9.二十三日目


「ロン!」

「うーん、ほんとうに、お強いですね」

「ちょっとこれマジエグくない? ほら対々和トイトイホーで三元牌」

「え、ちょっと、しかもドラの西シャー暗刻あんこじゃないっすか!」

「なんかもうツキすぎててうける」

「麻雀はやっぱ、元カノさんマターですねー」

 科学者のプログラミングと元カノのルール知識があったおかげで、この不毛な地にも十分楽しめる娯楽ができました。家内が入ったことにより麻雀がさらに充実しましたが、いいことばかりが常に続くことはありません。

 それはこの対局を終えて、少し日が暮れたころのことでした。本当に、突如として社会人が倒れたのです。湿ったダンボールと使い物にならないリュックサックによって衝撃は和らぎましたが、残念ながら一人で遠征をしていたので、仲間は傍にいません。結局は帰りが遅いことを心配した家内と元カノが探すことにしました。

「ちょっと何寝てんのさ!」

「う」

 何やら倒れながら冷汗を垂らし、息切れている今の社会人には一文字発することが限界のようでした。家内は一大事と感じ、すぐさま彼を運び上げるよう提案しました。拠点で休ませます。何かの病気か、感染症か、そうだとしたら移ってしまうものなのか、もう手遅れなのか、様々な憶測が飛び交いましたが、話を聞くとそれらは杞憂だったことがわかりました。

「たぶん、話を聞く限りは自律神経失調症に抑鬱の状態が合わさっているんだと思います」

「何でそんな分かるのさ」

「私は津波の前、日本で精神調整医をしていました。ドールや知脳AIなどもそうですが、人間の精神調整もまかせられていましたから……。科学者、お水」

「はい」

 親子の見事な連係プレーを見ているうちに、元カノは徐々に社会人が深く息をするまでに回復していることに気付きます。そのうちハッとしたように目を開けた社会人が、ふわふわとした口調で話しだします。

「どうも、すみませんでした。お詫びに、今夜の見張りも私にやらさせてください」

「やめなさい」

 家内が強く制止します。このめりはりこそが、彼女が精神調整医であったという確かな証拠になりましょう。

「でも、ごめんなさいね。あなたの厚意に甘えて、私、昨日の見張りを変わってもらいましたものね。二日連続の見張りに徹夜の麻雀、それにさっきだって合計七リットルの水を運ぼうとしていたでしょう。あなたは断れない性格で、責任感や正義感が強く、ストレスの発散に弱い人だと思います。難しいことだとは思いますが、今はしっかりと休んで、その間やらなければいけないこととか、迷惑をかけているとかは考えないようにしてください。わかりましたか」

 科学者と元カノが見守る中素直に頷く社会人でしたが、これは彼にとって苦行でしかありません。とりあえず家内が見張りをしていると、社会人が重い体を起こしてきては変わろうとしてきます。相当に重症のようです。結局のところ、今夜は家内と社会人が二人して徹夜するという異常な事態に陥ったまま朝を迎えてしまいました。







 

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