難を開始してからしばらく経って、もうすでにスターリングウォードが見えなくなり始めた頃、前方の方が煙立っているのが見えた。
「何だ、何が来ているんだ。魔物の大群かなにかか?いやでもこんな街の近くに、しかも王都に続いていて人が作った道に魔物の大群なんか出るものだろうか。まぁだが正体が分かるまでは警戒態勢を取った方がいいな。…………警戒態勢!!」
私がそう言うと、皆んなその場で立ち止まり、騎士団や冒険者たちは武器を構えた。そして私たちは、こちらに向かっている何かの正体が分かるまでの少しの間待っていると、何やら人影が見えてきた。
「あれは………なんだ?
……………え!?ひ、姫!?」
私はとても驚いた。それこそ先程のローズ副団長の様に、馬から落ちそうになるほどに。
だがそれも無理はないだろう。なんせこちらに向かって来ていたのは、このハルバート王国の第二王女であるエミリアだったのだから。
彼女はこの国でも姫将軍と呼び声が高く、臣下からの信頼もかなり厚い。第二王女なのにも関わらず、王位継承の可能性も高いとされているほどだ。
「レイス殿、お久しぶりです。先制避難の誘導お疲れ様です。」
「うむこちらこそお久しぶりですね、エミリア第二王女殿。私たちはこのまま王都の方向に向かって避難を続けるつもりですが、ここの近くで夜を越すのに良いところはありませんか?」
「そうだなぁ………ここから少し王都というか北に向かうとスターリングウォードとの交易街があったはずだ。そこに行くのはどうだろうか?……………
というかそんなことよりレイス殿、そんなよそよそしいのはよしてくれないか。前みたいにエミリアと呼んでくれてよいのだぞ………。ってまぁ今はそれどころではないか。……それで
「うむ、エミリア王女の耳にも入れておくべきですね。少しついて来てくれますか?ここで話すと周りにも混乱を招くので。」
「分かった、ついて行くことにしよう。近衛騎士団員に告ぐ!!これより
エミリア王女がそう言ったあと、エミリア王女は私に「行きましょう。」といい私たちは隊列から外れた。
***
「レイス殿、それで何故私を呼び出したのだ?
あぁそれは最もだな。私はただ
「うむ、ここではもう敬語は省かせてもらうぞ。……実を言うとだな。エミリア王女達が到着する前にもう
「えっ!?今戦っている者はもうすでに
「おーいエミリア王女?まぁ普通
そう言って、私はエミリア王女を宥める。
「今一人で戦っている者はソラという、つい二、三日前に冒険者になった者だ。ただ勘違いしないでくれ。何も捨て駒などではない。間違いなくソラは私の知るなかで最も強い。だから私は彼に託した。そして彼もそれを了承し、望んだ。今起こっているのは彼にしか託せないようなことなのだ。………そうだな端的に言うと今回の
するとエミリア王女は顔を青くした後、怒ったかのような顔をして言った。
「でも…それでも……いくら強くても一人でなんて無茶な。相手が神話級ならば、国一つ滅ぶレベルなのだぞ。ならなおさら私たちが早く行かないと!」
どうやらエミリア王女はソラを心配して、というか神話級をちゃんと討伐するためを焦っているようだ。
「うむ、その者のおかげで護衛の人員は十分に足りているから行ってもらって構わないが、エミリア王女と近衛騎士団たちも十分に注意してくれ。本当に神話級が出たのだからな。」
「そ、そうだな。肝に銘じておく。とにかく私たちは今から神話級討伐のためにスターリングウォードに向かう。」
私は分かった、と声をかけて去りゆくエミリア王女たちを見送った。
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