わたし         ⁂

 カーテンが揺れる。ベッドから見える光でまだ起きる時間じゃないと気づく。

 いつもの習慣でタブレットの画面に目をやる。

 こんな時間にもう起きている私。ストレッチする私。踊る私。恋する私。撮る私。撮られる私。試合に出る私。絵を描く私。チェスをする私。炭を焼く私。舞台で叫ぶ私。オレオレ詐欺を防ぐ私。花壇を作る私。殺す私。殺される私。イルカと泳ぐ私。ラグジュアリーでファビュラスらしいよくわかんない私。展覧会でテープカットする私。熊を投げ飛ばした私は40歳黒帯。

 ママがよくある名前をつけたおかげで、検索すればいろんな私に会える。もし今の私がこのなかのどれかだったらって想像する。どれもこれも楽しそうだ。

 いろんな私を眺めているうちに足音が近づいてくる。リノリウムの床。朝はとくに響く。

 カーテンが引かれて看護師さんがのぞき込む。

「もう起きてたの?」


 コマンド。動けない私の代わりにタブレットが『おはよう』と応えた。

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