ギャルのワガママ

「何してたんだよ」


 安心と苛立ちが混ざった声音が口から漏れる。


「買い物よ、買い物」


「だったら連絡くらい寄越せよ」


「え、心配してんの?」


「いやだからそういうんじゃなくて、まあいいわ、もう」


「図星つかれてんじゃん」


 アハハと高笑いしてくる。クソキモいなこの野郎。心配くらいするだろ。昨日の夜あんなこと言ったんだから。


「体でも売ってんのかと思ってたわ」


 心配して損したと言いたげに口にする。


「まあ……してたかもね」


「でも──泊まらせてくれるんでしょ?」


「ああ、お金くれるならな」


「お金ないわよ」


 結局オレは、これから一週間は様子を見るということを伝えた。しかし、どうせ一週間様子を見たとこで、美雨が新しい住処を見つけられるとは思えない。


 どちらかという、ずっと居ていいとも流石に言えなかったので、とりあえず一

週間は、と持ちかけた形だ。


 家事全盤は美雨ができる事も把握したし、少しは、いやかなり助かる部分が大

きいことは確かである。


「それより」


 そう美雨の美味しいご飯を食べてるオレをじっと見つめて前置きをしてくる。


「──あたしのご飯美味しい?」



「びっくりするぐらい美味しい」


 見栄え100点、味100点といったところだ。自分の料理があまり美味しく

ないのがあるかもしれないが、外食よりもこっちの方がオレ的には好みだ。


 そして、そう素直に口にすると、美雨は照れる反応を見せた。


「……嬉しい」


「おっ、熱出てるのか、大丈夫か?」


 わざと、自分が照れていることに気づかせようとするオレ。意地悪だがなんと

これは面白い。図星を疲れたからか、カッとなって顔が真っ赤になった。


「しね!」


 ご飯を食べているオレを眺めていた美雨は、そう言ってトイレの中にこもって

しまった。


「よし、やっとこれでゆっくり食べれる」


 本音を語ると、ご飯中にジロジロ見られているのは恥ずかしい。


 美雨は自分の分を食べるとお金かかるしと言って食べないようで、オレが食べ

ろと言っても一才聞く耳を持たなかった。


 それでオレだけご飯を食べる状態になったのを期に、美雨はご飯を食べている

オレをずっと対面で見つめていたのだ。


 食べづらいにも程がある。


 そうしてゆっくり食べれる状況になったので、マジで美味しい美雨の料理を堪能した。


 美雨はオレがご飯を食べ終わるまで出てこなかった。


***


 オレらの部活では良く大学生と練習試合をする。


 部活の中での目標でもある、インターハイ優勝、ウィンターカップ優勝に向け

て毎日練習や試合に励んでいる。


 自分でも言うのもアレだが、このオレでも、大学生の体格などには身をひくも

のがある。


 県の中でも強豪校でもあるオレたちの学校で、オレはエースと言う立場にいる

が、まだ2年生なので少し気が重い。


 でも、チームを背負っている立場にいるからには、それに逃げずに皆の期待に

応えなければならない。


 そうして今日は大学生と練習試合。遠征という事もあり、準備をしていると、

美雨が声をかけてきた。


「応援しに行くわ!」


 うちわをバンバンと叩き、大きな音を奏でながら言ってくる。


