第3話 侍VS神の力

 フィールドに残ったのは美春とヨハネのみ。

 ルールは相手の体力を削り切った方の勝利。

 と言っても相手の体力は可視化されておらず相手の状態から判断するしかできない。ダメージを食らえばそれだけ体も動かしにくくなりどんどん戦況は不利となる。

 イマジネーションシステムを使えば今後の戦闘で相手に手の内をバレてしまう。

 エースストライクも同様だ。

 しかし、ここで倒した分の経験値はもらえるため勝ちに行かなければならない。

 手の内を隠しつつも相手を倒す技量が求められる。


「私はヨハネ、見ての通りこの十字槌が私の武器。この戦いでは負けても失格扱いにはならない。もし、怖ければ降参をお勧めしますよ。私、強いので」

「このゲームは誰だって初めてでしょ。だったら強いかどうかなんてわからないはず」

「ゲームのセオリーが頭に入っていることはどんな作品をするにしても重要。例えそれがダイブ型のゲームでもね」

 

 ヨハネは余程の自身があるようでいきなりの戦いだというのにまったく焦りを見せない。


「なら、その自信を私が切り伏せてあげる!」


 本来、慣れない場所で相手から挑発受けたならば精神的な優位性を取られ戦いにおいてもリードを取られる。

 しかし、美春は違う。むしろその逆。

 相手が有利な場所で勝つことで自身の強さを見せつける。

 稽古においても大人相手に短い木刀や棒で戦い勝利を収めている。

 美春は相手に押されると押し返したくなるタイプなのだ。


「さぁ、二人の熱が高まったところでバトル開始だぁ!!!」

「そんな急に始まるの!?」


 始まった途端ヨハネは一気に走り込み十字槌を美春に向かって振り回した。


「いきなり!?」


 美春は後方へ飛ぶと、想像していた以上に俊敏に体が動いたことに驚いた。


「体が……軽いッ!」


 目の前に広がる光景が現実とほとんど違いがないからこそ、無意識のうちに現実ベースで体を動かしていたが、ここはゲームの世界。

 さらにこのゲームはそれぞれのイマジネーションから技を産み出す。

 着地した瞬間に美春は戦いの思考を巡らせた。


「後ろへ下がれるなら前にだって!」


 着地と同時に美春は踏み込みヨハネのほうへと飛び、刀を振るった。

 しかし、ヨハネは十字槌でそれを防いだ。


「判断が早いですねぇ。しかし、これだけの対格差があるならばあなただって理解しているでしょう。パワーの差をね!!」


 圧倒的なパワーで十字槌を振り回し攻撃を避けた美春を風圧だけで吹き飛ばす。


「触れてないのにこの威力……!」


 しっかりと着地を成功させるが一撃で体力をごっそり持っていかれそうなその迫力に美春は一歩引いてしまった。


「あまりの威力に足を下げましたね。ですが、離れていれば当たらないというわけではない!」


 ヨハネはフィールドを抉りながら十字槌を振り、瓦礫を美春へ飛ばした。

 無数の瓦礫を全て避けるのは困難だと理解した美春は呼吸を整え集中力を高め構えた。


「必要なものだけでいい。瓦礫の単純な動きを予測し避けられないものだけ切る!」


 最小限の動きで避けつつ小さな石を弾き、大きな瓦礫を一刀両断。ゲームの世界ならはではの戦法ではあるが、相手のとんでもないパワーのおかげで美春の想像力は掻き立てられ普段では思い付かない動きを現実にする。


「センスはある。だが、まだ現実に縛られている」


 ヨハネは瓦礫を再び飛ばした。

 先程と同様に美春は意識を集中させ無駄なく瓦礫を排除する。


「パワーがあるということはそれだけ跳躍も出来るということです!」


 ヨハネはすでに真上にいた。

 瓦礫を飛ばしつつ意識を反らし一気に距離を詰めたのだ。


「ヨハネさんは今、優位に立っていると思っている。それこそが精神的な隙だ!」


 真上から十字槌で攻撃をしてくるヨハネに向かって跳躍し刀を振るった。


「ゲームだからって手加減しません!」


 稽古では力を調整して打ち込むところだが、ヨハネに対しては全力で刀を振るった。

 血しぶきのようなエフェクトと同時にヨハネは攻撃の衝撃をくらいそのまま地面に落ちた。

 美春は着地し即座に構える。

 ヨハネはゆっくり立ち上がりながら不適な笑みを浮かべた。


「接近戦では不利か……。しかし、私は神の使いであり聖人。偉大な自然の奇跡をここへ再現する! 食らえ! 神の雷を!」


 美春は突如、肌がピリつく感覚に襲われた。


「何かくる……!?」


 咄嗟に移動すると空から雷が落ちてきた。

 間一杯で避けた美春はすぐに体制を整えるがヨハネは隙を与えずさらに攻撃を重ねた。


「罪を焼き尽くせ!」


 手を振るうと炎が現れ美春を襲った。

 炎の直撃を受け大きく吹き飛ばされてしまう。炎はそばにいる限り持続して美春の体力を削り続けた。


「目に見えるものではない。でも、確かに体力が減っているのはわかる。このままじゃじり貧で負けちゃう……。なら、守るより攻めろだ!」


 燃え盛る炎の中から美春は飛び出し一気にヨハネとの距離を詰める。接近戦になれば不利であると理解したヨハネは近づかせまいと、電撃や炎を放つが全て最小限かつ無駄のない動きでや避けつつも美春はどんどん迫っていきながら一撃を打ち込んだ。


「ちっ……まずい……」


 ヨハネの表情から先程のダメージが高かったこと読みとり美春は次の攻撃で仕留めるつもりでいた。


「全力の一撃で相当ダメージが入ったみたいですね! なら、全力の連撃で!」


 まず、目の前で一撃。流れるようにもう一撃。抵抗し十字槌を振ろうとしたところで背後に回りつつもう一撃。そして、完全に背後に回った状態で一撃。


「刹那四重斬り!!」


 咄嗟に出たその言葉に美春は一瞬驚いたが、これこそイマジネーションシステムによる技の発動であると理解した。

 ヨハネはその場に倒れ動かない。


「終わったぁ……。なんだか疲れた気がする」


 刀を鞘に納め背を向けると観客がざわめきはじめた。

 美春の後ろで音が聞こえる。

 それに気づき振り向くとそこには立ち上がるヨハネの姿があった。


「聖人というのは二度奇跡を起こすもの。一度めは自然界の奇跡を再現。二度めは、死の淵から甦ることだ」


 目に見えるわけではない。

 しかし、ヨハネの体力は完全に回復したとすぐにわかった。


「こっちは体力削られっぱなしなのにやってくれますね……」

「どうせなら勝利させてもらう。ここで私のエースストライクを発動!」


 周囲に雷が落ちると共にヨハネにも強烈な雷が落下した。

 すると、ヨハネは電気をまといふわふわと中へと浮いたのだ。


「聖人の奇跡……。いや、これこそ神の奇跡だ!」


 一瞬の閃光。

 直後、ヨハネは目の前に立っていた。


「み、見えなかった……」

「終わりです!」


 十字槌の一撃が美春を捉えた。

 ギリギリで刀を出して受けるがその衝撃までは防ぎきれず壁まで一気につき飛ばれてしまう。


「くっ……。あんなのどうすればいいの……」


 まだ体力はある。

 しかし、余裕はない。

 あと何度攻撃を受け流せるか。

 急に始まったエキシビジョンマッチ。

 美春は窮地に立たされた。

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