4.二日目


「えーっと、というわけで。ひとまずあたしたちの所持品、整理してみよっか」

 衣食住の確保ができたことによるのか若干早口が治った元カノが、朝からかなり理想的な指揮を執っていました。科学者は言われるがまま所持品をまき散らします。

「ビスケットが二袋ー、と水三リットルくらい。であとはコンパス、ショットガン、紐」

「それと、一応、こ、これもかな」

「へー、あんたこんなの持ってんの? ブック、ちょっとなんか古っぽいけど。それと工具箱」

 物理端末ブックの電源を付けようとしますが、一向に付く気配はありません。湿った目つきを科学者に向けると、これはまだ充電が終わっていないとのことでした。

「カラクタじゃん! 使えな」

「い、いや、その、太陽光パネルとか、手回し発電機何かがあればいけそう。ケーブルとアダプターは、ある、から」

 しかし、物理端末ブックに充電があろうとなかろうと、もはやこの世界にインターネットは存在しません。それに加えて現在の飲料は三リットル。人間が一日に必要とする水分を一リットル半と見積もっても、これでは一日しか持ちません。二人は飲料と発電機の類を優先して行動することにしました。

「その、ボク実は、三日前くらいから水とか食料を効率的に探知できるかもしれない、そんなシステム作ろうとか、思ってて」

「やるじゃん! で、どんなの」

「深層学習させるんです。ブックに。水とか食料、そのほか有用なものがあったら、その周辺の情報を保存して、教師データにするんです」

「はあ?」

「えっとつまり、まあ、そのいまは、まだ端末が動かないんでアレですけど、もし良い物を見つけたときは、その周りに何があるとか、記録しておいて欲しいんです」

 科学者曰く、もし有用なアイテムがある場所に法則性があるならば、むやみやたらにジャンクをかき分けなくても、その法則から導き出された兆候を探せば良い、とのことでした。物津波による文明崩壊前は全てを代理AIサロゲートに任せていた元カノにはあまり理解できなかったようですが、とにかく法則性を見つけたいということを熱心に科学者に言われて、理解したような顔で探索に向かうのでした。


「科学者!」

 獲物を見つけた捕食者の如き圧で、拠点に飛び込んだ元カノ。もちろん科学者は驚かないはずがないのですが、それ以上に元カノの拾得物には度肝を抜かれます。新たに二リットルのお茶と、科学者のよりも少し新しい物理端末ブック(しかも充電あり)、そして刃渡り二十センチのナイフに毛布。

「これ、全部落ちてたの」

「そうよそうよ、これマジでめっちゃエラくない? 私。褒めてよね」

「すごい……、ちゃんと充電もあるし、これ太陽光パネルもついてる!」

「あ、そうなの」

「それで、さ。これブックは順序として、いつ手に入れたの」

「最初」

「え、で、でも、写真ないんだけど」

「ああ~、ちょっとそれは忘れてた。あまりにすごい成果だったから。ゴメンって」

 もう言葉が出てきません。確かに食料飲料はたくさんあるに越したことは無いのですが、知恵を使わずただものをあさるだけでは、類人猿と同じだからです。口にこそしなかったものの、科学者はいてもたってもいられず、この後一人で散策して、無事ライフルとそれがあった位置情報を獲得したのでした。






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