「来るな。お金もないだろ、どうせ」


「あ、そうだった」


 一瞬でテンションが変わり、肩をシュンと丸める。


 忘れてはいけないが、こいつの所持金は0円。買い物で置いてあったお金を奪

ったようだが、まあそこは許す。逆に買い物をしてくれたのはありがたい事だし

な。


「じゃっ、オレは行ってくるから大人しく家に待ってろよ」


「うん、頑張って〜」


 もう美雨を1人で家に置くことが普通のように感じていたので、家に1人で居

させることにする。


 そうして今回の会場である大学へと足を向けた。


 長い時間電車に乗っていると、やはり美雨の事が頭に浮かんでくる。 


 これからどうするかなど、どうするのがベストなのかと。


 美雨も、オレに匿ってもらうために少し無理をしている部分が、2日屋根の下

を共にしただけで分かってきた。


 ずっと「何したらいい?」や「何かやって欲しいことある?」と、鬱陶しいく

らい訊いてくるのだ。


 もう、家事はオレが言わなくても自然とこなすようになっている。


 それにあたしは何でもできるよと伝えたいのか、美雨が洗い物をしている時に視線を感じることが多々見受けられるようになってきた。


 たった2日。たった2日でこのようなことが分かってしまう。

 それほど美雨は追い込まれている状況なのだろうが、少しは自分の体の事も考えて欲しい。


 まあオレが手伝えばいいものなんだが、何でもしてくれる美雨に甘えてしまっ

ているのは事実。


 今日の夜ご飯の洗い物くらいはするか。


 そんな事を行きの電車で考えていたら、一緒に最寄りで集合していた部活仲間

に声をかけられる。


「今日の相手の大学生めちゃくちゃ上手いのいるらしいぞ」


「マジか」


「裕也がマークしろよ。俺は怒られるからヤダ」


「でも無理そうだったら頼むわ」


「イジメるなよ。でもゾーン練習してたから今日はゾーンディフェンスかも」


「あぁあれか。確かにやりそうだな」


 今日の大学生はかなりの強豪だと言う。まだ結果の出ていない大学だが、顧問

の先生も練習試合を頼んだくらいだ。それほど強い相手がいるのだろう。


 ワクワクしてくる。


 と、高揚感を抱いている時──


「そういえば、昨日の夜23時くらいにお父さんが裕也を見たとか言ってたけど、

何してたんだ?」


 まさか見られていたとは。


 おそらく美雨探しを諦め、帰路についた頃だろう。


「人違いだな」


「そうか……? まあいっか」


 そうオレは嘘を吐いて、この話はすぐに終わった。


 ギャルを探していたなんて言えないからな。それに、ギャルをうちに匿ってい

るなんて絶対に口からは言えない。


 そうして他愛のない会話をしながら向かっていると、目的の場所に到着した。


 大学だからか、広い会場だ。


 まずはゴールまでの距離、天井の高さ、コート全体の広さ、ラインの把握など、

諸々を確認しながら歩いていく。


 大会でも、こういった所に目を向けるだけで全く違う。いつもと違うコートなら、天井の高さによってどのくらいのリーチで打っているかなどがかなり違ってくる。


 結局はアップでそういう所も考えながらするのだが、オレはコートに入ってから既に見ておくタイプだ。


 これはオレのルーティーンと言える部分だ。

 

