四半世紀以上前から続く明晰夢のお茶会

第２０会 レナンダール家の栄衰 其の弐

　ここ連日夢（れんじつゆめ）を見（み）る。

　疲（つか）れているのだろうか。

　精神疲労（せいしんひろう）でもあるのだろうか。

　詳（くわ）しくは分（わ）からないが、調子（ちょうし）が良（よ）くないのは確（たし）かだ。

　例（れい）のお城（しろ）の夢（ゆめ）だ。

　ほぼ元通（もとどお）り……いや、それ以上（いじょう）の復興（ふっこう）を見（み）せている。

　兵士（へいし）が自分（じぶん）を見（み）つけるや否（いな）や大慌（おおあわ）てでこちらに駆（か）け寄（よ）る。

　「シュライザル様（さま）！

　いらっしゃっていたのですね！？

　エシェンディア様（さま）がお待（ま）ちです。

　こちらへどうぞ。」

　「あら？」

　通（とお）されたのは王間（おうま）。

　椅子（いす）は２つ。

　しかし、片方（かたほう）は空席（くうせき）だ。

　「シュライザル様（さま）！」

　表情（ひょうじょう）を明（あか）るくしてこちらに駆（か）け寄（よ）るエシェンディア。

　「エシェンディア様（さま）、僕（ぼく）はただの平民（へいみん）ですよ。」

　「いいえ、平民（へいみん）の貴方（あなた）がこの国（くに）を救（すく）って下（くだ）さったのです。

　最早貴方（もはやあなた）はレナンダール家（け）の者（もの）です。」

　「え？」

　「いついらっしゃるか楽（たの）しみにしておりました。

　本当（ほんとう）に放浪（ほうろう）しているかのようにフラリと現（あらわ）れるのですね。」

　「アストテイル君（くん）は？

　あ、時期王様（じきおうさま）になるから英才教育（えいさいきょういく）でも受（う）けているのかな？」

　「いいえ。

　アストテイルには自由（じゆう）に育（そだ）ってほしいので特別（とくべつ）な教育（きょういく）はしておりません。」

　「そうなんだ。

　じゃあ、この空席（くうせき）の王座（おうざ）ってまさか……。」

　「はいっ。」

　にこやかな表情（ひょうじょう）になるとエシェンディアが待（ま）ってましたとばかりに返事（へんじ）をする。

　「貴方様（あなたさま）のための王座（おうざ）です。」

　「ぎゃー！

　いいんですか！？

　こんな良（よ）く知（し）りもしない者（もの）をこんな豪華（ごうか）な王座（おうざ）に座（すわ）らせて！？」

　「でしたら、この国（くに）を救（すく）ってはくれなかったでしょう。

　隠（かく）し部屋（べや）のある部屋（へや）に精鋭隊長（せいえいたいちょう）が鎧（よろい）を砕（くだ）かれた状態（じょうたい）で発見（はっけん）されました。

　あの鎧（よろい）は鉄（てつ）では無（な）く鋼（はがね）。

　素手（すで）で破壊（はかい）したと聞（き）いたときは耳（みみ）を疑（うたが）いましたよ？」

　「あー……、その明晰夢（めいせきむ）のせいじゃないかと。」

　「めいせきむ？

　以前（いぜん）もお聞（き）きしましたね、それはなんですか？」

　「ここは僕（ぼく）の見（み）ている夢（ゆめ）の世界（せかい）なんですよ。

　僕（ぼく）が寝（ね）ているときに見（み）る夢（ゆめ）。

　その夢（ゆめ）を自由（じゆう）に操（あやつ）ることでこの世界（せかい）は成（な）り立（た）ってる。

　どうしてもエシェンディア様（さま）を助（たす）けたかったから、鋼（はがね）とはいえ鎧（よろい）を破壊（はかい）できたのでしょう。

