第9話「緊急事態…かもしれない」

第9話


俺がスターリングウォードの街についたのは、魔の森を出てから割とすぐだったはずだが、空を見るともうすっかり日が暮れていた。門番の騎士の人にライセンスを見せたが、その時門番は何やら凍りついていた。まぁそんなことはいいや。何でも今はそれどころではなく、とにかく疲労がやばいのだ。それこそ今にも倒れてしまいたいくらいに。


その後俺は少し歩いて何とか冒険者協会までたどり着くことができた。

ギルドの中に入るとエレナさんが俺を見るなり駆け寄って来てくれた。俺はどうやらそれを見て安心し、その瞬間意識が途切れた。


***


「んっんぁー?」


目が覚めると、俺はどこかで見た覚えがあるソファの上で寝ていた。どうやら俺はかなりの疲労から意識を失ったらしいな。確かにネクロマンサーを倒した直後とかは、疲労感こそあれど倒れるほどではなかったはずだったが……あの時はやはりアドレナリンがドバドバで体自体が興奮状態だったからか。起き上がって伸びをすると、後ろから声がかかった。


「起きたか、ソラ。それにしても大丈夫なのか?ひどい傷でギルドに帰ってきて、倒れた時はエレナが大騒ぎだったんだぞ。まったく、まぁ無事なら取り敢えずそれでよい。だがしっかり説明はしてもらうぞ、これについてな。」


そうレイスさんは俺に声をかけてきた。レイスさんが指したのは俺の持っていたネクロマンサーの亡骸だ。なるほど、門番の人の表情が凍りついていたのはこのせいだったか。まぁ今は取り敢えず説明しなければな。


「は、はい。俺もかなり疲れているので取り敢えずは手短に説明します。えーっとまず、俺は今日初任務としてゴブリン討伐の依頼を受けました。それで俺は魔の森に行って、森に入ってすぐの場所でゴブリンの群れを見つけました。数は10体くらいです。一応ちゃんと討伐証明部位は全て持ってきているはずですので後で数を数えてください。」


レイスさんが頷きながら聞いているのを見て、俺はさらに話を続ける。


「それで依頼がかなり早く片付いてしまったので、この後どうしようかと思案していたら、そんな時に視界の奥に洞窟があるのを見つけたんです。それで洞窟の中に入ろうとして覗き込んだら急に悪寒がして、……直後洞窟内が光って爆発音がしたんです。そうして現れたのが、この黒ローブを纏った骸骨です。正直、コイツと対峙して足がすくみそうになりました。でも、コイツが街に行ってしまうのは不味いなと思って仕方なく戦うことにしました。それで結局、何とか勝つことができて、何とか帰ってきた次第です。」


俺がそこまで話すとレイスさん何やら目を見開いて驚いたあとに、とても深刻そうな顔をしてこちらを見た。


「ソラよ、その魔物は見たところネクロマンサーかと思うが……ソイツは言葉を話したりしていたか?それと、もし言葉を話していたなら何と言っていたか覚えていないか!?頼むから教えてくれ。場合によってはかなり不味いことになるぞ。」


「え、えぇ、勿論話しますとも。はい確かにソイツは俺に話しかけてきました。確かソイツは"久しぶりの人間を見た……追い出されても悪いことばかりではないな"と俺を見て言っていました。それで戦ってる時には………。レ、レイスさん?大丈夫ですか?」


俺が話していると、レイスさんは頭を抱えていた。


「ソラよ、今其方が言っているは嘘偽りないのだな?」


そうレイスさんに問われ、俺は頷いた。事実であると。


「不味いな………。あ、あぁソラ今日はもう帰ってよい。本当にありがとう、コイツを倒してくれて。もしソラがコイツを倒してくれなければ、最悪街は滅びていたかもしれない。」


俺は魔物の生態とかについてそこまで詳しいわけではないので、適当にそうなんですね。と相槌を打ちつつ聞く。


「あぁ、さっき言った通りコイツはネクロマンサーといって別名"死の魔術師"と言われておる。魔物は脅威度別でそれぞれF〜A→S→EXというようにランク付けされているのだが、その中でソラの倒したネクロマンサーはSランクだ。ちなみにランクEXは、神話級だとか厄災級だとか災害級とか言われておるのだがそんな奴は滅多に現れん。というかそんな頻繁に現れてもらっては困る。まぁだから今日ソラが倒したネクロマンサーは、実質最強クラスの魔物というわけだ。たとえ追い出されて傷を負っているネクロマンサーであったとしても、だ。」


