見えない人たち     ♤

 朝は誰もが早く駅に着きたがる。足早に歩く人たちに追い越されながら、私は慎重に歩を進める。

 カタンカタンと線路が鳴る。川を渡る電車が近づいてくる。

 線路脇の狭い道。横たわる人たち。

 急ぐ人たちはそれを蹴飛ばして突き進む。

 仕方がない。見えないのだから。

 私はただ踏まないように、蹴らないように、避けながら歩く。

 

 もうここは足の踏み場もない。仕方がないのでいつものように跨いで行く。腿を上げ、大股で、踏まないように、蹴らないように。

 若い男が奇妙なものでも見るように私を見る。私は男が踏んだ子どもの手から目をそらす。

 見えないんだから仕方がない。見える私は仕様がない。腿を上げ、大股で、行く。


 夕暮れの駅朝の男にまた会った。

「すみません、どうしていつもそんな歩き方なんです?」

「見えるから」

「見える?」

「ここらへん、死体でいっぱいなんですよ」

 私は駅横の小さな慰霊碑を指差した。昔あった空襲の。

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