——第1種目——

 体育祭には、モテる競技とモテない競技で分かれている。


 例えば、今行われている100m走。これはモテる。が、まだやっていない百足むかで競争や、玉入れなんかは、女子の目を引き寄せられないため、モテない。


 と、いうように、競技によってモテる競技とモテない競技がある。


 これは、男子にとってとても大切な事だ。どれでもいいと言って、百足競走になれば出番はない。


 しかし、モテるのはただ一部。1位をとれば、だ。こんな競技を堂々とやって負けでもすれば、ダサいと思う人も中にはいるだろう。


 だから、こういった競技に出る人が少ないのだろう。


 そうして──


『続きまして、2年生のリレーがこれから始まります! 1年生より遥かに迫力のある勝負が見られると思います。皆様、応援して盛り上げましょう!』


「到頭オレたちの出番だな」


「そのようだ」


 オレたちの出番はすぐやってくる。時間が刻一刻と進んでいくにつれ、貧乏揺すりが段々早くなっている気がする。


 オレの隣で堂々とした佇まいのヤツは、全く緊張していないようだ。絶対の自信があるのか、それとも緊張を上手く隠しているのか。表情などからは分からなかった。


 そうして、2年生が何人か走っていき、オレたちの出番がやってきた。

 すると、放送委員が普段ならやらないような行動を起こした。

 そこには、監督の姿がある。


『おぉ! これはとても面白くなりそうですね! バスケ部で大活躍の八咲くん。そして1年の頃のリレーでは一躍有名となった……名前は忘れました! 皆様応援の準備を!』

 


 思わずため息が漏れそうだ。女性の顧問はこういう所が面倒臭い。男性の顧問

なら黙って見るものを、オレたちの事を子供のように見ている監督はこういう所でいらない事をしてくる。


「大注目になりそうだなー」


「マジ勘弁だわ」


 オレたちはもう互いにレースに並んでいる。

 後は、準備オッケーの旗が上がられたら、開始だ。

 そして──旗が上がった。


 オレはしゃがみ込み、膝を付く。短パンのズボンなので、膝に砂がついてチクチクする、なんて感覚は今はない。


 一瞬力を抜き、深呼吸。

 そして──


『位置ついて──ヨーイ────』

 

 ここっ。


 オレはドンッっと言われていないが、もう足に一気に力を入れた。ここからは反射神経。出だしが重要だ。


 そして──


『ドンッ‼︎』


 バンッと鼓膜に刺激が来る音と共に、走者全員が走り出した。


 まず一番最初に前に立ったのは──オレだ。持ち前の反射神経を使って出だしは完璧。


 しかし、ここからが本番。真横からはもの凄い圧がある。このまま逃げ切りは無理。そう感じた。


 と、思った時だった。聞き覚えのある声がオレの鼓膜を通ってきた。

 紫乃でもない。雫でもない。もしかして、


「裕也ああああああ!」


 満点の笑顔をこちらに向けながら、手を振ってきていた。 


 その姿は──美雨だ。金髪の太陽に照らされて黄金に光っている髪色。美雨しかない。


 ──勝ちたい。


「うっわ……。マジか……」


 数センチしか開いていないその差で、真横からそんな声が聞こえた。


「キチィな……これ」


 100mは体力の勝負じゃない。一応話すこともできるが呼吸が乱れる。

 そうしてゴールまで後5m。

 オレは最後の最後目を瞑って──ゴールした。


 目を開けると、膝に手を付いているサッカー部の男子。後ろを見ると、後ちょっとでゴールする人たちがいる。


 結果は目を瞑っていたオレには分からない。


 観客の声、応援団の反応を窺うが、分からない。と、いうことは、皆から見てもどっちが1位か分からないくらいの僅差だったってことか。


 オレは冷静に判断して決断つけた。

 そうして結果発表。結果は──


『3位──黄色組!』


 オレは赤。サッカー部の野郎は青。次に出る色で勝敗が分かる。


『2位は────────赤組!』


 かなり焦らされたが、どうやら負けてしまったようだ。


『1位──青組!』

 

 言うまでもない完敗だ。1年の頃も、2年の頃も負けるとは。恥だが、楽しかった。


「危なかったわー」


 敗者が勝者にかける言葉はない。が、勝者も敗者にかける言葉もない。勝負はここで終わった。


 オレはこの場を離れた。


 退場なので、美雨の所には行けないが、とりあえず自分の組に戻ることにする。


 すると、言うまでもなく、紫乃がオレに声をかけてきた。


「惜しかったねー」


 気を遣っているような表情はない。やはり紫乃といる時が一番居心地が良いな。


「アイツやっぱ早すぎだわ」


「お疲れ様っ! 皆盛り上がってたよ」


 タオルを用意してくれていたのか、肩に巻いてくれる。汗をかいていたから助かった。


「もう皆、裕也く〜ん、八咲く〜んってメロメロだったよ」


「そりゃ嬉しい」


 メロメロではなく、ただの応援だったのでは、と思ったが口にしなかった。

 そして、


「じゃあ私行ってくるね。次の競技」


 と、紫乃が言うと共に、アナウンスが流れる。


『さて、次の競技は棒倒しです。指定位置まで招集お願いします』


「頑張れよ」


 そう言って、紫乃は離れていった。


「さて、オレは美雨の所にでも行くか」


 写真はまだ後でいい。バスケ部の招集も今はない。この暇な時間を使って、今もボッチでいる美雨の所に行ってあげよう。


 雫がオレの事を探していたのに気づかなかった。

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