7.十日目


「元カノさん、ナプキンありましたよ」

「よっしゃあ!」

「元カノさん、歯磨きセットです」

「なんだろう、ツき過ぎてる気がすんのは、あたしだけ?」

 ジャンク上生活十日目――社会人が加わって五日目となった今日。食料はもちろん必需品にも恵まれてうきうきの元カノ。科学者の作っていた「有用品探知知能」も、ひとまず運用に必要最低限のデータが集まったため試運転に移行しました。無法地帯にいるのに、何者かに襲撃されることもなく順風満帆な生活。でも、順風満帆だからこそ、欲求はもう一つ二つ上の望みを所望するのでした。


「なんか、飽きたかも」

「しりとりしますか?」

「それが一番飽きてんだって!」

「そうですね」

「あ、そうだ。あんたさ、物津波の前って、休日何して暇つぶしてた?」

「基本的には、散歩、ジョギング、フットサル、掃除、整理整頓、食べ歩きとかですかね」

「え、うっすー。マジでそれしかやってこなかったん」

 全く暇つぶし問題を解消することができないまま、二人は科学者にそのことを相談しました。ちなみに科学者はソフトのデバッグ、架空の言語作成、オリジナルAIの教育、パルダリウム維持観賞と、非常に高度な文明でないとお目にかかれない趣味だったので、もはやマネするとかいう次元ではありませんでした。

「元カノさん、その、趣味とか、あったの」

「あたしねー、結構ファッション凝ってたから友達とアパレルショップめぐったり、あとARメイクとか……、あ! 麻雀とか昔アプリでやってたんだよね。ねえやってみない?」

「聞いたことはあるけど、なんか複雑そうな、アナログゲームだったよね」

「あんたのしてることよりよっぽど単純よー。まーでも最低でも牌と雀卓ないと話にならないけど」

 欠乏した娯楽のため、三人は力を合わます。フードプロセッサーを掻き分け、②□□□を蹴散らし、高性能集積チップを踏んずけて探しました。それでもトランプ一枚見つかりません。でもちょっと待ってください、そういえば最近あまり食糧が不足してなかったので気付くのが遅くなりましたが、ジャンク生活を送った当初からすれば、ずいぶんと充実しているではありませんか。パンやナッツの缶詰、カレーやピラフなどの宇宙食に化学調味料と砂糖たっぷりのソフトドリンク。

 とりあえず娯楽は元カノと社会人が担当することにして、科学者は一人丘の上に立ちます。ここは物津波よりも上にあるので撮影場所ごと動く心配もありません。


 あたりが暗くなって、科学者は鉄球の住処へと戻ります。

「どうだったの、娯楽とかは」

「ゼロ」

「今は娯楽のプライオリティが一番なんですよね……。困りました」

「それはそうとね、とりあえずネーブルの方角はわかったよ。たぶん南南東」

「んじゃこれからの目標は生命維持じゃなくって、まずネーブルの方へいくってことだね」

「うん、文明に、触れられるかも」








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