ギャルと遭遇
「あーいたいた」
「あ、裕也」
見つけるなり、駆け足でオレの元へ向かってくる。
そして開口一番、
「裕也負けてんじゃん。ダッセー」
と、バカにしてきた。
「アイツが早すぎるんだよ」
「それ言ったら、いい勝負してた裕也もめっちゃ早いって事になるじゃん」
「まあオレ早いし?」
「うわぁきもぉ」
まあでも、負けは負けだ。言い訳の余地もない。
「普通に完敗だった」
「裕也も頑張ってたからいいんじゃない」
急に優しくなる美雨。しかし、ここで1位をとれないのはかなり痛い。
「でもな、点数がな」
そう、今回オレのクラスから出る選手はオレともう1人。もう1人はあまり早
くない子なので、オレでとっておきたかったのが本音だ。
「本当だ。今ビリじゃん」
結果がもう出ている。
全学年合わせて、色分けされているので、オレたち2年だけが頑張っても勝ち目はない。
チーム一丸となって挑まなければ、体育祭で優勝は不可能と
いう事だ。
「まだ始まったばっかだしな。他にもいろんな競技があるし、挽回できる可能性
はある」
100mは比較的得点の差がない競技。でも、その小さい差で負ける事が良くある。
バスケだってそうだ。
試合が1点差で負けた時、あのゴール決めておけば……イージーシュート外さなければ……と後々後悔することが多い。
それと同じで細かい所まで丁寧にこなさなければならない。一瞬たりとも、自分が出る種目に手を抜けないのだ。
「次はなんだっけ。裕也は800mリレー?」
「ああ。でも午後だけどな」
次に出る種目は美雨の言っている種目。今度は個人戦ではなく、チーム戦。オレだけが早くても意味がない。
「他になんかあんの? 裕也の出るやつ」
「学年種目と、昼の後にやる応援団の出し物くらいだな」
学年種目。
学年毎に勝敗を決める競技だ。
1年は1年だけで、2年は2年だけでといったように、自分たちの学年のみで競い合う。
そして、この学年種目は得点が高い。1位は30点も入るのだ。負けられない
種目が待ち受けている。
「めちゃくちゃ後じゃん。せっかく来たのに」
「ドンマイ。オレは別に来なくていいって言ったけどな。お前が来たかっただけ
だろ」
「そうだけどさー」
靴を地面にカタカタ鳴らして頬を膨らます。少し怒っているようだ。
「何すればいいのよ」
「オレたちの赤組の応援していればいい」
「それだけ?」
「ああ、それだけ」
美雨は学校生活のオレを見るために今日行くことを決めたようだが、そうだとしても、オレの出番は少ない。でも他の人は1人1種目なのでオレは多い方だ。
美雨は今、保護者という立場でオレの出番にしか興味がない。
だから、それまで待つしかないのだ。
「オレは委員会の活動で色々忙しいから、あまり2人の時間は作れそうにない
ぞ」
「分かった。待ってるわよ」
いつもより素直だな。普段なら舌打ちをしたり、分かりやすく表情に出したり、駄々をこねていた所だ。
が、今はすとんと椅子に座っている。
「裕也も応援しなきゃなんでしょ。早く行ってきなさいよ」
「お、おお。そうだな。応援しなきゃだわ」
「あっ! 紫乃ちゃん入場してるわよ!」
美雨は遠目からでも紫乃の姿に気づいたようだ。紫乃は意外と緊張しているのか周りが良く見えていない。オレと美雨の姿に気づいていないようだ。
「じゃあオレは応援しに行ってくるから、何かあったら連絡しろよ」
「うん、いってらー」
そうして、とりあえずオレたちは別れることにした。
悲しい表情も、残念そうな表情も伺えなかったのが意外だ。
午後までずっと1人という訳ではないだろうが、それでも寂しくなるのは事実。なのに、顔に出さなかった。──成長してきたな。
そうして、オレは応援席に戻った。
雫の姿は見えなかった。
オレはただ、レイプされていたギャルを助けただけなんだけどな 春丸 @harumarusan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。オレはただ、レイプされていたギャルを助けただけなんだけどなの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます