ギャルを匿ってから一週間


 ギャルを匿うようになってから、4日が経った。


 案外慣れるのが早くて自分でもびっくりしている。部活帰りにいつもはいない

家にギャルがいるのも、寝るのは1人じゃなくて2人なのも、最初はウザいと思

っていた行動は今では慣れ始めている。

 オレたちの家でゆっくりいる時間は、かなり少ない。


 朝は必ずオレよりも早く起きるため、オレが起きてから家を出るまでの数少な

い時間と、放課後練が終わって家に着くのが、夜の20時30。


 それからお風呂、夜ご飯、歯磨き、就寝、とゆっくり2人でいる時間は思った

よりも短い。


 別に、ゆっくりする時間が欲しいという訳では全くないのだが、1人暮らしで口を開くことがなかった中、急に環境が変わって人と接するようになったことに

対し、オレは少し嬉しさを抱いていた。


 1人の時は、無口でバスケの動画を見て、無口で料理を作ってとつまらない生

活を送っていた。 


 が、今は違う。今は美雨がいる。


 そして今──こいつが大戦犯をかましている。


「お前なぁ……」


「……ごめんって」


 ピピピッ、ピピピッ。


「何度だ?」


「……38度ジャスト」


「はぁ……」


 そう、こいつは体調を崩し、オレは看病という形で学校を休むことになったの

である。


 絶対にオレは明日、顧問の先生に怒られる。


「本当にごめんってー」


 美雨もオレに学校を休ませることに罪悪感を抱いているのか、熱を出して真っ赤な状態で謝ってくる。


「いや、謝んなくていいから早くポカリ飲んで寝てくれ」


 正直、体調が悪くなったのはオレが原因かもしれない。家事を全て任せてしま

ったり、無理をさせていた。


「うん……」


 美雨はギャルらしくない目つきでとろんとしている。眠いのだろうか。


 オレはいつもより優しい口調にして対応することにする。


「どこか痛いとこある?」


「ううん、大丈夫」


 女子の大丈夫は大丈夫じゃないと聞くが、まさにこのような状況の事を言うの

だろう。明らかに大丈夫そうじゃないからな。


「無理はしないで欲しいな。ちゃんと言ってくれ」


 そう言うと、意地悪と言いたげな顔をしてから、


「お粥……温かい物食べたい」


 と言ってきた。


「了解」 


 オレはそう言ってベッドで横になっている美雨を置いて、お粥を作ることにす

る。


 今までで作ることのない料理だが、今では便利なスマホがあるので、調べなが

らなら作れるだろう。


 そうして、少し時間がかかってしまったが、お粥を作ることができた。


 が──


「寝たのかよ……」


 オレが居ない間に、美雨は寝てしまっていた。オレはそっとお粥を机に置い

て、美雨の側まで近づく。


 辛そうな、しかし近くに人がいるからか、安心そうな顔をしている。


 そんな葛藤の混じった表情についオレの腕が伸びた。


「んん〜……」


 オレはそっと金色でサラサラな髪を撫でると、これもまたギャルらしくない可

愛い声が漏れる。


 そして、自然に手を伸びたオレの腕は、数分撫でてから辛そうな表情は消えた

ので、手を離す。 


 部活の仲間からは、『顧問激おこだぞ』とか『何してるん』など、いらない報告

や、心配をしてくれる人がいっぱいいた。 


 それを適当に返してから、最近美雨がやってくれていた家事をやることにす

る。


 まずは外にある洗濯物を回収し、昨日の夜に洗濯した物を干していく。


 その後は部屋の掃除、洗い物、なるべく音を立てないように済ませ、他の事に

もとりかかる。


 そうして午前が過ぎた頃、美雨が起きた。


「裕也」


「どうした?」


「アイス食べたい」


「今から買ってくるから待ってろ」


「うん」


 いつもなら気分で動くオレだが、今だけは何を頼まれても動けるような気がし

た。


 オレは嫌な顔を1ミリも見せずに、少しだけ家事で疲れた体をゆっくり起こす。


 そして、まさかオレがギャルの看病をすることがあるとはな、と思いながら、

アイスを買いに行った。  


 しかし、アイスを買って戻ると、コイツはまた寝ていた。


「まあ、治ってくれればいいしな」


 オレはそう呟いて、オレはイヤホンを付けながらバスケの動画を見た。


 あ、そういえば、後ちょっとで少し大きな大会が始まる。


***


 インターハイ。


 それは高校バスケの集大成とも言える大きな大会。そして、そのインターハイ

を優勝、準優勝することによって得られるウィンターカップの出場権。


 そんなインターハイ予選が近づいていた。


 現在、高校2年生5月。予選相手が決まる。


蘭勒らんろく高校が上がってくるだろうな」


 蘭勒高校は、前回のインターハイで高戦績を残している。ウィンターカップに

はギリギリ出れなかったチームだ。


 オレたちのブロックで警戒すべきは蘭勒高校だという認識が、チームの脳の中を走り回る。


 インターハイはとても大事だ。オレたちの目標、インターハイ優勝、そして次

にあるウィンターカップを優勝するためにも、絶対に負けられない。


「先輩たち頼りにしてるっす!」


「任せんさい!」


 キャプテンの先輩をチームの皆は頼りにしている。


 ウィンターカップは各都道府県から代表で一校ずつ、そこからインターハイ優

勝、準優勝チーム、などが集められてくる。


 つまり全チームが強豪校ということだ。


 チームの中に緊張が走る。


 そこで監督から喝を入れられる。


 ちなみに、監督は女性の先生だ。顧問の先生でもあるが、監督と呼ぶことにした。


 美雨が体調を崩した次の日の学校、そんなに怒るかというほど怒られて正直ビビっている。


「君たちも分かっていると思うけど、負けたら一週間外周だぞ」


「「うっす!」」


 キャプテンを始め、負けないっすといった威勢の良い声が響く。


「うむ、よろしい」


 体育の教師をしているこの先生は、1人でオレ達の面倒を見てくれている。


 誰もが、引退する時にこの人で良かったと思えるほど、女性だけどカッコいい先

生、そして監督である。


「それじゃぁ、今日はウエイトやって終わり! かかれぇ──!」


 今日は筋トレの日。みんなはプロテインを片手に動き始めた。


 試合は再来週から始まる。それまでに各々が努力をし、チームの中ではスタメ

ン争いが始まる。


 オレも気を抜いてはならない。私生活の部分でスタメンを外される事だってあるし、このチームの皆は全員が上手い。エースを背負っているからといって、気を抜いていたら手のひらを返される。


 バスケはそういう世界だ。


 そうして、大会が来るよりも先に、美雨の件で大事な話があった。


***


「今日をもって──お前には出ていってもらう」


「なんでっ!」


 一週間が経った。オレの中で決めていた一週間を迎えたということだ。


「さよなら」


「あたし頑張ったじゃん〜」


 ねーえ、とオレの服を引っ張って引き止めてくる。


「おう、お疲れ様」


「酷くない⁈」


「なぜいる……?」


「ふざけなくていいから!」


「警察呼ぼう」


「ダルい!」


 そんな茶番は置いといて、オレなりのも真剣に考えた事を口にする。


「悪いが、このままだとお金が厳しい」


 家事は全部やってもらっているが、お金は変わらない。逆に料理も増え、お金

を使うようになったくらいだ。


 2人になって良かったことは、家事をやらなくて済むことだけ。


「……分かってるけど……」


 美雨もその部分は理解しているのだろう。それでも、一週間経つまで家事を積

極的にやっていたのは少しの期待を抱いていたから。でも、希望はそんな簡単に

叶うものじゃない。それも分かってもらわなくては困る。


 それでも、オレにも困ることがある。


 コイツの帰るところが一才ないということだ。最終的には、帰るところのない

美雨を放って置けない。


 一週間も一緒にいれば、救ってやりたいと思うのは自然だ。


 口では出ていけと言っているが、それはオレの中の1つの気持ちの部分に過ぎ

ない。その奥にはそれよりも強い気持ちの救ってやりたいという思いが眠ってい

た。


 だから──


「バイトをしろ。そうすればずっとここい居ても良い──と今は思ってる」


「え、ほんと! うっし」


 拳をグーにしてガッツポーズをする。


 バイトをするだけでも、1人分の食料で余裕を持てる。美雨がいるだけで困る

のは食費くらいだからな。


 それに学校を辞めたコイツは、オレの居ない時間にバイトを入れればいい。


「じゃあ今日中にバイト先決めとけよ」


「うっす!」


 やってやるぜ! とテンションの高いギャルをこの目に一瞬だけ焼き付けてお

き、オレは今日の夕食の準備をする。


 ウエイトだけだったので、今日は早帰り。それに美雨は今からバイト探しがあ

るので、暇なオレは今日くらいご飯を作るのもありだろう。


 と、思ったが、冷蔵庫をいざ開けてみると、ラップされている今日の夕飯らし

き物があったので無表情で冷蔵庫を閉めた。


 オレはスマホで求人サイトを探している美雨をチラ見だけしてお風呂に入るこ

とにした。


 シャワーを止めた時、美雨の声が聞こえたので電話をしていたのだろう。


 この生活はいつまで続くのやら。


————————————————————————————————————


SS(ショートストーリー)


 今日で一週間、そろそろ区切りを付けられるだろうと思っていた矢先に、「出ていけ」は酷すぎる。

 

 あたしも迷惑しかかけていないのは理解しているけど、それに見合った労力はしている、と思う。


 裕也はどう思っているかは分からないけど。でも、結局バイトを条件に居させてくれることにしてくれた優男の裕也には感謝、感謝!


 それにしても、


「あったかい……」

 

 あたしが下で寝ないで、ベッドで2人で寝るのには理由がある。

 

 フェチかどうかは分からないが、あたしから逃げるように後ろを向いて寝る裕也の背中を抱くのが好きなのである。

 

 ギャルで大胆と言われるかもしれないけど、この運動しているからか大きな背中であたしは米10杯はいけそう。

  

 最初は服を摘んでいるだけだったけど、最近では抱くようになってしまった。

 

 そろそろ殴られるかなとも思っているけど、これがこれが、辞められないのである。


「許しておくれ、裕也。ふふっ」


 毎日この背中を抱いて寝れたら幸せだなぁ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

レビュー、コメント等よろしくお願いします‼︎😉

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る