第30話 脱がせてよ

 市民プールの施設中に入った。

 すぐに有菜らしき人物を発見。


 けれど服装も確認しないまま、回れ右。


 昼間に遊ぶのが本当に久しぶりで緊張している。


 しかもデートという言葉が重い。


 俺はそのまま、また外に出てしまった。

 ある程度プールから離れたところで深呼吸。


 すると有菜が入り口から出てきた。


 少し遠目気味に見える幼馴染の姿が新鮮だ。


 綺麗だ。可愛い。きょろきょろと周りを見ている。


 服装は灰色のパーカーに白いハーフパンツ。

 裸足が見えるビーチサンダル。


 長袖で薄手のパーカーは身体のラインをありのままに教えてくれる。

 一番上までジッパーは閉めているが、むしろ意識してしまう。


 あの中はきっと────水着姿なんだよな、と。


 胸そんなに大きかったっけ……いつ育ったんだよ。

 昨日一緒にラブホまで行ったのに、あんまり意識できなかったんだな。

 まぁそれどこでは無かったけどさ……。


 改めて意識してしまった幼馴染の反則的な美貌。

 俺はそれに頭が麻痺し、声を掛けれずいる。


 数秒後──────目が合った。


 大きな瞳を細めジト目にして、片頬だけ膨らませる有菜。


「も〜! 一回逃げたでしょ!」


 少し声は大きめ。

 俺たちの距離はまだある。


 苦し紛れの言い訳で返事。


「こ、コミュ障が出たんだ!」


 脈打つ自分の心臓が聞こえる。


 こっちは棒立ちになったまま。

 有菜は駆け足で近づいてくる。


 プールの施設、その影から出てきた彼女は眩しい。

 亜麻色の髪が真夏の太陽に照らされ、銀の系のように輝いている。


 そして、手を伸ばすと届く距離まできた。

 有菜は両手を腰にやり、背中を曲げて俺の顔をぐいっと覗き込む。


「ちゃんと服着てるでしょ? ね、安心した?」


 逃げたことや寝坊でまた怒られるかと思ったら、服のことみたいだ。

 全然安心できないけど、小声で肯定。


「お、おう」


 固まっている俺の姿に、有菜は妙にニヤニヤし始めた。


 自分から何かしようとするときは大体、強気かつ大胆だ。

 嫌な予感がしてきたぞ。


 体勢は中腰で上目遣いのまま。

 俺の横顔を首を左右に振って確認してくる。


 灰色のパーカーに隠された大きな二つの膨らみ。

 それが首の動きに合わせ、揺れている。

 左右に動かすのは反則だろ。


 一番上まで閉められたパーカーのジッパー。

 その金具もネックレスのように揺れ動いていた。


 しかし彼女は片手で、揺れる金具を掴んだ。


 同時に、身体の動き全てをピシャリと止め。

 じぃっと俺を見つめて聞いてくる。


「ねねっ、中はどんな水着だと思う?」


 おいおい、脱ぐなよ……。


 狙ってするな……そういうの。

 刺激的過ぎるし反応に困る。


 ゴクリと息を飲んだ。

 予想しても答えられるわけない。


 すると彼女はジッパーの金具を離した。

 代わりになぜか俺の手を掴むと。


「ごめんごめん。勇緒が──確認したいんだよね」


 と言い、指を絡ませ強引に俺の手を金具に掴ませる。

 一体、何が起こってるんだ。


 デートってこんな始まり方するのか。


「有菜……おま、ちょっと、その」


「ん〜? 下におろすだけだよ〜。ビ〜ってしなよ」


 何言ってんだ。

 確かに全然、人居ないけどさ。

 その前に有菜の手を離してくれないか。


 一旦、深呼吸を挟んで。


「────ふぅ。無理無理ッ! 夏樹さんと室斑も着いてるんだろ」


 理性が戻り、なんとか学校一の美少女を剥くのを拒否。

 そのまま金具から手を離そうとした。


 しかし、有菜の被さる手がそうさせてくれない。


「二人は先に入ってるんだよね」


 いやいやいや。

 俺もそろそろ入りたい、そして下半身を隠したい。


「……プール閉まっちゃうぞ?」


「へへっ。それもそうだね」


 有菜はそう言って被せた手を離した。

 でも、何かを企んだ顔のまま。


 そして彼女が中腰の姿勢を伸ばす瞬間。


 俺はまだ、金具を掴んでいて。


 ────ビーッ。


「えっち」


「ちがッ!!」


 焦って、また一番上に戻した。


 一瞬、見えたのは────むしろ彼女そのものの色で。

 大胆な水着だったのか、着てなかったのかが解らない。

 けれどもう鼻血が出そう。


 やっと俺と有菜はきちんとプールに歩き始めた。


「スク水、着よっか? 持って来てるよ」


「い、いい! もう早く行くぞ!!」


「私、実はちょっと気まずいんだよね〜」


「どした?」


「入学してすぐに室斑くんに告白されたことあってね」


「ぇえええええ」


「りっちゃんには言えてないっていう…………」


 すっごい複雑そうな話が来た。急に現実に戻された気分。


 けれどそのおかげで、前屈みにならず歩けそう。

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