第2話 100人のバトルプレイヤー

 ゲームへダイブすると真っ暗な空間に美春は浮いていた。

 すぐに星空のように光が輝いていき、銀髪のボブカットの案内係の女性が現れた。


「ようこそ、バトルエースオンラインへ。今からミハル様だけのゲーム内アバターを作っていきます」

「ア、アバター……ですか」

「簡単に言うならばゲーム内で動くための体です。男性が女性になったり、女性が男性になったり、ファンタジーのように獣人や半獣人、SFのようなアンドロイドや金属生命体にもなれます」

 

 よく知らない言葉を畳みかけられて美春は思考が止まってしまった。


「要するに自分の望んだ姿になれるというわけです」

「望んだ姿ですか……。あの、和風な感じってできますか?」

「もちろんできますよ」

「あの、でも、本物じゃなくてちょっと可愛く動きやすくしてほしいんです」

「では、布面積を少し減らしましょう」


 女性は空中モニターに触れ美春の衣装を変更した。

 美春の服装は巫女服を布を減らしスカートみたいなっており上は薄い桜色ので目立たないように桜柄があしらわれている。


「気に入ってただけましたか?」

「は、はい! とってもかわいいですっ」

「それはなによりです。次は使用する武器を選びましょう。あとから変更できますが最初にもつ武器には愛着が沸くと言います。慎重にお選びください」

「武器か……」


 様々な武芸を習っている美春は槍や薙刀、弓や刀も実際に触れている。

 だが、その中で一番長く扱い美春自身も気に入ってるもの。それは。


「じゃあ、刀でお願いします。一番手になじむので」

「刀ですね」


 すると、美春の腰に刀が現れた。

 刀の柄を掴んでみると意外にも手に馴染んだことに驚いた。


「すごい、私のと似てる」

「これはミハル様のイメージから作り出した刀。その桜柄もミハル様のイメージから作られました。このゲームでは想像力が勝利のカギになります。常識の枠組みにとらわれずに戦うことで誰にもまねできない戦いができるのです」

「想像力が勝利のカギ。似たようなことを師範代が言ってたなぁ」


 美春の師範代は常に「攻撃が相手に当たる姿、反撃を交わす自分の姿、勝利する自分の姿を想像しろ」と言っていった。

 明確な勝利のイメージがないものは勝つことができないというのが師範代の考えだ。


「では、大まかな準備は整いました。これからはあなたは様々な世界を旅するワールドトラベラーとしてその出発地点、ワールドセントラルゾーンのロビーへと送られます」

「そこで何をすればいいんですか?」

「まもなく始まる開会式に出てもらいます。わからないことがあればロビーの受付で聞いてください」

「わかりました。ありがとうございました」

「それでは、果てのない旅をどうぞお楽しみください」


 美春は光に包まれ視界は真っ白になった。


 少しすると少しずつ目の前が見え始めた。

 そこはSFチックなロビーであった。

 美春はポータルサークルから降りると周囲を見渡した。


「二人はどこにいるんだろう?」


 すると、いつものように後ろから聞きなれた声が聞こえた。

 

「み~は~るっ!」

 

 勢いよく後ろから抱き着いてきたのは椿だった。


「おっと。すごい、ゲームの中なのに抱き着かれた衝撃がわかるよ」

「これが最新のゲームなんです」


 椿はドイツの民族衣装ディアンドルのような姿をしており、大和はまるでどこかの特殊部隊のように黒い服装に弾薬など詰められるようなポケットがついている。

 

「二人は武器もってないみたいだけど」

「俺たちはまだバトルプレイヤーではないので武器はないんです。といってもここは武器の使用ができないエリアですけどね」


 広いロビーの中央に円形の受付がありそこでは銀髪の女性や男性やプレイヤーたちの質問に答えたり場所を案内している。

 近くにも座るスペースがあるがフロアを移動すると噴水や自然公園のような場所もある。しかし、全体的にSFチックな世界観が目立つ。

 美春が周りを見渡していると椿が大きな窓から向こうの景色を見ていた。


「ミハル見てみて! ドームだよ!」

 

