第10話「スタンピード」

第10話


魔物大暴走スタンピードねぇ。異世界ものの小説でもよくあったような気がするけど、今の俺はいわゆる大規模殲滅魔法が使えないんだよなぁ。」


俺は銀の帽子亭の自室に戻り、ベッドの上で一人ぼやいていた。さっきも言ったが、今の俺には魔物大暴走スタンピードで街に迫ってくる大量の魔物を一気に殲滅できるほどの魔法を持ってはいないのだ。


「でもまぁ今日はもう寝よう。明日以降に備えておかないといけないしな。」


そう言って、俺の今日という激闘の一日は幕を閉じた。


***


"ドンッ、ドンッ、ドタバタ、急げあっちだ!!"


俺が寝てからどれくらい経っただろうか?そんな慌てたような音や声が外から聞こえてきた。それを聞いて俺は飛び起きた。


「何だ……!もしかしてもう魔物たちが街に迫ってきてるのか!?」


何にも分からないまま、取り敢えず俺は窓を開けて外の様子を見る。まだ外は日が出始めているかいないかの瀬戸際のような時間帯だ。


「何だ何だ……騎士団がもうすでに動いてんじゃん。それに、騎士団以外にも武装した奴らがめちゃくちゃ集まっていってるな。格好的にあれが傭兵やら冒険者やらか。まぁいい、俺も早く行かなくちゃ。」


そう言って俺は着替えたり、最低限の準備をしてから部屋の窓から飛び出て、熱強化ヒートアップをレベル3で掛け、建物の屋根を飛ぶようにして駆け、昨日も行った西門の方へと急いだ。



部屋の窓から飛び出てから、その後すぐに西門へとたどり着いた。そこにはもうすでに、騎士団やら冒険者やら傭兵やらが大勢集結しており、作戦本部かと思われる場所で部隊編成や、どの部隊をどこに割り振るかなどの作戦会議が行われていた。

俺はそんな様子を見つつ、その中にいるであろうレイスさんを探した。


するとしばらくして俺は、レイスさんが高い城壁の上に武装した姿で立っているのを見つけた。


「いつもと格好から雰囲気から違うから、全く気づかなかった。まぁ取り敢えず俺もレイスさんのところに行くとしよう。」


そう言って俺は今度は熱強化ヒートアップをレベル5で掛け、城壁の上へとジャンプした。


「ふぅ、ひとまず城壁の上にはたどり着けたな。レイスさんのところに急ごう。」


何とかジャンプで城壁の上に登ることができた。だいぶ高かったが意を決して飛んで良かった。さてそれでは急いでレイスさんの元へと向かう。


「レイスさん、おはようございます。外が騒がしかったので飛び起きてきました。……それより今はどんな状況ですか?」


「あぁ、ソラおはよう。うむ、やはり私が昨日ソラに言った通りすでに森の中で魔物大暴走スタンピードは始まっていたようだ。それに恐らくだが、もうすぐ魔物たちが森から出てくる頃合いだろう。」


「そうですか……。それでこちらの戦力はどのくらいなんですか?戦いきれそうですか?」


俺が聞くとレイスさんは唸って、また深刻そうな顔をした。


「うむ、取り敢えず今はこのスターリングウォードで集められるだけの戦力をかき集めている段階だ。王都含め、戦力の派遣の要請はもう昨日の時点で出したが、正直もう間に合わないだろう。だがいくらスターリングウォードで戦力をかき集めるとしても、魔物大暴走スタンピードを乗り切るための戦力には全然届きそうないし、そもそも部隊編成とか割り振り、作戦会議が終わっていない今、とても戦えるような状況ではない。だから住民だけでも逃してやりたいが、外は逆に危険過ぎてそうすることもできそうにない。」


レイスさんが言った瞬間、森全体がまるで協調するかのようにして、"ザワッ"と揺れたように見えた。


「レイスさん、今森全体が揺れたように見えませんでしたか?」


俺はレイスさんの方を見ると、先程よりもかなり深刻そうな表情をしていた。


「あ、あぁ。ソラ遂に始まるぞ魔物大暴走スタンピードが!」


「えっ、で、でもまだ部隊編成とかって全然なんじゃ…………。」


「あぁだがもうすぐに魔物たちが街の方にすごい速さでこちらに迫ってくるのだ。戦うほかない。」


レイスさんはそう言うがどうしようか。今はまだ戦力が集まりきっていないし、編成や作戦なども決まっていない。

今すぐに動けるのは俺一人、か。というかこの状況的に俺がやるしかないのか。


「レイスさん……………」


「どうした、何かまた変化でもあったか?何か気づいたことがあったらすぐに言ってくれ。今は一刻を争うからな。」


「いえ、そうじゃないですレイスさん。………もしかしてこの魔物大暴走スタンピードには魔物達の波、つまりは第何波とかあるのではないですか?」


俺は思考を巡らせながら、レイスさんに質問をする。


「う、うむ。確かにあるにはあるが……それがどうかしたのか?」


俺はレイスさんの答えを聞いて、さらに決意をした。


「レイスさん……確証はないし保証も仕切れないです。ですけど今はこんな状況です。だから第一波は…俺が何とかしてみます。」


「ダメだ!!ソラ。今この場の最大戦力は恐らくソラ、其方だ。今ソラがいなくなったら、本当に勝てなくなるぞ!」


俺はそれを聞いて、レイスさんの意見も一理あるとは思った。だがそれでは街が突破されてしまう。


「でも今すぐに戦場に出れるのは俺かレイスさん、もしくは集まっている人たち個人個人です。つまり統率された戦はできないんですよ。それはレイスさんも重々承知のはず。なら、俺が行くのがベストです。だからレイスさんたちは第二波以降の魔物大暴走スタンピードに集中してください。それが最適なはずです。」


「…………分かった…だが約束してくれ、ソラよ、間違っても下手に死ぬなよ。この街のためにも、お前のためにも、私のためにも。」


俺はレイスさんの答えを聞き、先程よりも揺れ動いている魔の森の方を見た。


「大丈夫ですよ、僕は臆病ですから。死にそうになったら直ぐに帰ってきます。行ってきます。」


***


俺は、熱強化ヒートアップをMAXレベルの10で掛け、さらにレイスさんにもらったチート魔道具"灼熱の魔眼"をつけ城壁から飛び出す。

実は昨日の夜に少し確認したのだが、俺が"灼熱の魔眼"をつけると赤黒色だった宝玉が、真紅に染まったのだ。それにステータス画面でも確認ができた。

なので実質、今の俺は熱強化ヒートアップがレベル100でかかっているのと同じということになる。そしてさらにステータスはというと基礎ステータスの分だけでも、一般兵の200倍以上となっている。


「さて、それじゃあまずは景気づけに一発ぶちかますとするか!!超新星爆発スーパーノヴァーーーー!!!」


俺は城壁から飛んだことを利用して、魔物たちがうじゃうじゃと集まっている地面に向かって全力で超新星爆発スーパーノヴァを振り落とす。


"ドガァァアーーーーーーン"


俺が超新星爆発スーパーノヴァを打ち落として大きな爆発が起こった後、地面には大きなクレーターができていた。だがそれで倒せた魔物はせいぜい数百で、何万といる魔物達を前にその一発だけで終わるわけもなく、その後も次々と魔物達が街に迫って行っていた。


「クソ、今のしっかり全力で打ち込んだのにな。これじゃあキリがないな。これは第一派を凌ぐだけでもだいぶ骨が折れそうだ。」


そう言って俺は地面に落ちていく。

俺は地面に降り立った後も、超新星爆発スーパーノヴァや熱による衝撃波で魔物を蹴散らしつつ、新魔法を考案すべく物思いにふけていた。


さて、どうするか。今必要なのはネクロマンサーのような単体最強を倒すほどの威力がある魔法じゃない。今必要なのは、最低限魔物を倒す火力を有しつつ大量殲滅が可能な魔法だ………。それならば、いわば超新星爆発スーパーノヴァみたいにザ・ゴリ押しのような魔法ではなく、大量にいる全ての魔物を押さえつける重力のような魔法だ。


「そうだなぁ、案としては熱で気流と気圧を操って押さえつけるってのがあるけど。もしそれができたとしても果たしてそれに魔物たちを押さえつけたり、倒すだけの強さがあるだろうか?」


