014 辺境伯


「ほ、本物か。本物の戦艦大和か……うおお」

「艦長、こりゃスゴイですな!」

 の戦艦大和。手汗握りながら食い入るように見つめ、幹部らしからぬ浮かれ騒ぎようを見せる福島達。

 子供の頃にやっていた人気アニメで活躍していた戦艦という事もあり、大和は彼らの憧れの的でもあった。


「……これは貴重な資料だ。いろいろ撮影しておこう」

 視察用に持ってきたデジタルカメラを構え、こだわりのアングルでバシャバシャとシャッターを切る。

 部下達の前ではクールに振る舞っていたが、実物を前にするとやはり興奮を隠せないのが正直な所だ。


「福島大佐だいさは大和を見た事が無いのですか?」

 自分が持つ帝国海軍の佐官達の印象とはかけ離れている。梶原は福島達の興奮気味な様子を不思議そうに見つめ、少しばかり怪訝な表情を浮かべた。


 ――本当に、彼らは何者なのだろうか。


 それに、使用している写真機も見慣れぬ形状のモノだし、少し覗いてみたが驚くべき高画質と連写能力を有している。しかも、現像もせずに写真を確認できるなど聞いたこともない。

 本国はこんな得体の知れない技術を隠し持っていたのだろうか――。


 彼らの言動を目の当たりにする度、梶原は疑念と好奇心が同時に湧き上がって来る事を実感する。


「そうさ……うぉっほん、失礼。それにしても側面がえらく歪んでいるな」

 少し興奮しすぎた。

 福島達は恥ずかしそうに咳払いをし、梶原と一緒に大和の状態を確認し始める。


「……はい、にありったけの鉄球砲弾を撃ち込まれましたから」

 浸水により航行困難となった大和。損傷の具合が魚雷や戦艦の砲撃による歪みとは明らかに違う。


 まるで車両ほどの巨大なハンマーで何十万回と打ち付けたかのように、広範囲に及んで側面装甲が波打つように歪んでいるのだ。

 艦橋やマストにも多数の被弾跡が見られるが、大和の構造を考えるならばこの程度では沈まないだろう。しかし、これでは至る所から浸水し、機動性に大きな影響を与えるのは必至である。


「相手は帆船。主に大昔のガレオン船のようでした。海を埋め尽くす程の数で取り囲まれ、至近距離から数日間絶え間なく砲撃を受けたのです」


 ガレオン船――。


 現代から80年ほど前の時代に来たのかと思いきや、今度は中世の世界の話だ。情報量が多すぎて理解が追いつかない。

 自分達は聞いた話を持ち帰るだけに徹し、細かい分析は本部に丸投げしたいと思う福島達であった。


「撤退した連中が居る中、果敢にも向かってきた敵は多数おりました。それらをほぼ全滅させたものの、無敵の不沈艦と言われた大和がこのざまです」

 ぎゅっと拳を握りながら、悔しそうに語る梶原。


「我々は戦い抜きました。これが戦果となるのかはわかりませんが、現状すら本国に報告も出来ず終まい。”大和ホテル”などと揶揄していた連中を見返すことも出来ないのです」

 ――主に陸軍の将校だ。連中の顔を思い返す度、沸々と怒りが込み上げる。


「ううむ、あなた方はよくやったと思うぞ、梶原少尉。我々の船であればきっと沈められていただろうさ」

 大和は数百とも言える数の敵船を沈めた。これが〈うすづき〉であったなら、逆に1日と持たず沈められていただろう。福島は梶原達を称賛した。


 ――まあ、長射程ロングレンジでの勝負なら我々が負ける事は無いだろうが。


「それにしても、話を聞く限り相手の兵器は中世レベルだろう。そんな連中が大和へここまでダメージを与えたのか……」


 大和型戦艦の側面装甲の厚さは、最も砲撃を受けやすい上部甲板から喫水以下の辺りだと最大41センチメートルにも及ぶ。

 そこは単なる鉄板ではなく、表面を硬化させて耐砲撃能力を強化した”VH鋼”で構築されており、戦艦からの砲撃弾すら弾く程の防御力を有していた。


 中世レベルの大砲で大和の装甲をここまで歪めるのにどれ程の砲撃が必要なのか。

 考えただけでも気が遠くなるような話である。


 なお、当時の技術ではこの部分を溶接する技術が無く、”リベット”と呼ばれる鉄の留め具を使用して、喫水下部の均質MNC鋼装甲と鋲接していた。部位によってはボルトで大和の装甲を固定していた箇所もある。

 これにより、どうしても接合部の強度が万全とは言えなかった点は否めない。

 無数の砲撃を浴びた事によって装甲が徐々に変形し、次第にそこから浸水箇所が増えていったと考えるのが自然だろう。


「やはり、弱点は接合部だったか――」

「――随分と大和に詳しいようだな」

 カツッと足音を立て、福島達の手前で対峙するように立ち止まる中老の男。

 梶原と同じく白い背広。それなりの階級である事には違いないのだが、どこか見覚えのある面構えのような気もする。


「へ、辺境伯っ」

 ビシィッと効果音でも付けたくなるようなキレのある敬礼を見せる梶原。


 ――辺境伯とは貴族の事か?

 梶原の焦りようは尋常ではない。よほどの大貴族なのであろう。


「……梶原少尉、誰かね? 連絡がまだのようだが」

 辺境伯と呼ばれている中老の男が福島達を一瞥し、見知らぬ同行者達についてただすように梶原へ話しかける。


「――っ!! も、申し訳ありません。大佐殿が大和をご覧になりたいとのことで、その後辺境伯のもとへお連れしようかと思っておりました」

 気のせいか、梶原の表情からは血の気が引いているようにも思える。まるでマクドナルド中将を目の当たりにした時の米軍幹部達のようだ。


 そんな梶原は、涼しい顔で黙ったまま傍観している福島達を見て「だ、大佐殿っ!? 皆さん、なぜ敬礼をしないのですか」と更に慌てふためいた様子となる。


「……ううん? お前ら俺の顔がわからんのか? この5年でそんなに老けちまったかね。ふふ、それにしても興味深いな。どこの所属だ?」

 福島達の反応は、明らかに自分の事を知らない人間のそれである。ある意味で新鮮味があり、中老の男は少し陽気にも思える笑顔を見せ始めた。


「ん、ああ、すみません辺境伯さん。私は福島と申します」

 知らないモノは知らないのだ。とりあえず当たり障りのない様子で軽く手を差し出し、かなりフランクな様子で握手を求める福島。

 辺境伯はそれにしっかりと応じ、がっしりと福島達と握手を交わす。


「ッフフ、どうやら本当に分からんようだな。やあ失礼失礼。私は山本だ。現在はとして、このダナエ王国の”クレタ地方”を任されている」

 相変わらず陽気な笑顔で自己紹介をする山本。付近の手すりに右肘をやり、体を寄りかけながら福島達を見つめ直す。


「どうも、山本辺境伯。では改めて、私は福島洋一。1等海佐として、あさひ型汎用護衛艦〈うすづき〉の艦長をやっています」

「私は山下康平、2等海佐です。〈うすづき〉副長をやっております」

「金子圭吾1等海尉、船務長をやっております」

 3人とも、軽く敬礼をしながら自己紹介を返す。


 中老の男の名前は山本。

 役職はダナエ王国の辺境伯とのことだが、明らかに日本人だ。元々は大和の乗組員だったのだろうか。


 ――山本。


 そういえば長官とも呼ばれ……山本っっ!!


 福島達に戦慄が走る。目の前の山本は、日本人なら一度は名前の聞いた事がある山本なのではないか。


「っお、顔つきが変わったね。俺の事やっぱり知ってたんじゃねえか?」

 相変わらず手すりに寄りかかりながら、くしゃりと面白いモノを見るような笑顔で話しかけ続ける山本。

 手すりに乗せた右手へ重ねるように左手を置いており、その左手は人差し指と中指が欠損している。


「……山本……山本五十六……!」

「まさか、ほ、本物?」

 福島が呟き、それに連れて山下と金子もゴクリと息を呑む。そのまま、まんまると目を見開いて山本を見つめ直す。


「なあんだ。知ってるじゃねえか。しかしね福島大佐。俺はアンタを知らない。もう一度聞こう。どこの所属だ?」

 ニンマリと両頬を吊り上げる山本。我が子を見るかのように破顔一笑しながら、依然として眼差しの奥底は鋭い。

 梶原がだと言い張っている福島に対し、探りを入れるように話しかけてゆく。


「しっ、失礼しました。我々は海上自衛隊であります。詭弁とお思いになるかもしれませんが……我々が居たのは西暦2026年の日本。神を名乗る者達に突然連れられ、ここにやって参りました」

