第7話 懸案事項

 今日、ライラは一人で自習室に来ていた。


 ちょうど今頃、イリナは噴水に浸って泣き喚いているはずだ。ライラに突き飛ばされたという体で。もちろんその時刻、ライラはアリバイをしっかり確保している。打ち合わせ通りである。


 惜しむらくはイリナの名演技をこの目で見れないことだが、こればかりは仕方ない。後で本人からじっくり聞くことにする。


 計画は順調に進んでいて、買収された者達への買収し返しも全て完了した。ほとんどが金で解決したので、ある意味楽だった。これでもう、ライラに不利な証言をする者は誰も居ない。


 懸念材料があるとするば、あの悪党どもに気付かれないかということくらいだが、自分達の計画に余程自信を持っているのか、買収したと思い込んでる者達にフォローすることすらしないのだから大丈夫だろう。

 

 向こうのシナリオ通りに動いてやるのも残りあと1回。恐らく向こうも最後の階段落としをメインと考えているだろう。何せこれはヘタすると命を落とす危険があるのだ。だからその分、他と比べてインパクトが半端ない。


 ここは慎重にやらないと。特に、間違ってもイリナが大怪我を負うようなことがあってはならない。ましてや、命を落とすことになるなど言語道断である。


 いっそ、階段の下にマットを敷いて、そこに向かって飛び降りるというのはどうだろう? そして落ちた後、素早くマットを回収するというのは? いや、誰かに目撃されたらマズいか...


 そんなことを悶々と考えていると、イリナがやって来た。


「ふぅ...寒かった~...ただいま~」


 もうすっかり我が家感覚である。


「お疲れ様。寒かったでしょう。すぐお茶入れるね。それと今日は焼き菓子にしたから。今温めるね」


「ありがとう~♪ 嬉しい~♪」


 熱いお茶に温かいアップルパイとスイートポテト。イリナはすっかり上機嫌だ。


「それで首尾はどう?」


「もうバッチリよ! 自分で言うのもなんだけど、迫真の演技だったと思うわ!」


「それは良かったわ」


「いよいよ次で最後ね!」


「それなんだけど...」


 ライラは先程まで考えていたことをイリナに伝えた。するとイリナは笑いを堪えながら、


「あのねぇ、ライラ。そんな深く考えなくたっていいのよ? 要は階段から落ちたのかもって思わせればいいだけなんだから。実際に落ちる瞬間なんて見せなくていいの。階段の下に踞って泣いてりゃいいのよ」


「そんなんで大丈夫なの!?」


「まぁあとは、私の演技次第ってことになるけど、任せなさい。最高の演技を見せてあげるわよ」

 

「そうなのね...はぁ、なんか色々考え過ぎて疲れちゃったわ...」


「アハハ、でも私のこと心配してくれてたんだよね? ありがとうね」


「どういたしまして」


 ライラは苦笑しながら熱いお茶に口に運んだ。


 

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