第11話「レイスの過去」(レイス視点)

第11話  レイス視点


私は元々Sランク冒険者として活動をしていた。今でこそ引退をしてはいるが、現役時代は頼もしい仲間たちと共に学び、命を預け合ってダンジョンを回るなどの過酷でも充実していて楽しい日々を過ごしていた。

私がダークエルフという種族で人と比べて長寿族であるということもあるが、それでもそんな日々が引退するまでずっと続くと思っていたし、続いて欲しいと思っていた。

しかし、そのような頼もしい仲間たちと切磋琢磨して奮闘できる日々は、あっという間に、それに突然に終わりを告げた。

………そしてその原因は、とあるEXランクの"神話級"の魔物にあった。



私たちは当時Sランク冒険者の仲間が集まった、いわゆるSランクパーティーとして注目を集めていた。今自身を振り返っても、当時の冒険者協会でも中心・柱としての役割を担っていたと思う。

そうであるからこそ、私たちは攻略不可能と言われていた超高難易度ダンジョンや魔の森の深層にも積極的に挑戦したり、パーティーメンバー全員と力を合わせて全力を尽くしてSランク魔物などの高ランク魔物を倒したりしていた。

そんな中、私たちに舞い込んできた任務があった。


「ふむ、新しくできたダンジョンの調査か。」


それは新しく発見されたダンジョンの攻略である。

私たちはその依頼に対して準備を怠ることなくいつも通りに対策もして向かった。


***


「さぁ皆んな!今日もチャチャっと攻略して宴会するぞ!!」


そういうのは私たちのパーティーのリーダーで"聖剣使い"といわれているアーサーだ。

私たちSランクパーティーのパーティーメンバーは彼が集めた。だからこのパーティーも彼を中心に機能している。さらに言えば、元々私たちのパーティーが注目されるようになったのも彼のおかげであった。


そんな私たちは、そんな彼の掛け声でやる気を出して早速ダンジョンに足を踏み入れていった。私たちはいつも通りにすぐ浅い層を攻略し、深層に向かうという作戦だったのだが異変はすぐに現れた。何とダンジョンに入口から、真っ直ぐな一本の通路がずっと奥まで続いているだけなのである。これにはパーティーリーダーのアーサーや私を含め、パーティーメンバー皆んなが違和感を感じた。

そもそもダンジョンとは普通入ってすぐのところに部屋のような空間があるか、短い道がありすぐ魔物のいる空間に出るか、このどちらかのパターンなのである。


「どうする?とりあえず警戒をしながら進んでみようか?」


アーサーが私たちに声をかける。すると皆んなも頷いてダンジョンの奥の方へと進んでいく。その後も私たちはずっと警戒をしながら通路を進んだ。

しかし結局、通路には何もなくただただ道が存在しているだけであった。それからもしばらく進み続けていると、やっと長かった一直線の通路を抜けた。


「さぁ、やっと抜けたぞ!ここはどうやら部屋のようだ。このまま警戒は解かず、敵が現れ次第すぐに狩るぞ!!俺たちなら何が出てきてもやれる。」


アーサーが私たちに声をかけ、皆は臨戦態勢を維持しながら普段のダンジョンとは比べ物にならないような大きな空間へと足を進めた。


だが、私たちはまだ知る由もなかったのである。今まで称号をほしいままにし、常に魔物に対してずっと"狩る"側であった自分たちが一瞬にして"狩られる"側にまわるということを。


私たちはだだっ広い空間を少しずつ進んでいると、奥で何やら黒いものが蠢いている気がしたので、私はパーティーメンバーに声をかけると明かりのために炎魔法を打ち上げた。


"ヒューーーー………ボンッ!"