 ビシッと敬礼をしながら受け応える福島達。

 相手は大日本帝国海軍大将。学校の教科書にも載っている歴史人物なのだ。先程までの自分達がいかに無作法であったか、思い返すと畏怖にも似た感覚が込み上げてくる。


 やはり、此処は自分達の居た場所とは違う。神々によって寄せ集められた異世界だという事を改めて認めざるを得ない状況だ。


「神か……。我々が大和に乗っていた時もそんな事を叫ぶ女が居たな。ええと、何だったかな? 5年も前の事で忘れちまったよ――」

「――その女の名は”セクメト”。ナール連邦がある〈イジプの地〉を管轄する神の1柱です」

 何処からともなく現れた西洋人のような青年。山本の発言に追従するように話しはじめる。


「――ヘルメス!」

 やや驚いたかの様子で、福島は強めの語気で叫ぶように声を出した。


「やあ、どうもこんにちは」

 片手を軽く振り、相変わらず邪気の無い涼しげな笑顔で登場して来たヘルメス。


「んん、貴様、どこから」

 突如として背後に現れたヘルメスに、山本はしれっとした様子で振り返り声をかける。


「まあ、まあ。細かいこと気にしないで下さい。神なんてそこら中へ居ますから」


「神だと……」

 物珍しそうにヘルメスを凝視する山本と梶原。


「この人がヘルメス……」

 山下と金子も同様の反応を見せる。事前に福島より情報共有を受けていたものの、2人は先のビデオ会議に参加していなかった。実際にヘルメスを目にするのこれが初めてである。