　僕（ぼく）の我儘（わがまま）、エゴで成（な）り立（た）っている虚構（きょこう）の世界（せかい）です。

　申（もう）し訳（わけ）ありません。」

　「いいではないですか。」

　「え？」

　「私（わたくし）はこうして生（い）きています。

　それがたとえ虚構（きょこう）だとしても私（わたくし）は構（かま）いません。

　存在（そんざい）は誰（だれ）かが証明（しょうめい）してくれればそこに”在（あ）る”ことが出来（でき）る。

　それが例（たと）え夢（ゆめ）の世界（せかい）でも。

　シュライザル様（さま）が私（わたくし）を肯定（こうてい）し続（つづ）けて下（くだ）さる限（かぎ）り、私（わたくし）は存在（そんざい）します。

　私（わたくし）にとってはそれで十分（じゅうぶん）です。」

　「流石（さすが）はお姫様（ひめさま）、言（い）う事（こと）が違（ちが）いますね。」

　「これもシュライザル様（さま）のお考（かんが）えのひとつだからこそ出（で）てきた言葉（ことば）なのでは？

　ここはシュライザル様（さま）が統治（とうち）される夢（ゆめ）の世界（せかい）。

　その数々（かずかず）の中（なか）の小国（しょうこく）です。

　その世界（せかい）を創造（そうぞう）されている言（い）わば、神的存在（かみてきそんざい）ご本人（ほんにん）がこの国（くに）を選（えら）んでくださった。

　これ程嬉（ほどうれ）しいことがありましょうか？」

　「神（かみ）！？

　それこそおこがましいですよ！

　……現（げん）に僕（ぼく）はエシェンディア様（さま）のお父様（とうさま）やお母様（かあさま）を救（すく）えなかった。

　ずっと、夢（ゆめ）から覚（さ）めて起（お）きた後（あと）も気（き）にしているんです。

　明晰夢（めいせきむ）を以（もっ）てしても救（すく）えなかったのかと。」

　「時（とき）に、夢（ゆめ）の時間軸（じかんじく）は触（さわ）れるのですか？」

　「え？　夢（ゆめ）の時間軸（じかんじく）？」

　「時間（じかん）をずらすことは可能（かのう）なのでしょうか。

　その明晰夢（めいせきむ）というものは。」

　「考（かんが）えたことなかった。

　……あ！」

　「待（ま）ってください。」

　「どうして。」

　「お父上（ちちうえ）と母上（ははうえ）は戦死（せんし）しました。

　この事実（じじつ）は変（か）わりませんし、変（か）えてほしくありません。

　それによる変化（へんか）の方（ほう）が私（わたし）は怖（こわ）い。」

　「そうか、また歴史改変（れきしかいへん）になるのか。」

　「はい。

　何（なに）も私（わたくし）が自由（じゆう）にこの国（くに）を統治（とうち）したいからという理由（りゆう）ではありません。

　お父上（ちちうえ）と母上（ははうえ）が生存（せいぞん）しているとなるとこの国（くに）はもっと強大（きょうだい）になっているでしょう。

　ともなれば他国（たこく）から狙（ねら）われるのは必至（ひっし）。

　シュライザル様（さま）のお力（ちから）がなければ持（も）ち上（あ）がらない国（くに）になってしまう。

　そのシュライザル様（さま）は夢（ゆめ）の時間軸（じかんじく）までの想定（そうてい）は為（な）されてなかった。

　これが、全（すべ）てでしょう。

　私（わたくし）がこうして生（い）きているだけでも本来（ほんらい）は叶（かな）わぬはずなのですから。」

　「そうでしたね。」

