第9話

 気づいてしまえば見なかったことにはできない。

 見てしまえば意識してしまう。

 考えないようにすればするほど、意識は強くなっていく。

 追い出すためにはどうしたら。


 彼は気づくと動いていた。

 当たれば即死を免れないと考えていた銀の箱だったが、素手で受け止めてみるとそんなことはなかった。

 勢いを殺しきれず、後ろへと運ばれたが、銀の箱はやがて止まった。

 止まったことで気づいたのは、銀の箱は四つの黒い円が回っていたということ。そして、今も回り、前へ進もうとしているということ。

「なにしやがる!」

 助けたはずの男に怒鳴られ、彼は萎縮した。

 銀の箱に囚われていたのではないかと困惑した様子だ。

「いや、助けようと……」

「これは俺のトラックだ! なんて事しやがる!」

 男の有無を言わせない態度に彼は目を白黒させた。

「すいません!」

 あわあわと彼が対応に困っていたところに、女性が駆けつけた。

 女性はそのまま男に向けて何度も頭を下げていた。

「すいません。この人、どうやら記憶がないらしくて」

「ってことはこれもわかってなかったってことか」

「はい。ね?」

「えーと、助けようとして」

 彼はトラックの中の男の目を見て言った。

「嘘言ってるようには見えねぇし、事実頻発してるしな。こんなとこ連れてくるなら先に一通り説明を済ましとけよ」

「すいません」

「ま、こんなことが起きてもいいように、このトラックも丈夫な作りになってるんだしな。じゃ、危ないし端によけとけよ」

 男が笑顔で言い切ると、女性は彼の手を引いて道へと戻った。

 女性が道へ戻ったことを確認すると男は女性と彼に向けて手を振るとトラックで去っていった。

「こんな無茶はやめてくださいね」

 彼はこくこくと頷いた。

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