金色の影

 今日は────美雨も来ている。

 ラジオ体操をしながら、辺りを見回す。しかし、美雨の姿は見当たらない。

 まだ来ていないのかもしれない。

 探してしまうほど、オレはラジオ体操が嫌いだった。

 そうしてラジオ体操を終えたオレたちに第一種目がやってきた。


『第一種目──100m走。出場する方は指定エリアにて集合してください』


 第一種目からオレの出番のようだ。


 オレは美雨を探す時間も無く、とりあえず招集がかかっているので、指定エリアに足を向ける。


 途中、何人かの女子に写真を求められ、普通に撮るだけとったが、雫の姿はなかった。


 100メートル走は、完全個人戦。チーム戦もクソもない競技。とにかく誰が一番早いかで決まる。


 つまり、1位をとればかなり目立つ。


「負けられねーな」


 自分のためにも、チームのためにも。


 赤、青、黄色、緑で分けられたチーム。そのうちのオレたちは赤の色を背負って鉢巻を付けている。


 この勝負は負けられない、と考えていた時だ。学年で一番早いんじゃないかと女子から騒がれているサッカー部の男子が、オレの隣に現れた。


 陸上部よりも早いその脚力は、どのスポーツでも対応できそうである。


 そうして、最初声をかけようか悩んだが、向こうが何もしてこようとしなかったので、声をかけることにした。


「お前もこの競技走るのか」


「おお。お前も出んのか。厄介だわー」


「実際オレより早いだろ」


「分かんねーぞー。もしかしたらお前の方が早いかもしれん」


「一応聞くけど、お前、並び方本当にここであっているのか?」


 隣にいるということは、対戦相手ということ。


 正直な気持ち、こいつがいると勝てるかどうか怪しい。少し自信が無くなるくらいだ。


 だから一応、間違っていたという期待を込めて聞いてみたが、


「いいや、ここっぽい。そんな間違いしねーよっ」


 アホか、みたいな顔をオレに向けてきた。

 まあ実際、学力に関しては誰にも手も足も出ない状況ではある。


「終わったわ」


「いやーでも、いい勝負になると思うけどなー」


「1年の頃はお前の勝ちだったろ」


 そう、オレたちは一度、1年の頃の体育祭で走っている。それも同じ競技。

 だからこれで二度目だ。そして完敗している。


「今は分からねーじゃん」


「まあな」


 オレもずっと筋トレをして脚力を鍛えてきた。結果はどうなるか分からない。

 でも、皆からしたらオレの隣にいる男子が勝つと思っている。


 そう考えると、コイツに勝てば一躍有名人になるのではないか、そうポジティブに考えてしまった。


「楽しみだ」


「そうだなー」


 そうして、競技に参加する生徒たちが並び終えたようなので、選手入場の合図がなる。


 紫乃が応援席から手を振っているのを見て、手を振り返しながら走った。


「そういえばあの子と幼馴染なのか。いいなー」


 隣でその様子に気づいたのか、そう言ってきた。


「自慢の幼馴染だ」


 適当にそう返すと。「いいねー」とだけ返されて会話は途切れる。


 走りながらも、美雨の姿をこの広い視野で探してみたが、やはり見つからない。


 でも、この大人数の中で、遠くから美雨を探そうとしている事に無理がある。


 美雨はオレの姿に気づいているのかもしれないが、観客はオレ

ちのゾーン、応援席にまでは来れない。だから、オレが美雨の所に出向かなければいけないという事だ。


 そんな事を考えて、入場が終わる。

 まずは1年生から走っていくので、オレたちの出番まで時間がある。

 緊張を整えるため、深呼吸をしながら待つことにした。


 ちらりと、特徴的な金髪の髪色が見えた気がしたが、すぐに観客に飲み込まれてしまった。

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