灰汁の恩返し      ⁂    

「昨日すくってもらった灰汁アクです。恩返しに来ました」

 いきなりそう言われ面食らっていると、灰汁アクはズカズカと俺の部屋に入ってきた。

「恩返しって、俺そんなにすくったっけ?」

「ええ、昨日の鍋パであなただけがすくってくれたんです」

 確かに、仕送り前の金欠でろくな具材を持って来れなかった分、鍋奉行としてがんばったが。

「すくったと言っても、恩返しされるようなすくいではないと思うんだけど」

 面倒事を避けたくてそう言うと、灰汁アクはしばらく考えている風だったが、ようやく間違いに気付いたらしい。

「そうでした」

「そうそう」

 俺は灰汁アクにさっさと帰ってもらいたくてドアを開けた。

「しかしせっかく来たのでやっぱり恩返しというものをしてみたいのです」

 押し問答していると、俺の腹が鳴った。

「お腹、空いてるんですか?」

 灰汁アクが言った。


 次の日仕出屋からゼンが届いた。送り主は灰汁アクだった。美味しくいただいた。

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