　「この国（くに）は大分小（だいぶちい）さくなりました。

　でも、国民（こくみん）の笑顔溢（えがおあふ）れる作物豊（さくもつゆた）かな国（くに）になりましたよ。

　ありがとうございます。」

　またも綺麗（きれい）にお辞儀（じぎ）をされてしまう。

　「あぁ、それやめてください。

　僕（ぼく）の勝手（かって）でこの世界（せかい）を作（つく）って自由（じゆう）に好（す）き勝手（かって）やってるだけなんですから。」

　「言（い）いましたでしょう？

　私（わたくし）の存在（そんざい）はシュライザル様（さま）のお陰（かげ）。

　生（い）きているのもそう。

　今（いま）わの際（きわ）に救（すく）いがあったのも何（なに）かのご縁（えん）でしょう。

　……何（なに）かご用意（ようい）いたしましょうか。

　何（なに）がお好（この）みですか？

　何（なん）でも用意（ようい）いたしますよ？

　富（とみ）、食事（しょくじ）、異性何（いせいなん）でも。」

　「ぶっほ。

　僕（ぼく）、妻帯者何（さいたいしゃなん）で最後（さいご）のは無（な）しでお願（ねが）いします。

　ただ、紅茶（こうちゃ）とクッキー……、焼（や）き菓子（がし）が好（す）きなだけのただの人間（にんげん）ですよ。」

　「あら、ご結婚（けっこん）されていたのですね。

　ちょっとくらい遊（あそ）ばれても夢（ゆめ）なら構（かま）いませんでしょうに。」

　「それが嫌（いや）なの。」

　「そういう真面目（まじめ）さに奥様（おくさま）も惹（ひ）かれたのでしょうね。」

　「……言（い）ってみたらエシェンディア様（さま）も僕（ぼく）の奥（おく）さんみたいになってるけど。」

　「リーフェ様（さま）からのお話（はなし）ですね？

　それこそ私（わたし）は泥人形（どろにんぎょう）のような存在（そんざい）です。

　リーフェ様（さま）の影武者（かげむしゃ）。

　生（う）まれてから幼少期（ようしょうき）から成人（せいじん）するまでの記憶（きおく）がない。

　でも、お腹（なか）にはシュライザル様（さま）のお子様（こさま）がいた。

　それがアストテイル。

　あの子（こ）には私（わたし）とは違（ちが）う、記憶（きおく）のある道（みち）を歩（あゆ）んでほしいです。」

　「……。

　エシェンディア様（さま）。」

　「はい、何（なん）でしょう？」

　振（ふ）り向（む）いたエシェンディアの額（ひたい）にぴたりと手（て）を当（あ）てる自分（じぶん）。

　「あ、あの？」

　「そんな悲（かな）しいことを言（い）わないでください。

　責任（せきにん）くらいとらせてくださいよ。」

　「あ……。」

　ポロポロとエシェンディアの瞳（ひとみ）から涙（なみだ）が溢（あふ）れる。

　余裕（よゆう）がないからだろう、ハンカチでその涙（なみだ）を拭（ぬぐ）う自分（じぶん）。

　「私（わたくし）に……、記憶（きおく）をくださったのですね。

　リーフェ様（さま）に怒（おこ）られてしまいますよ？」

　「もう怒（おこ）られてきました。

　”泥人形（どろにんぎょう）”という言葉（ことば）が一番胸（いちばんむね）に刺（さ）さりました。

　何（なん）とかしないと、と。

　エシェンディア様（さま）は人間（にんげん）です。

　人形（にんぎょう）じゃない。

　なら、僕（ぼく）が明晰夢（めいせきむ）でリーフェの過去（かこ）の記憶（きおく）を見（み）ないでエシェンディア様（さま）に直接差（ちょくせつさ）し上（あ）げればいいだけのこと。

　エシェンディア様（さま）こそ、ご自分（じぶん）で溜（た）め込（こ）みすぎなのではないですか？」

　「……リーフェ様（さま）が貴方（あなた）に憑（つ）いている理由（りゆう）がわかった気（き）がします。

　退屈（たいくつ）しませんね、ふふっ。」

　「そうでしょうか。」

　ガタン！と大（おお）きな音（おと）がしたかと思（おも）ったら王間（おうま）の扉（とびら）が開（ひら）かれる。

　「王女様（おうじょさま）、王間（おうま）への立（た）ち入（い）り失礼（しつれい）いたします！

　敵襲（てきしゅう）です！

　以前取（いぜんと）り逃（のが）した奴（やつ）らではないかと！」

　「……撃（う）って出（で）ます！

　各兵（かくへい）は迎撃（げいげき）の準備（じゅんび）を！」

　「ハッ！」

　「僕（ぼく）も出（で）るよ。」

　「なりません。」

　「え？」

　「ここはシュライザル様（さま）の夢（ゆめ）の世界（せかい）です。

　私（わたし）たちの行（ゆ）く末（すえ）を見届（みとど）けていただく必要（ひつよう）こそあれど、参戦（さんせん）していただく理由（りゆう）がござません。」

　「断（ことわ）ると言（い）ったら？」

　「え……。」

　「魔法（まほう）ならリーフェからちょっと学（まな）んできた。

　二度（にど）の失敗（しっぱい）は無（な）いよ。」

　「し、しかし。」

　「エシェンディア様（さま）。」

　「は、はい。」

　「貴女（あなた）は今人間（いまにんげん）になれたんです。

　守（まも）らせていただけませんか。

　一人（ひとり）の兵士（へいし）として。」

　「うぅぅ……、申（もう）し訳（わけ）ございません……！」

　「あぁあぁ……、そんなに泣（な）かないでください。」

　外（そと）から歓声（かんせい）が聞（き）こえてくる。

　戦（たたか）いが始（はじ）まったようだ。

　「エシェンディア様（さま）はご指示（しじ）を。

　この国（くに）の平和（へいわ）と自分（じぶん）の夢（ゆめ）は壊（こわ）させない、絶対（ぜったい）に。」

　「シュライザル様（さま）……。」

　「では、またここでお会（あ）いしましょう。」

　王間（おうま）を抜（ぬ）け、激戦区（げきせんく）に突入（とつにゅう）。

　「ロイヤルウィザードレベル９９でも苦戦（くせん）するとは！」

　「はっはっは！

　貴公（きこう）の兵力（へいりょく）が弱（よわ）すぎるだけよ！」

　「……だったらこういうのはどうだい？」

　「……あ？」

　真上（まうえ）には小（ちい）さいながらも太陽（たいよう）のような熱量（ねつりょう）を持（も）った火球（かきゅう）が召喚（しょうかん）されている。

　「なっ！？」

　「シュライザル様（さま）！」

　「……消（け）し飛（と）べ。」

　「うわあああああっ！」

　放（はな）った場所一帯（ばしょいったい）は一網打尽（いちもうだじん）。

　クレーターが出来（でき）ている。

　「い、一体（いったい）レベルいくつなんだ……、凄（すご）い……！」

　「大魔導士（だいまどうし）リーフェの一番弟子（いちばんでし）、シュライザル・レナンダール、参（まい）る！」

　「シュライザル様（さま）、右側（みぎがわ）から新手（あらて）が！」

　「エシェンディア様（さま）、承知（しょうち）！」

　「お前（まえ）ら！

　全力（ぜんりょく）でシュライザル様（さま）を守（まも）れ！

　この戦争（せんそう）、勝（か）てるぞ！」

　「おぉーっ！！」

　どれだけ戦（たたか）っただろう？

　敵（てき）は逃（に）げる隙（すき）もなく全（すべ）て倒（たお）しつくした。

　「やったぞー！」

　「我々（われわれ）の勝利（しょうり）だー！」

　「……。」

　喜（よろこ）びの雄（お）たけびを上（あ）げる兵士（へいし）を尻目（しりめ）にゆっくり王間（おうま）に戻（もど）る自分（じぶん）。

　「お疲（つか）れさまでした。

　……言（い）いたいことは分（わ）かっております。

　戦（たたか）い方（かた）を見（み）ていれば。」