私の放った魔法は音を立てながら天井かと思われるところまで上がっていき、小さな爆発を起こした。

全員で周囲を警戒していると、パーティーメンバーの一人が急に怯えるようにしてうずくまった。私やアーサー含めパーティーメンバーが怯える彼女のところに行って声をかけると、彼女はうずくまったまま弱々しくまた真っ暗になった空間を指差した。


皆んなで彼女の指差した方向を見ると、急に黄色い大きな目のようなものが見開かれるのを見た。

それを見て私を含むパーティーメンバーも、うずくまっている彼女同様、とてつもない恐怖感に襲われた。皆んなの頭の中を一体あれはなんだだとか、怖いだとかいう感情が駆け巡るなか、アーサーが叫んだ。流石は聖剣使いで、Sランクパーティーのリーダーだ。彼は私たちとは違い体が硬直していなかった。


「皆んな立て!!立ち上がれ!!戦え!!死ぬぞ!!」


彼がそう私たちを鼓舞するが、立ち上がれる者はいなかった。そんな私たちを見てアーサーは必死に巨大な何かの注意を私たちから自分に向けようとしているが、私たちはそんな様子をただ見ていることしか出来なかった。


そしてその後ついに巨大な魔物の正体が明らかとなる。


「クソッ一人でもやるしかない!!」


アーサーは叫び、自身を震わせるとともに自身の魔力を愛剣へと込めていく。そうしていくにつれて彼の剣には大きな金色のオーラを纏っていった。

それこそが私たちのパーティーのリーダーであるアーサーが聖剣使いと呼ばれる所以だ。

それからアーサーが聖剣に魔力を注ぎ終え、全力ともいえる攻撃を放った。

どうやらすぐそこにいる魔物はアーサーの攻撃を正面から受けるらしい。


「いっけぇーーーーーー!!!!」


アーサーの全力で踏み込んで放った攻撃が黒い大きな魔物であるナニかに当たり、私たちはその瞬間に勝利を確信した。

だが、アーサーの放った攻撃によって激しい光の中から姿を見せたのは、想像していた大きな魔物の死体ではなく、激しい雷を自身に纏いはじめた巨大な"黒龍"であった。


私たちはこの黒龍が目の前に現れた瞬間即座に、「私たちはここで死ぬんだな」と思った。

だがそんな中、目の前で戦っているアーサーただ一人だけはまだ諦めていなかった。それどころか、彼は諦めないで戦うだけじゃなく、私たちをこの場から逃がそうとさえしたのだ。


「おい、皆んな今すぐ出口の方に走れ!!俺とコイツが戦ったらすぐにこんなとこ崩れちまう!!分かるだろ!!コイツはSランク魔物なんてレベルじゃない!!EXランクの神話級だ!!だから皆んな早く行け!!………早く!!!」


アーサーはもうまるで懇願するかのように私たちに向かって叫んだ。すると私たちはあまりにも本気な彼に圧倒されたからか、身体の硬直が解けた。そしてすぐさま私たちは、このダンジョンの出口を目掛けて全力で走った。そんな走っている最中、アーサーから声が聞こえた。


「皆んな最後のリーダー命令だ!!どんなに傷ついても、惨めになったとしても、とにかく生き残ってくれ!!!」


私たちはその言葉を背にしつつ、アーサーがこのままでは死ぬということも理解しつつ、私たちはただただひたすらに出口の方へと走った。

その後私たちは何とか出口へとたどり着くことができた。だが直後に大爆発が起こり私たちは吹き飛ばされた。

それはとても大きな爆発で、皆んなは私の後ろを走っていて、私も振り向かずに走っていたから、皆んなも今の大爆発に巻き込まれてアーサー同様に死んでしまったかもしれない。

私は爆発で吹き飛ばされた後、必死にアーサーや他のパーティーメンバーを探したが結局見つけることは出来なかった。………そしてその瞬間私は、私以外のパーティーメンバーは皆んな死んでしまったのだと理解した。


***


あの日以来、私たちSパーティーは事実上の解散となり一時衝撃ニュースとして世界中に広がった。

そしてただ一人生き残った私は、一時病んで鬱状態になりかけたていたが、アーサーの言葉を胸に刻んでしばらくの間再び冒険者活動に勤しんでいた。

その後私が単独で冒険者活動をしていた頃、当時の王都のギルド長に、「君は実績もあるし、今一人なら空席となったスターリングウォードのギルド長をやってみないかい?」と声をかけられた。

正直、私も一人での冒険者活動は色々と疲れていたし、限界もあるし、人ともちゃんと向き合って関わっていきたいと考えていたので、ありがたくこの話を受けることにした。

そして今度は運営側として、しっかり冒険者を導き、絶対にら死者が出ないようにしようと心に誓った。


***


私がスターリングウォードのギルド長となってそれからしばらく経ってから、周りからの信頼も得られ業務も落ち着いた頃、ソラという少年は私の前に現れた。

普通は冒険者協会にきた新人の名前なんて一人一人は覚えている時間などなかったが、彼の場合は何よりファーストインパクトが大きすぎた。

私が冒険者であったということもあって、ランクが高い冒険者は傲慢になりやすく、低ランク冒険者を下に見る傾向があるということは知っていた。それが特に顕著に見られたのが、最近成り上がってきてBランク上位まで上り詰めた"龍の牙"の団長であり、"雷龍"と呼ばれているベルリオンだった。

彼は確かな実力を持ってはしたものの、無理矢理低ランク冒険者を従属させるようなことをさせたりしていたのだ。しかし協会側も直接的な被害届が出されないとこちらも何も対処することができなかったのだ。だから私たち協会側も頭を悩ませていた。そんな時にソラは台風のように現れたのだ。


彼は冒険者になってもいないのに、エレナによるとなんと2発殴っただけでベルリオンに勝ったらしい。

それだけにとどまらず彼は初任務にて、かつて私たちSランクパーティーでもやり遂げられなかった、Sランク魔物の単騎撃破をやってのけたのだ。こんな事はちゃんとした実力がないと、たとえ運が良くても絶対に起こり得ないのだ。

なんせSランク魔物はSランク冒険者が数人いても倒せない場合があるほどであるし。またそれは私もSランク冒険者として日々魔物と戦っていたからこそ、ソラの規格外さを理解していた。


そう私はソラの規格外さを理解していたはずだった。だがソラは私の想像の遥か上をいっていた。ソラが私にステータスを教えてくれた時なんて、もう気を失いさえするかと思った。まぁネクロマンサーを単騎撃破するくらいであるから、ステータスは軒並み化け物であろうと思ってはいた。だがソラのステータスは化け物というには温過ぎるほどだった。


魔力はネクロマンサーを倒すくらいだから、かなり高いとは思っていたが、全く何なのだ魔力が無限とは?彼が魔力を込め続けて魔法を使い続けたら一体どうなってしまうんだ?それに知力が測定不能だとか、もう訳がわからん。魔力が無限で、知力も底が知れないときたら、もう一言でいうと"無双"状態じゃないか。


本当に化け物だな。攻撃・防御・体力のいわゆる基礎ステータスは、まだ上位冒険者ではあるが人の域であったことに安心したが、人の域にとどまっているとはいえ全く鍛えていない状態で一般兵の2.5倍くらいのステータスだ。全くどうなっているんだか?


そんなこんなで私もかなり驚き混乱していた。だがそれと同時に私は彼のことを希望だとも思っていた。もしかしたら、彼ならばやってくれるのでは……と。


***


そんなときに、魔物大暴走スタンピードが起こった。もしソラがネクロマンサーを倒してくれていなかったら、私たちは気づいてすらいなかっただろう。

だがそれにしても今回の場合はかなり不味い。普段の魔の森において、ボスキャラ的な存在であろうネクロマンサーが深層から追い出されたのである。つまりネクロマンサーよりも強い何かが魔の森に現れたということになる。

私はそんな感じで今回の魔物大暴走スタンピードのボスキャラばかりを気にしているが、その前に街に迫ってくる、大量の魔物たちもかなりの脅威である。未だに王都とかからの救援もまだ来ておらず、戦力が固まっていない今のままでは簡単に滅ぼされるだろう。

だが結果的にこのような心配は杞憂に終わった。なんとソラが一人で飛び出して行ったと思ったら、大爆発を起こし、魔物たちを宙へと舞わせ、竜巻を起こし、最後にまた大爆発を起こし魔物たちを殲滅したのだ。

本当に何なのだソラという人間は。いや、人間なのか?規格外にも程がある。それに頭もかなりキレるようであるし。


やっぱりもしかするとソラなら神話級にすら、いつしか手が届くかもしれないと私は希望を抱いた。

しかし私はそんな日に奴を目の当たりにしてしまう。この世で一番見たくないものを。あの日私たちの仲間を全滅させたアイツを、あの黒龍を。

どうやらソラが私に必死に声をかけてくれているようだが、どうしても私はアイツに対する恐怖心を抑えることができない。

………なぁ私はどうすればよい?アーサー…教えてくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る