「さて、山本辺境伯。セクメトから何か聞いてませんか?」

「……うーん。生意気な小僧にしか見えんぞ? それに、外国人のようだが日本語が上手いな」

 山本は両腕を組み、首を傾げながら詰め寄るようにヘルメスを見つめ、ヘルメスは少しだけ困ったような表情を浮かべて宥めるように両手を軽く前へ突き出す。


「まあいい。確かにこの世界は元居た場所とは大きく違う。目の前にもいるようだしな」

 山本はそう言いながら、今度は福島達を睨んだ。

 ――相変わらずの鋭い視線。3人とも、少したじろいでしまう。


「……神を名乗っていた、あのセクメトとかいう女が関係しているのですか」

 梶原がやや食い入るようにヘルメスの話に乗り始める。


「そうですね。関係というか、もはや元凶ですね」

 ヘルメスは、やれやれといった様子でで両手を軽く広げ、ため息混じりに梶原へ返答した。


「……もう一度セクメトに会えれば、我々は元の世界に帰れるのかな?」

 立て続けにヘルメスへ質問する山本。右手の親指と人差し指で自分の顎を撫でながら、何か物想いに耽っているような表情を浮かべる。


「それは叶いません。基本的に一度召喚したモノは一生元の世界には戻れません。基本的にね」

「っそんな、勝手すぎる!」


 理不尽な返答。


 自分達は本国の為に命を懸け、この5年間ずっと帰還出来ることを心待ちにしていた。

 それなのに、今居る場所はそもそも違う世界だと言う。しかも、勝手に連れてこられたうえ元の場所へ戻る事も出来ないのだ。

 やり場の無い怒りが込み上げて来る梶原。そのままヘルメスに掴みかかろうとするが、山本がそれを遮った。


「ヘルメスと言ったか。我々はどうすれば良いと思う? この世界へ投げ出され、連れてきた張本人は我々を放置している。好き勝手に動けとのことかな?」

 息を荒げる梶原の肩に手をやりながら、山本は淡々と話を続ける。


「そうですね。ダナエ王国は〈グリスの地〉にありますし、で5年も放置しているのならば、セクメトはもはやあなた方に興味が無いのかもしれません」

 全てを見透かしているような、涼しい表情で淡々と語るヘルメス。

 山本達がセクメトの手を離れている事には薄々感づいてはいたのだが、これで確信に変わった。


「随分と身勝手な神だな」

「ええ、短気なのは有名ですし」

 山本は仁王立ちのように両腕を組んで目を細めながら嗤い、ヘルメスは軽く握った手を鼻に当てながらクスッと笑った。


い気なもんだよ。5年前、こちとら色々と苦労したんだぜ――」






 ――






「――長官、陸地が見えますが」

「敵地であれ寄るしかないだろう。弾薬を大量に消費したおかげで暫くは沈まんだろうが、燃料だって無尽蔵では無い」

 戦艦”大和”は命からがらの状態だ。無数の帆船を相手にありったけの弾薬と大量の燃料を消費してしまったし、このまま航行を続けるのは無謀だろう。


「敵はあの帆船連中だけだったのか?」

 どうやらアメリカ連中は居ないようだ。

 陸地もミッドウェー島では無さそうだし、どこか知らない海域へ飛ばされたような感覚である。数日前に現れた謎の女が関係しているのかもしれない。


 陸地は見た事のない地形だが、大和レベルの巨艦でも難なく停泊できそうな港を有している。


「……目立った暗礁もなく、なかなか整備されている港のようです」

「ううむ。もう少し様子を見たい所だが大和も限界だ。……両舷前進微速、よし入れ」

 もはや満身創痍。これ以上浸水が悪化する前に停泊しなければ、最悪の場合は機動性を失い漂流も覚悟しなければならない。

 必要ならば大和の主砲をチラつかせてでも現地人を説得し、乗組員の安全を確保したい所だ。


 それに、少しでも現状把握のための情報収集に努めたい。山本は一縷の望みに賭ける事にしたのだった。




「――湾内に入ります」

 4キロメートル程前から減速を開始した大和。船速は充分に落ちており、全長263メートルの巨艦がゆっくりと港へ進入して行く。

 今のところ遮るようなモノは一切見られず、心配していた地上からの砲撃なども無い。


「……人が居ないぞ」

 艦橋で双眼鏡を構える乗組員達。


 整備された港。西欧風の美しい建物が多く並んでいるが、1人の歩行者すら確認できない。


「罠か?」

「そうだとして、大和は限界に近い。陸地探索を優先すべきだろう」

 艦橋内の将校達が寄り集まり、今後の方針について話し合いを進める。


 食糧・水・燃料……それに大和を修繕できる設備も必要だ。

 そもそも現在位置が解らない以上、本国までどのくらいの航海になるのかも不明である。暫くは陸地に拠点を構え、地理など情報収集に勤めるべきだとの結論に達した。


「……寄せられそうか?」

「やらせます」

 山本の質問へ即答する航海長。65,000トンにも及ぶ巨大な艦を港へ停泊・係留するためには本来タグボートなどの支援が必要なのだが、此処にそんなモノは無い。

 沖に停泊し、内火艇を使用して乗員をピストン輸送するのも1つの手段ではある。しかし大和に搭乗する2,500名もの人員を行き来させるには心許こころもとない。

 出来れば係留し、必要時には全員が即座に乗り込めるようにしておいたほうが良いだろう。


 各自手の空いている者は甲板に繰り出し、座礁しそうな岩が無いかを確認したり、係留用のロープを掛けられそうな係船柱を探したりと、事細かに役割をこなして行く。


「木か……」

「係留は無理かもな」

 係船柱は木製であった。1隻500トン程度の帆船を係留しておくには充分だろうが、大和を留めるには脆弱すぎる造りだ。


「自力で寄せます」

「頼んだぞ」

 幸いにもこの港には直線距離がある。極めてゆっくり、今にも停まりそうな速度で進みながら、少しずつ右舷と港の距離を詰めて行く。

 程なくして、ギリギリ上陸準備を進められそうな間隔まで接近した。上出来だ。


「よし……両弦主錨下せ。中錨はどうだ?」

「先の砲撃戦により、右舷中錨が損傷、欠落しております」


「……そうか。左舷中錨も下せ」

 艦長、高柳儀八のりはち少将のかけ声。航海長が復唱し、伝声管を通じ各部へ伝えられた。


 伝令を受けた最上甲板の作業員達は手際良く各錨鎖のストッパーを外し、抑鎖桿の開放や揚錨機の操作を開始。前方2箇所の錨見台から送られる手旗信号に合わせ、ブレーキを調節しながら大和前方にある2つの主錨を下ろして行く。

