第33話 NTRロッカー

 夏樹さんに硬いものの正体を疑われている。


 そうだよな……悟られてしまうのも無理もない。

 彼女のいう硬いものとは、俺の腰のやつで。


「──ふぅ。気に……しないで、くれ」


 ちょうどそれは彼女の横腹から腰骨あたりに当たってる。


 俺のスマホが入ってる方の足は彼女の股の間だ。

 当然、把握出来るだろうな。


「んんっ……あつ……熱い……ん」


 なんでかな。


 認めてはいけない。

 有菜にどんなこと言われるか判らない。


 誤魔化そう、熱いと言えば────。


「こほん。夏樹さん……大丈夫? さっきのナニかしてたもんね。俺は別に……なんともないけど?」


 プクッと両頬を膨らませて可愛く抗議してくる夏樹さん。

 暗くて薄っすらと見える上目遣いがグッとくる。


「ち、ちがッ────あれは無理矢理だもんっ。色んなとこ……水着の上から触られただけ、なの。もぅ……私じゃなくてっ……」 


 ほう……。

 無理矢理だと熱くならない。


 じゃあ俺のこれは何なんだ。

 そんなこと言われたら、更に認めてはいけない。


「俺? ああ、スマホもう一台持ってて……」


 スマホがゲー厶しすぎて熱くなってるのかな。

 バッテリーとか爆発することあるから、あんまり良いことじゃないよね。

 そういうことにしよう。


「……ぁ、私てっきり……ごめんなさい」


 と言いながら彼女はモゾモゾっと、俺がスマホと言った物から当たらないように身体を動かしていく。


 謝る必要はないと思うけど……。


 でも、咄嗟に出た言い訳としてはいけそうなやつを思いついたな。

 有菜はバンバン男達をフってるが、俺も自分のフラグぐらいなんとかできる、と思った。


 しかし──ここはロッカーの中。


 ギュウギュウで容量オーバー。

 ただただ、擦れていくだけ。


「────ゔ」


「だ、大丈夫?」


 容量オーバーなのはそれだけじゃない。


 夏樹さんのたわわな胸。

 スク水からはちきれんばかりの大きさ。

 モゾモゾするたびに暴力的に当たってくる。


 俺のフラグ。

 色んな意味が含まれるが、主に幼馴染の堪忍袋がはち切れるんじゃないかな。


「ゔっ……やば、ごめっ、う、嘘、ちょストップ」


「…………へ?」


 夏樹さんは動きを止めてくれた。


 我慢の限界だった。

 俺は急いで当たらないよう、彼女に壁ドンのような体勢を取る。

 これでお胸は当たらないが……代わりに夏樹さんの視野が広がった。

 そして、視線が俺の腰辺りに移動した。


 熱いものが何だったのか、完全にバレてしまった。


 それを彼女のせいに……。

 いや、擦り付けてしまったこと全てが。


「「……………………」」


 スク水を着た黒髪美少女の濡れた前髪。

 その間からジト目が俺に飛んでくる。


「────私のせいに……して……」


 ごめんなさい……恥ずかがり屋さんだったよね。

 色々と忘れてたんだ、それどころじゃなくって。


 ずーっとジト目で睨まれ続ける。


「まじごめん」


「こ、こんなの……あっちゃんにどう言うの……」


 滅相もない。

 だけど生理現象だから、これぐらいは認めてくれるんじゃないかな。

 なんて思っていた、その瞬間。


 ────プルプル。


 俺のスマホが鳴った。

 相手は一人しかいない、有菜からだろう。

 流石に俺が来るのが遅すぎて痺れを切らしたんだな。

 こんなに狭いロッカーの中だからか、音が反響する。


「んんん……あっ……」


 夏樹さんの声も凄く反響しているようだ。


 これはスマホの位置が悪い。

 彼女もモゾモゾっと動いてたけど、結局足腰はそのままの位置だし。


 放置しておくと良くない。


「ご、ごめっ」


「ふぁ……ぁ、と、止めてっ……おね、がい」


 俺はちょっとした壁ドン状態になっていた腕をポケットに突っ込み、確認しないまま拒否ボタンを押そうとする。


 だけど一瞬、有菜の言葉をまた思い出した。


『──絶対イヤ!! せっかく繋がったんだよ』


 凄く気が病む。

 また、いじわるをしていると勘違いされ、有菜のことを傷付けてしまうんじゃないか。


 このまま拒否のボタンを押さないのは────。


「よ、吉野くんっ……いじわるっ、しないでぇ」


 こちらのいじわるになってしまっているようだ。

 仕方ない。すぐにプールで合流して謝ろう。


 ────ピッ。


 よし、これで一旦は大丈夫。

 そう思ってポケットから手を出そうとした瞬間。

 微かに、ロッカーに響く声が聞こえた。


『もしもし、勇緒? 何してるの?』


 俺は逆の着信ボタンを押してしまったようだ。


 ポケットに手を入れるまでは、当たりにくい体勢だった。

 しかし今はお互いの姿勢が崩れ、夏樹さんとべったりくっ付いてしまっている。


 彼女は何かを我慢している様子。

 両手で俺の肩をギュッと横から掴んでいる。

 二つの柔らかいものを押し潰すようにこちらにもたれ掛かってきた。


「んんっ……だ、だめっ、あっちゃん……なの?」

 

 これが────NTRノートの効果。

 ああ、きっとそうに違いない。


 ノートの効果によって色んなフラグが立ってしまうんだ。

 俺のフラグもきっとこの被害者。

 そうだ、これは仕方のないこと。

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