手っ取り早く重力を操ることができればいいのだが、そんなことは熱という要素だけでは出来ないだろうし、もしできたとしてもその理論的なものの根幹を俺は知らない。今回は熱変化による気流と気圧のメカニズムや、風の力を使う魔法をつくる。


「さぁまずお前ら、取り敢えず飛んでもらうぞ。」


俺は近くのある程度の魔物達を蹴散らした後、魔物たちにそう言って精神を落ち着かせた後、熱を操作し始める。


「おら、飛べ!!"気流操作エアフローオペレーション


俺は熱操作をして、超強力な上昇気流を起こした。その結果、魔物たちはもれなく宙を舞った。


「よし、上手く飛んだな。………それじゃあ次のステップだ。」


俺はそう言って今度は気流によってできた風を熱によって操作して、今度は集めるようにする。つまり竜巻を形成するのだ。


"ヒューヒュー、ゴーゴー"


すると直後、俺が浮かせた魔物達は巨大な竜巻に飲み込まれていき、辺りには大きな風の音が鳴り響いてきた。


「……大分集まってきたな。よし、それじゃあ最終ステップだ!!あの竜巻にもう一度最大出力で超新星爆発スーパーノヴァをぶち込む!!」


そう言って俺は自ら操作して作った竜巻に飛び込み、上空へと向かう。


「今度こそ終わりだ………。行くぞ、超新星爆発スーパーノヴァーーーーー!!!!!」


"キィーーーーーーーーン、ドゴーーーーーーーン"


俺が超新星爆発スーパーノヴァを放った直後、耳を裂くような爆発音がそこら中に響き渡った。また、超新星爆発スーパーノヴァによる大爆発によって竜巻は崩壊し、そこにいた魔物たちは一匹も残らずに殲滅された。


「はぁ……はぁ……はぁ。だ、第一波やったか。」


俺はそう言うと呼吸を整えつつ、第二波以降の魔物大暴走スタンピードに備えるためにレイスさんの待つ城壁の上へと戻っていった。


***


「はぁ…レイスさん、何とか第一波やりました。」


俺は何とか城壁の上にいるレイスさんの元に戻っていた。


「あ、あぁ。それにしてもソラ、其方は本当にどこまで規格外なんだ?………ま、まぁでも其方がやってくれたおかげで何とか体制を整えることができた。本当に感謝する。……ところでソラ、まだ確定したことは言えないが、其方は今ので第一波どころかほとんどの魔物、つまりは数万体の魔物を蹴散らしたんだぞ。」


「え、あれでもう終わりなんですか?なら被害も想定より出てないし、これだけで終わるなら良かったです。」


俺がそう返すとレイスさんは首を横に振った。


「いや、ほとんどの魔物を処理したとはいえ、まだ残ってはいる。だがまぁそれはもう体制の整いきった他の皆んながやってくれる。」


へぇ、じゃあもう俺はしばらく休んでいていいのか。それなら疲れたし少しの間任せるとしようかな。


「まぁだが、まだ今回のボスキャラが出ていないから一応備えておいてくれ。」


俺はレイスさんの言葉にはい。と返事を返した。するとそんな時、急に背筋が凍るような感覚に陥った。それはネクロマンサーの時に感じたものに少し似てはいるが、それよりも遥かに威圧感があるし遥かに濃く、大きかった。それこそ少しの間、声すら発せられなくなるほどになるほどに。


「レ、レイスさん!!大丈夫ですか!!」


そんな気配を感じてから少し経って、俺は話せるようになった。だから俺はまず真っ先に隣で真っ青になっているレイスさんに声をかける。だが依然、レイスさんは顔を真っ青にしたままで何かに怯えるばかりである。そうそれは何か嫌な記憶が蘇る時のように…………。


「クソッ、ダメか。レイスさん!しっかりしてください。皆んなも混乱しています。というかこの悪寒の正体は何だ!!」


そう俺が叫んでいると、隣にいたレイスさんがとても弱々しく俺の背後を指さした。そこで俺はすぐに振り返り、レイスさんの指差す方を見る。


「……………何なんだ、あれは?」


俺の視線の先には、魔の森のかなり深層かと思われるような場所で"黒い大きな何か"が蠢いているのが見えた。


「クソッ、アレが今回のボスキャラか!!」


俺はそう言って魔の森の中で蠢いているナニかを見据えた。

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