 主錨は1つで15トンもある巨大な錨だ。錨鎖の張力も凄まじく、ガシャンガシャンと重厚な音を響かせながら徐々に海底へ向かう。


 この港の係船柱は役に立たない。大和自身の錨によって適度な張力を保ち、なるべく海面の揺れに逆らわぬよう停泊するのが良いだろう。


「……良い加減だ」

「ラッタルの準備も整いました」

 錨が着底。程なくして、各部より港へラッタルはしごが架けられた。

 十一年式軽機関銃を装備した数名の兵が警戒にあたる中、続々と乗員が陸地へ降り立って行く。

 上陸後も警戒を続けられるようにする為、将校達は拳銃を持ち、兵の400名程にはボルトアクション式の”八式歩兵銃”を配備させている。


「長官、どうぞ」

「うむ……」

 道を空けながら敬礼する乗組員達。その中を山本と高柳らが歩いて行く。


 やがて隊列を抜け、目の前に広がる西欧風の町並みをぐるりと見回す。

 港から町並みまではやや距離があり、数万人が集っても余裕があるほどの広大な広場となっている。


「――! 何かが向かってきます」

「あれは……馬? 帆船の次は騎兵か? 単騎のようだな」

 双眼鏡を覗き込む将校達。広場の奥から繋がる丘より、一騎の騎兵らしき者がこちらへ向かってくる。


 向かってくる騎兵を待ち構えるように、最前列で仁王立ちをする山本。周囲の乗組員達が小銃を構え、接近する騎兵へ警戒する。


「……長官、一旦後ろへ」

「いや、いい」

 周囲の将校からの提言を断り、山本は迫り来る騎兵をじっと眺める。


「……重そうな甲冑だな。あんなので動けるのか?」

「先の帆船といい、この国は技術発展が乏しいのかもしれんな」

 双眼鏡を通じて、騎兵の容姿が詳細に確認できるようになって来た。

 ブロンズと白が入り混じったフルプレートメイル。乗せて走る馬も相当な負担だろう。パカラパカラと軽く流しているような走り方だが、人が走るよりは速い程度といった所だ。


 皆、無言になる。騎兵は数分ほどで山本達の前まで到達し、重そうな装備の割には身軽な動きで馬から降り立つ。

 そして金属製のヘルムを外し、彫りの深いヒゲ面の男の顔があらわになった。


『私はダナエ王国近衛騎士団長、ニコラウス・アンドレウと申します。国を代表し申し伝える。我々は投降し、ナール連邦への併合を受け入れる所存。どうか、国を荒らさないで頂きたい』


「うん……? 何語だ?」

「少なくとも英語では無さそうですな」

 自分たちの目の前で跪いている大柄な髭面の騎士らしき男に注目する山本達。何やら喋っているようだが、全く聞き取る事ができない。


『……フム。やはりナールにも様々な民族が居るようだ。を持って来てよかった』

 そう言うと男は、腰に身につけていた収納具より親指くらいのクリスタルのような物体を取り出し、それを軽く弾くように真上へ飛ばした。


 物体は人の身長よりやや高いくらいの位置へ浮遊するように留まったまま、クルクルと回転し始める。やがて凄まじい速さで回転し、そのまま弾け飛んだ。


「これで通じるでしょう。いかがかな」

「おおっ? 日本語か? いや違うな……しかし言っている事が解る」

 男が発する言葉自体は聞き覚えのない言語なのだが、何故か意味が理解できる。


「改めて申し上げる。我がダナエ王国はナール連邦への併合を受け入れる。全てに従おう。どうか、民や土地を傷つけないで頂きたい――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る