第10話

 悩み迷う。

 過ごしていれば普通に起こることだ。

 だが、その時間に本当に価値があるのか。

 考えているのではなく、悩み迷う。それは、何もしていないのと同じではないか。

 私は今、何もしていないのか。


 彼は叱られた後、この世界のある程度のことを女性から教えられた。

 いわゆる法律や常識などとというやつだ。

 全てを網羅しないまでも、少しずつ情報が入ることで、彼は見たもの全てを警戒することは無くなった。

 そして、実際に現物を見るために散策していると日が暮れた。

「すっかり夜ですね」

「そうだな」

「今までどう過ごしてきたんですか?」

 彼は手を顎に当て、少しの間黙考した。

「覚えていない」

「わかっていたことですけど、そうですよね」

 女性は困ったように笑った。

 肌を撫でる風は冷たく、虫の鳴き声がよく聞こえた。

 太陽はすっかり沈み、空には星が瞬いていた。

「どうやって夜を越しましょう」

 近くに宿はあるが、彼らに持ち金はなかった。

 彼には夜を越した記憶が、女性には家の外で過ごした経験がなかった。

 二人はただ悩み思考を巡らせていた。

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