第4話 一発逆転エースストライク!

 ヨハネのエースストライクは奇跡の再臨。

 体力がゼロになったとき、それを全て回復させる。さらに、神の雷を自身に纏い高速移動と電撃を自由自在に放ち十字槌を簡単に振り回す力。

 デメリットとして体力が減り続けるため逃げ切られると負けてしまうという点。

 しかし、ここでは逃げる場所などどこにもない。ヨハネにとって美春は格好の的だった。


「おとなしく降参しなさい。すでに勝負はついている」

「体力減らしながら言う言葉じゃないですよ」

「まだ耐えるつもりですか。ならばこれで!」


 十字槌に雷をためて一気に放出。

 大量の電撃が美春を襲った。

 避けきれるはずもなく美春は直撃をくらいその場に倒れこんだ。


「くっ……。ゲームなのに衝撃がすごい。それに体が思うように動かなくなってきた。体力がなくなりかけてるんだ」


 刀をフィールドに立て何とか立ち上がるがその姿は満身創痍。とても反撃に出られるような状態に見えなかった。

 余裕の表情を浮かべるヨハネに対し、もう一撃だって当たることのできない限界ギリギリの美春。完全にヨハネのほうが優位だった


 その様子を心配そうに見ている椿と大和。

 椿は辛そうにしている美春の姿を直視できなかった。


「な、何か手はないの?」

「あることにはある」

「逆転できるの?」

「美春さん次第だと思う。刀というのは一撃必殺の武器。剣という扱いの中ではあまりにも切断と突く能力に優れている。だから、エースストライクもそれに準じた一撃必殺になれば……」


 エースストライクは人によってまったく違う効果を発揮する。

 美春次第でこの状況はひっくり返る。


 ヨハネにフィールドを支配され、離れても近づいても相手に打ち負かされてしまうこの状況。常人なら諦めてしまうはずだが美春の目は闘志を失ってはいなかった。


「師範代が言ってたっけ。不利な状況ほど燃えるって。今なそれがわかる気がする!」


 美春は刀を構えた。

 その立ち姿はこの戦いが始まってすぐのときよりも勇ましく凛々しく闘志に燃えていた。


「まだ立ち上がりますか。私ものんびりしているとやられてしまいますから、ここで終わりにします!」


 雷のごとく高速移動で背後をとるヨハネ。背後をとったと同時に十字槌振るう。


「終わりです!」

「まだだ!!」


 美春は十字槌の攻撃を刀でガードしなんと受けきったのだ。しかし、体力は減っていく。直撃や吹き飛ばれるよりはましだがノーダメージでは受けることはできない。それよりもヨハネは自身の攻撃を見切られたことに驚いた。 


「潰えぬ闘志に高速移動を見切る技量。一体何者なんだ」

「ただの武芸を嗜む女子高生ですよ!」

 

 言いながら刀を振るったがヨハネはギリギリのところで直撃を回避した。

 じわじわと体力が減るヨハネにとっても刀の一撃、もとい美春の一撃はもらうわけにはいかない。


「ならば、離れればいいだけだ!」


 高速で後ろに下がるヨハネに合わせヨハネの最終地点を予測し走った。

 高速で移動する相手がどこへいくかなど本来ならわかるわけもない。だが、美春は日々の稽古から相手がいきたい場所を探ることを得意としている。

 不利な状況ほどその動きは単調となり目的に対してストレートに移動をしてしまう。


 接近戦から逃げるならまずは遠くへ。しかし、命中精度を落とすわけにはいかない。時間の上ではヨハネのほうが余裕はない。そして、直線に逃げるというのは単純すぎるという思考が働いてしまう。故にどちらかへと曲がる。

 さらに、そこから利き手方向へと逃げることを予測する。人は自然に利き手が扱いやすい場所へと移動しようとする。

 これだけの高速移動なら無意識で利き手方向へと移動したとしてもなんら不思議ではない。

 その結果、ヨハネが移動すると同時に到着地点へと美春もやってきた。


「なにっ!?」


 これにはヨハネも驚いた。

 まさか離れようとした相手が移動先で目の前にいるなど誰も考えない。

 反射的にヨハネは十字槌に電撃を纏わせ振るった。その速さは今までよりも上がっており威力も向上していた。


「これで終わりだ!」

「それはこちらの台詞です!」


 美春の刀が閃光を放ち二人を包んだ。

 

「なんだ……これは……」


 ヨハネが閃光から解放されるとそこには木々が並んでいた。


「ここは……?」


 木々が並ぶ道の中央には刀を持った美春の姿。


「正面にいるとはただの的ですよ!」


 しかし、ヨハネの体は動かなかった。


「なにっ!?」

「あなたは決して動けない。この四季が流れるまでは」


 会場には雨が降り。

 夏の日差しが照らし。

 夕日が沈み。

 星空が輝く。

 再び日が昇ると紅葉やイチョウが木々を飾る。

 冷たい風が吹き、枯れ葉が舞う。

 太陽が沈み暗い雲からは雪が降り注ぐ。

 日が昇り雪が溶け、草木が彩りはじめたころ。

 木々に桜が咲き誇る。


「これが君のエースストライクとでも言うのか……」

「この桜が全て舞い落ちるまであなたは動けない」


 美春が刀を構えると桜が舞い散り、刀の刀身は桜色の光を放った。


「これが私のエースストライクです!」


 ヨハネを一閃。

 桜並木の通りでヨハネは美春に敗北した。

 舞い散る桜の中にたたずむ美春の姿は現代に甦りし女侍としての風格を纏っていた。


「エースストライク、四季桜乱しきおうらん。いい技ね」


 桜並木が消えると実況の声が会場に響いた。


「決着!! 勝者はミハルぅ!! 最後の最後でヨハネの動きを見切りエースストライクで動きを封じたミハルの今後に更なる期待が高まる。ヨハネも二度の奇跡という規格外の力を生み出した。今後戦う相手にとってプレッシャーとなるだろう!」


 戦いが終わり起き上がったヨハネは美春のほうに向かい握手を求めた。


「戦いとはいえ挑発をして気分を害したかもしれない。申し訳ない。しかし、君の力は本物です。活躍に期待してますよ。再戦したときには私が勝ちますがね」

「いろいろと勉強になりました。でも、次も私が勝ちます!」

 

 波乱のエキシビジョンマッチ第一戦は、美春の勝利で決着した。

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