ミギノホネッコ     ♢

 昔おばあちゃんが言ってた。

 悲しみが凝り固まって小さな結晶になり、骨の中でカタカタなるようになったら、満月の夜にあの三叉路へ行ってごらん、ミギノホネッコが食べてくれるから。


 夜中にこっそり家を抜け出した。

 銀色の底に沈む道を歩く。聞こえるのは足音と、悲しみの鳴らすカタカタという音だけ。


 三叉路の片隅には小さな釣鐘形の石。それを囲むように四方に丸い石が置かれている。

 本当に現れるのかしら。思うまもなく白い影が立ち上り、すうっと右手を伸ばしてわたしの右手を握った。

 次々と結晶が吸い込まれていく。このまま全て吸われたら楽になる。でも悲しみのない人間って?

 急に怖くなって右手を振り解くと、ひと粒手からこぼれ落ちた。

 ミギノホネッコはふわんと揺れて、さよならみたいにゆらゆらと手を振った。

 こぼれ落ちた粒をつまみ口に含むと、ほろ苦く甘い。


 帰り道、少しだけ残った悲しみが骨のなかでカタカタ鳴った。

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400字物語 工房ナカムラ @nakamu-kobo

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