 そうして────オレたちは試合をすること5時間。 


 全試合、全勝利という形で終えたオレたちは、気分良く帰路についていた。 


 今日の平均点数を4ピリオドまでの時間で計算すると、32点という数値が出

た。


 合計で約100点くらい取っていたので、約三分の一はオレが決めていることになる。


 そして帰りの電車で、気分の良いオレは、『今日の夜ご飯オレ作るわ』と送っておいた。


 が、


『もうあたし作ってるんだけど』


 と帰ってきたので、オレの気分がガタ落ちした。


 今の美雨は何かしていないと落ち着いていない状態なのでしょうがないのだ

が、今日は自分で作りたい気分だったため、かなり萎えたオレだった。


 まあ、疲れた後に美味しい料理をご馳走すると考えると、自然と気分が良くな

っている気がした。


***


「ただいまー」


「おかえりー」


 家族かのような自然な応答が返ってくる。いつもは1人だったため、少し暖か

みを感じる。ただギャルがオレの家にいるだけでも、かなり違った空気だった。


「あ、お疲れさん!」


「あざっす」


 肩をとすんと叩いて言う。


「お腹空いたからご飯用意しといてくれ」


 オレはそう言って、今日の洗濯物などを空っぽになっている洗濯機にぶっ込ん

でいく。


 タンスの中にはいつもは畳まずに入れている服類が、今は綺麗に畳まれてい

る。


 その光景に、ギャルでもこういうのができることに驚きながらも、ご飯の準備

ができたのかいい匂いがしてきたので、オレは吸い寄せられるように戻った。


「はい、これはなんとなんと、裕也の大好物よ!」


 そう机の上に置かれていたのはオレの大好きな唐揚げだった。


 運動後のお肉は筋肉も付くし、これは最高すぎる。


「最高だな。唐揚げも作れるなんてびっくりだわ」


「すごいっしょ!」


 えっへんと大きい胸を張る。


 調理のために結んでいたのか、ポニーテールが妙に様になっている。


「偏見だけど、美雨ってなんでギャルなのに料理できるんだ?」


「超偏見じゃん」


「だから偏見だけどって言ったろ」


「んーそうね。強いて言うなら……女子力高いから? えへ」


「つまらんな」


「うっ……普通に1人暮らしで自炊してたからよ!」


 それは知っていたが、自炊していたのか。やはり偏見が酷すぎたのかもしれな

い。


 どうせ1人暮らしでも自炊しないで、酒でも飲んでるもんかと思っていた。


「へー」


「興味なさそうにしないでよ!」


 オレはお腹が空いたので、そう軽く返事をして用意されていたご飯を咀嚼し始

める。


 と、そこでオレは気づいた事があったので、訊いてみることにする。


「今日も食べないのか?」


「あ、うん。あたしあまりお腹空かないから」


 嘘だろう。さっきお腹が鳴ったのにオレが気づいてない訳ないだろ。


 なので、オレはどうせ食べろと言ってもお金が勿体ないと言い出すと分かっているので、自分の分を分けることにする。


「じゃあオレのあげるから食えよ。それだったらお金の問題はないだろ」


「え、でも」


 美雨の言葉を妨げるように続ける。


「いいから、食えって」


 オレは皿を取りにいき、取り皿に唐揚げを2つ乗っけた。残り1つになってし

まったが、帰り道におにぎりなどを食べたので、丁度良い。普通は部活的にも、

もっと食べなきゃいけないが、これに関しては仕方がない。


「……ありがと」


 米も余っているので少ない皿の中からいいサイズのやつを探してお米を入れ

た。


「……ありがと」


 同じように顔を赤らめながら、ほっこりとした笑みを浮かべて言ってきた。


 ギャルには似つかわしくない笑みだ。


 そしてギャップにオレは少しいい所あるなと思った時だ。


 良い事思いついたと言いたげな表情をオレに向けてきて、口を開いた。


「あたし、裕也とお酒飲んでみたい」


 未成年が言うとバカかとなるが、ギャルが言うとあまりにも自然だ。


 それに、オレとお酒を飲んでみたいと言う意味分からない事を言っている。


「オレ、酒飲んだことねーよ」


 オレは目の前にいるギャルと違ってお酒は飲んだことがない。親も厳しいし、

部活にも影響ができるからだ。何ならタバコは絶対吸わないと決めているほど

だ。


「だからあたしと初めて飲むのよ。ダメ?」


「ダメだ。明日も練習があるんだ」


 今は土曜日。明日は練習と過酷な日が待っている。お酒を飲んでいたのがバレ

て倒れでもしたらヤバい。


「少しだけ」


 ここまで言っても、美雨は引く気がない。


 なので、オレはとっておきを提案した。


「これ以上言うんだったら追い出すぞ?」


「あっ。わ、忘れて今の」


「はいよ」


 そうしてオレたちはお酒を飲まずに眠りにつくことにした。


 実は、美雨のワガママで、まだオレと同じベッドで寝ている。


————————————————————————————————————


SS(ショートストーリー)

 

 あたしが1人で家にいる時なにしてるかって?

 

 そりゃ、そこら辺に落ちているお金でお菓子を買いに行ったり、時にはお酒を買ってしまったり……。そんな悪いことをあたしはしている。

 

 身を救われたのになんでそんな事をしているんだ、とバレたら言われるだろうけど、


「1人ほんっとつまんない!」

  

 裕也のいい匂いがするベッドをクンクンと嗅ぎながら誰も居ない家の中、大きな声で思いをぶちまける。

 

 出会い系を初めてしまおうかとも思ってしまうほど、暇をしていた。

 

 でも我慢! あたしは今、所持金ゼロ☆


 何もできない!


 うーん、後は……自慰行為くらいかな。

 

 やっぱり1人でいる時しかやる時間はないし、裕也をお酒に誘ってエ○チに連れ込もうかとも思ってしまうくらいその時はムラムラしていた。

 

「──今度、水にお酒でも混ぜて酔っぱらせて襲ってみようかな」

 

 そんな事を暇な時間に考える美雨だった。


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レビュー、コメント等よろしくお願いします‼︎🥰

 

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