ふーん、なら俺めちゃくちゃ強いってことなのか?まぁそんなことはいいとして、何が不味いことがあるんだ?もうその強いネクロマンサーとやらは俺が倒したじゃないか。


「それでいったい何が不味いんですか?そんな強いネクロマンサーを倒したのに。もし何かそんなに不味いことがあるなら、流石に今日すぐは無理でも、俺に出来ることなら協力しますよ。」


そう俺は言うが、一向にレイスさんの表情は晴れない。


「うむ、Sランクの魔物を倒したソラが協力してくれるのはかなり心強い………だがそれならソラに今日以上の重労働をしてもらうことになるかもしれないのだ。」


何でだ?というかまだ戦う理由があるのか?ネクロマンサー倒したのに。


「……もしソラの証言通りならだが、ネクロマンサーとは本来、深層にボスのように鎮座しているような魔物なのだ。そんな最強クラスの魔物であるネクロマンサーがこんなに浅い層まで来ていて、なおかつ"追い出された"と言っていたなら、深層にネクロマンサーより強い謎の魔物が住み着いたということを意味するようなものだ。」


俺は固唾を飲みながらレイスさんの話を聞く。


「それにネクロマンサーがその謎の魔物によって追い出されたということはネクロマンサーより弱い、いわゆる従っていた側の魔物たちが全員混乱状態に陥るということだ。そして、そのような状態の時に起こりうる中で最悪の出来事が"魔物大暴走スタンピード"だ。」


俺は電子書籍でそんなのあったなぁと思いつつ聞き続ける。


「名前からして一応意味は何となく分かりますが、魔物大暴走スタンピードって、本来なら魔の森に生息している魔物たちが、ドッと暴走したり逃げ出したりして街とかに迫ってくるってことですか?」


「うむ、大体はソラの言う通りだ。だが、魔物大暴走スタンピードはただ魔物達が迫ってくるだけに止まらず、その原因となったネクロマンサー以上の力を有する謎の魔物まで街に迫ってくるということが多くあるのだ。」


マジか、あれよりも全然強い奴が来る可能性があるのか。俺はネクロマンサーと戦った時を思い返しながらレイスさんの話を聞く。


「そしてさらに不味いことに、魔の森の中でもう既に魔物大暴走スタンピードの前兆は始まっている可能性が高い。私はこれから王都含め騎士団や傭兵、冒険者の派遣を急いで要求するつもりだが、正直間に合うか怪しい。だからもしソラがいいのならば、今日以上の重労働してもらうことになるだろうが街を守ってほしいのだ。」


そんなふうにレイスさんは俺に頼んできた。俺は勿論戦いに参加する気ではあるが、まだ取り敢えずレイスさんの話を聞き続ける。


「まぁここは一応軍事都市だから、他の商業都市などと比べればマシではあるが、あくまで魔物大暴走スタンピードという凄まじい脅威の前ではマシと言えるほどのことにしか過ぎないのだ。それに今は運悪く、Sランク冒険者たちを含めた高ランカーの多くは席を外して王都にいたり、遠征に出ている状況であるし………。はぁ頭を悩ますばなりだな。」


「レイスさん、僕は戦いますよ。来て間もない街ではありますが、これも縁ですから。」


それに俺が転生者ゆえの巻き込まれ体質的なのがあったら何か申し訳ないしな。


「うむ、ソラがそう言ってくれるのはとても嬉しいし心強い。だがソラ、取り敢えず今日はもう帰ってじっくり休め、もしかしたら其方がこの街の最終防衛ラインとなるかも知れぬのだからな。」


俺はそれを聞いて、何か決意をするとともに頷く。


「はい。取り敢えず今日はもう帰ってゆっくり休みます。明日以降何かあれば、俺も全力を尽くします。俺も街が滅ぼされていく姿を見たいだなんて、ちっとも思いませんからね。」


そう言って俺はギルド長室を出て、銀の帽子亭へと帰っていった。


ちなみに銀の帽子亭についた後には、リリアにとてつもなく心配された。

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