第29話 息の荒い電話
▽ ▽ ▽
土曜、13時。
起床。
昨日は結局全然寝れず、結局寝たのは朝の4時ごろ。
起きたらこんな時間である。
────ブー、ブー。
スマホのバイブレーションがどこかで鳴っているようだ。
ぼっちに土曜の昼間から電話してくるヤツなんていたか。
瞼があまり開いていない。
見ずに通話ボタンを押し、耳元につけた。
「もしも────」
「勇緒?…………っ……やっと繋がった」
声を聞いて、すぐに昨日のことを思い出した。
だけど逆に寝る前までしていた妄想が先に頭に過り、恥ずかしくなる。
デート時間の指定はなかったけど、常識的にアウトだよな。
強制的に目を覚まそうと思い、ベッドから起きて自分の頬を叩く。
「ッ────って痛てて!」
ビンタされていたことを忘れていた。
腫れているところに、自分で追い討ちをかけてしまったよう。
すぐに謝ろうと思ったのに……。
「……ぇ、あうぅ……い、痛いよね。そうだよ……ね」
電話口から聞こえる有菜の声は、いつもより声が籠っている気がする。
こういう場合はデートの約束だったよね! みたいな、ちょっとだけ小言を言われるイメージがあったけど……。
一体、どうしたんだろう。
「ごめん寝てた」
「ほ、ほんと? てっきり……凛ちゃんの方に……んっ……」
「なんでだよ! 先のデートって約束だったし」
「う、うん。良かったぁ……」
今日の有菜は何か変だな。
学校一の美少女の溢れんばかりの自信、いやそもそも、声が小さくてあまり聞こえない。
「さっきから声が聞き取りにくくてさ、電話じゃなくて通話アプリに変えない?」
「イヤ、ちょっと今、声聞かれたく……ない」
「わかった。じゃあ、あとで掛け直そうか?」
「絶対イヤ!! せっかく繋がったんだよ。なんでそんな……いじわるばっかり、する……の」
「ん? さっきからどうしたんだ有菜?」
「何でもない! ちょっと…………繋げたまま、このままで待ってて」
そして数分後。
有菜のいつもの調子の声がスマホから聞こえた。
「よし、全然らしくないけど一応確認させて。勇緒は答えたら忘れてね」
「え、無理でしょ。どうやって忘れるんだ」
さっきまで普段と全然違う有菜だったと思うし……。
もしかしたら泣いてたのかもしれないって考えてたんだ。
そんなの忘れられる訳ないし……。
「む〜!……もういい! いっつまで経っても返事ないから色んなこと考えちゃってたの!! だってデートの約束だったしッ!」
「ごめん、ほんとごめん」
「ビンタで嫌われたのかなとか! 凛ちゃんみたいに優しい子の方がいいのかなとか! あの時、勇緒もえっちしたかったのかなとか!」
理由が完全に分かった。
おいおい、ノートのことは眼中にないのかよ……。
そしてあまりに早い口調でポンポン言われたが……最後が気になって仕方がない。
「ん? 勇緒も?」
「ッ────変なとこだけ拾わなくていいから!!」
「わかった! すぐ支度して行く」
「ふ~ん? 好きなゲームで練習はいいの? 無理しなくてもいいよ別に」
煽ってきた。もういつも通りみたいだ。
照れずに気持ちを伝えてみる。
「無理じゃない。会いたいから、有菜と」
「なな、何急に?!」
「今からだと13時半頃につく……かな」
「そ、そうなんだ。じゃあ待てる! もう私プールにいるよ!」
それは……結構困る。
というか色々と嫌なことを考えてしまうんだが……。
「待て待て! 変な男の人とかいないか? もう水着だったり……? 肌あんまり出したりするのはちょっと」
「ふふっ! なにそれ〜! んっ〜〜! 私ってほんとバカだなぁ」
「ん? 俺じゃなくて? ってか服着てるのか?! 有菜は目立つんだぞ」
「ふへへっ〜、幸せすぎるぅ……くぅ、も〜!」
「何いってんださっきから! 着てるかどうか答えてくれよ」
やっぱり今日の幼馴染は様子が変だ。
そして大きな深呼吸が聞こえて。
「な〜に? 彼氏面ですか? 別に着てますけど」
良かった良かった。何よりもその事実が嬉しい。
一呼吸して、
「ふぅ……幼馴染面ですが? なんか急に余裕出てきやがって」
「そんなこと言って安心しちゃってるくせに」
「うっせ!」
「は〜、ボーナスタイム終っちゃった。私はすーぐこうしちゃうからなー。も〜早く来てよ?」
「はいはい」
▽ ▽ ▽
市民プールの前に着いた。
スマホには有菜からメッセージで『りっちゃんと室斑くん発見!』と来ている。
どうやらプールでダブルデートになるみたいだ。
でもそういえば、夏樹さんがノートに名前を書かれた後から二人は付き合ったんじゃないのか……。
どちらにせよちょうど良い。合流したらまず二人の馴れ初めを聞こう。
夏樹さんがノートに名前を書かれる前から好きな人が室斑だったのか、そうではなかったのかを知りたかったんだ。
既に煩悩の塊となっている俺の頭、それに出てくる水泳部の美少女二人組のいろんな水着姿を一度シャットアウトし、施設の中に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます