三月十九日1000 やまゆきの除籍

 艦船の進水や就役が望まれ祝福されていることを表すならば、自衛艦旗の返納及び退役はその艦船がどれだけ愛されていたかを表す式典ではないだろうか。江田島えたじまの山桜が先触れのように春の訪れを告げる春分の前日。岸壁にズラリと並んだ黒い制服はこれから自衛艦旗を返納する練習艦を見守るために、同じ岸壁の各艦から集まってきたのだ。その中に数名、人ならざるもの……【艦霊】が混ざっているのを【練習艦やまゆき】は艦橋から見ていた。

「おー、豪華だなあ」

呉総監の訓示や自衛艦旗の返納、軍艦マーチと共に艦を降りる乗員と艦長、順調に滞りなく式典は進む。そして、いよいよ乗員たちが岸壁を後にする。

「さて最後の仕事だ」

【やまゆき】が音響機器のボタンを押す。流れるのは生涯通して愛した球団の応援歌だ。


洋山ひろたかは自分のために用意された花道を見て自慢気に笑う。

「俺は日本で一番幸せな艦だ」


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