 椿の下へ向かうとそこは大きな会場が広がっていた。

 すでに多くの観客プレイヤーが集まっており、バトルエースオンラインの開会式を待ちわびている。

 すると、アナウンスが流れた。


「バトルプレイヤーのみなさんは受付でIDチェックを行い指定されたポータルで移動をお願いします」

「ミハル、出番だよ。しっかりね!」

「今日は何もないと思いますので気を楽にしてください」

「二人ともありがとう。行ってくるよ!」


 受付でIDチェックを済ませ指定されたポータルへ行くと、近くのポータルに入ろうとした女性プレイヤーに目が留まった。その姿は桜柄の袴で刀を装備しており竹笠で顔が見えない。しかし、美春はその動きにどこから見覚えがあった。

 だが、その女性すぐにポータルに入り姿を消した。

 気になるもののどうしようもないので美春もポータルへと入る。

 

 個人ルームへ移動し会場の映像を見ているとそこには数多くのプレイヤーがこの開会式を見ようと全国から視聴していた。

 この開会式映像はダイブマシン以外でも参加できるため、本来のプレイヤー数よりも多く会場には集まっている。

 動画サイトの視聴者や自宅のVRからつなげることで観客席から見ることができる。


「バトルプレイヤーのみなさんは会場へ移動するため、ポータルへ乗ってください」

「つ、ついにきた……」


 ポータルへ乗り体を光が包んだ。

 移動するとすぐに歓声が聞こえ目を開けるとそこは会場の中央だった。


「さぁ! バトルエースオンラインのバトルプレイヤーがついに揃ったぁ!」

 

 軽快な実況の声が鳴り響く。


「今回はバトルエースオンラインの大会のために先行バトルプレイヤー総勢100人に集まってもらった!」


 周りを見渡すと個性豊かなアバターが勢ぞろいしていた。

 ロボットのようなものから二足歩行で歩く猫、大きな斧をもったオオカミ顔を男性や戦う前から傷跡だらけのナース服を着たアバターまで。

 その中においては美春の姿はむしろ地味なくらいだ。


「望んだ姿ってホントになんでもありなんだ……」


 強烈なアバターが目立つ中、普通のアバターも相応にいたことで美春は少し安心した。


「バトルプレイヤーの方々には様々な形式のバトルをクリアしてもらい最後の一人に残ったものが優勝! 優勝者には賞金100万円と初代エースの称号が授与されることとなる!」

「100万……。がんばらなきゃ」


 あくまで美春はお金のために勝ちを狙う。

 大学生になってバイトに明け暮れる日々というのにはあまりなりたくないと思っていたからだ。


「ここからは総勢100人のバトルプレイヤーへの説明だ! 現在君たちのレベルは0。ここから冒険したり戦ったり勝ったり負けたりして経験値が稼がれていく。レベルが上がれば強くなるのは当然としてこのゲームにはそのレベル差を覆すシステムが存在する。それはイマジネーションシステムだ!」


 イマジネーションシステムとは、それぞれの想像力から技を開発しそれを繰り出すシステムである。持っている武器や状況によってできることは限られるが、窮地に立たされた時や自身の想像力を搔き立てたときに特殊な技を発生させることができる。

 一度発生させると以後、クールタイムなどの条件付きで発動ができる。

 それに加えエースストライクという必殺技がある。

 これも自身のイメージから繰り出す必殺技で、一度発動すると以後その技で固定される。一発逆転の一撃必殺技や一定時間無敵になったり能力が向上したりなどその範囲は幅広い。


「どんな状況でもどんな人間でも、勝利のイメージを明確に持つことで逆転はありえる。これこそが今までのゲームと違ったダイブマシンならではの画期的なシステムだ! 最後の最後まであきらめるんじゃないぞ!」


 開会式は順調に進み、偉い人の話やバトルプレイヤーの紹介が終わりそろそろ終わりかなと思っていた時だった。


「では、ここで急遽エキシビションマッチを開催する! ランダムで選ばれた4人のプレイヤーに一対一の戦いをしてもらう!」

「うそっ……。それ予定ないじゃん」


 巨大空中モニターにランダムでバトルプレイヤーが映し出された。


「第一戦、ミハルVSヨハネ! 第二戦、クロノVSジャッカル!」


 まさかの第一戦に選ばれたのはミハルだった。

 そして、そのヨハネというのは。


「この私の出番か。圧倒的な力で説き伏せよう」


 身長185㎝はある神父のような男性で背中に十字の形をしたハンマーを背負っている。


「つ、強そう……」


 美春よりも20㎝は高く体格も大きい。

 普通なら勝ち目など薄いがここはゲームの世界だ。


「刀があるなら何とかなるかも」


 美春はまだ右も左もわからぬ状況ではあったが少しずつ場の雰囲気に対応し始めていた。

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