　「敵兵（てきへい）にも、家族（かぞく）はいたでしょうね。」

　「そうでしょう。

　でもこれが戦争（せんそう）なのです。

　やらなければ、やられる。

　こちらから攻（せ）めることこそ致（いた）しませんが、攻（せ）められる以上（いじょう）は守（まも）る。

　それがこの国（くに）の方針（ほうしん）です。

　最大限相手（さいだいげんあいて）への敬意（けいい）をこめた戦略（せんりゃく）のつもりです。」

　「うん、うん。」

　「泣（な）いてもいいんですよ？」

　「で、でも。」

　「王間（おうま）は緊急事態以外（きんきゅうじたいいがい）は入（はい）ることを許（ゆる）しておりません。

　……シュライザル様（さま）はお優（やさ）しいお方（かた）なのですね。」

　「う、うぅぅ……！」

　相手（あいて）を殺（ころ）したこと。

　相手（あいて）の家族（かぞく）を奪（うば）ったこと。

　その家族（かぞく）の未来（みらい）を途切（とぎ）れさせたこと。

　自分（じぶん）がされたら嫌（いや）な事（こと）を自分（じぶん）はした。

　こみ上（あ）げるものを抑（おさ）えることが出来（でき）なかった。

　意外（いがい）だったのはエシェンディア。

　まるで母（はは）のように抱（だ）いて受（う）け止（と）めてくれた。

　今（いま）ではもう居（い）ない母（はは）。

　甘（あま）える存在（そんざい）を探（さが）していたのか。

　いい歳（とし）にもなってな。

　暫（しばら）くして、エシェンディアから離（はな）れる。

　「何（なん）か、すみません。」

　「どうしてですか？」

　「子供（こども）みたいですよね、綺麗（きれい）ごとばっか並（なら）べて結果（けっか）これですから。」

　「私（わたくし）はサバサバ割（わ）り切（き）る嫌味（いやみ）な大人（おとな）より、己（おのれ）の幼（おさな）さに葛藤（かっとう）する平和（へいわ）を望（のぞ）む方（かた）の方（ほう）が好感（こうかん）が持（も）てます。

　本気（ほんき）は出（だ）していなかったのでしょうね。

　だったらもっと早（はや）くに終（お）わっていたはず。

　貴方（あなた）なりに相手（あいて）を労（いた）わっていた、もしくは迷（まよ）いがあった。

　違（ちが）いますか？」

　「違（ちが）いません。」

　「そういう素直（すなお）なところも好（す）きですよ。」

　「あはは、好（す）きなんてあんまり言（い）われないのでくすぐったいですね。」

　「しかしあの太陽（たいよう）のような火球（かきゅう）、計測器（けいそくき）でも振（ふ）り切（き）れるくらいの魔力（まりょく）を誇（ほこ）っていました。

　一体（いったい）どのような経緯（けいい）で？」

　「リーフェは大魔導士（だいまどうし）でもあるんです。

　僕（ぼく）はその一番弟子（いちばんでし）。

　空（そら）を飛（と）ぶ事（こと）、魔法（まほう）を使（つか）うことが僕（ぼく）の夢（ゆめ）だったんです。」

　「くすくす。」

　「うん？

　何（なに）かおかしいことでも言いましたか？」

　「だって、おかしいじゃないですか。

　憑（と）りつかれている人（ひと）に教（おし）えを乞（こ）うなんて。

　普通（ふつう）は従（したが）えるか追（お）い出（だ）すなりするでしょう。

　なのに貴方（あなた）っていう方（かた）は……、くすくす。」

　「参（まい）ったなぁ……。」

　「お紅茶（こうちゃ）と焼（や）き菓子（がし）がお好（この）みでしたね？

　すぐに用意（ようい）させます。」

　「ありがとうございます。」

　僕（ぼく）のしたことが正（ただ）しかったとは断言（だんげん）できない。

　でも何（なに）もしなかったらこの国（くに）は今頃滅（いまごろほろ）んでいただろう。

　エシェンディア姫（ひめ）の掲（かか）げる方針（ほうしん）が一番正（いちばんただ）しいのかもしれない。

　少（すく）なくとも今（いま）の僕（ぼく）にはそれ以上（いじょう）の考（かんが）えが浮（う）かばなかった。