第6話 喜劇

 今日も今日とてライラとイリナは自習室に居た。


「あら? そのマニュキュアの色いいわね」


「でしょう? 今年の新作なのよ」


「私も使っていい?」


「どうぞどうぞ。気に入ったんなら取り寄せるわよ?」


「ホントに!? ありがとう!」


「どういたしまして」


「さて、そろそろ喜劇の始まる時間ね」


「えぇ、お茶とお菓子も準備万端」


「今日はどんな笑いを提供してくれるのか楽しみね」


「ではスタート!」


 楽しい盗聴の時間だ。



◇◇◇



「グスタフ! これを読んでみろ!」


「これは...ブレンダ王女からの手紙ではありませんか! 私などがお読みしてもよろしいので?」


 良い訳ないだろう。ヘタすりゃ外交問題になりかねない。そんなことも分からないらしい。ライラとイリナは肩を竦めた。


「構わん! お前に俺様の偉大さをとことん思い知らせてくれるわ!」


 自分で自分を偉大だって言うヤツも珍しい。


「では失礼して...こ、これは!? 卒業記念パーティーの日にこちらに来られると!?」


「そうだ! 俺様の門出を祝してな!」


「これはもう、ルドルフ様にベタ惚れでございますな!」


「そうだろう! そうだろう! そこでだ、あの忌々しいライラに婚約破棄を突き付けた後、ライラの目の前でブレンダ王女との婚約を発表してやる! フハハハッ! ライラの悔しがる顔が目に浮かぶようだわい!」


 当のライラは笑いを堪えきれない。


「お、お待ち下さい! その場合、イリナはどうなります?」


「案ずるな。いいか? 俺はイリナが虐められているのを黙って見過ごせなかっただけで、別にイリナのことが好きだという訳じゃない。あくまでも正義の名の元、悪に鉄槌を下す。そういう風に演出を変えるんだ」


 正義が聞いて呆れるだろう。


「な、なるほど! さすがはルドルフ様です! お見事としか言い様がございません!」


「そうだろう! そうだろう! もっともっと褒め称えよ!」


「ルドルフ様は天下を取れます!」


「フハハハッ!」


 

 ライラは音を切った。


「はぁ...今日も笑かしてくれたわね」


「えぇ、ある意味期待を裏切らないわよね」


「でも本当に大丈夫なの?」


 イリナが不安げな表情になる。


「何が?」


「ブレンダ王女の件よ。なんだか心配になって来たわ」


「大丈夫って言ったでしょ? 実はね...」


 そう言ってライラはイリナの耳元で囁く。


「なあるほど、そういうことだったのね。さすがはライラだわ」


「お褒めに預かり光栄だわ。お茶のお代わりは如何?」


「ありがとう。頂くわ。それと」


「お菓子もね」


 二人して笑い合った。

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