ギャルが来た

 大会が近づくにつれ──


「ねぇ、大きい大会とかないの?」


「来週にある」


 もう予選は近くまで来ている。この一週間はあっという間だ。すぐに予選の日

は訪れる。


「あたし見に行ってみたいんだけど、またダメ?」


「バイトないんだったら来ればいいんじゃないか?」


 試合は遠征で遠い場所になることもあれば、近い所もあるので、電車代などは

美雨が出せばいい。


 来られて困ることはない。前はお金が尽きている中、見に行きたいと言ってき

たので拒否をした。


 つまり、お金と時間さえあれば来ていいという訳だ。


「え、うそっ! 行く行く!」


「バイトが入ってないといいな」


「うんっ!」


「それじゃ──早く離してくれ」


「うっす!」


 子供のようにオレの手を握って上下に振ってきたので、離すよう促す。


 そうして、美雨はバイトをし、オレは試合のため休むことなく練習をし続ける

こと──一週間。


 あっという間に予選の日が訪れた。


 今回の相手はおそらく最初スタメンが出て、点差が開いたら新1年が試合に出

る形になるだろう。


 初戦はあまり強くない相手なので、1年生にも大事な体験をさせられる。 


 そして、オレは美雨と一緒に行くわけではなく、別々で今回の試合会場、オレ

達の学校へ向かった。


 まだ美雨の存在は学校の誰も知らない。別に言うことでもないし、言いたいこ

とでもない。どちらかと言うと、内緒にしたいくらいなので、これから友達とか

に言う日は来ないだろう。


 しかし、試合会場に着いて、アップを始めようとした時──


「裕也〜! これあたしどこ座ればいいの?」


 チームの皆で歩いている時に、ギャルの美雨がオレの元へと走って来た。


「お前……。……あっちだあっち」


 オレは呆れながらも、ここは友達のように接して誘導する。


 まあこうなれば、


「友達か? 意外な友達だな」


 と、なるのも無理はない。


「中学の友達だ」


 オレは適当に思いついた嘘を吐き、話題を逸らせるため、話を振る。


「ユニフォームの番号なんで69にしたんだ?」


 恥ずかしくないのか、とハッキリ言いたかったが、本人は気に入っているよう

なのでそこまでは言わない。


「俺の誕生日だからだよ」


「ああ、そういえばそうだった」


 上手く話題を逸らせたので、オレは興味なさそうに答える。人の誕生日に何か

あげることはオレは少ない。面倒臭いと毎回思ってしまう。


 そして、オレたちのチームは、好きな番号を選べるので、オレは55と好きな

数字をゾロ目で揃えている。


 まあ5が好きな理由は特にない。何か好きなだけだ。


 そうして、オレたちを応援する側のベンチで座っている美雨を確認してから、

アップを開始した。


 ユニフォームを今回貰えなかった後輩などが、大きな掛け声と共に、コート中

に響き渡る。


 相手のチームはオレらの気迫に負けているようだが、一生懸命声を張って頑張

っている。


 アップ中に大事なのは、事前にビデオを見て確認するが、利き手はどっちか、

相手の癖などを生で見極めることだ。


 アップでシュートを打ちながらも、横目でチラチラと自分がマークする相手を

観察したりする。


 背が高い選手はどっちのターンが得意か、リバウンドを取るときに、必ず一回

はチップして取るのかなど、ビデオで分からなかったことが、生で見ると分かるこ

とがチラホラある。


 そうして、観客席からスマホをオレの方に構えている美雨を終えて、ハーフア

ップが終了した。


 この後、外でまたアップしてからユニフォームを中に着て、時間が来たら試合

だ。 


 いつもは誰かに見られるという緊張感があるが、いつもよりその緊張感を感じ

る。


 やはり──美雨は来させるべきではなかったか……。


***


「ゆうやああああああああああああ!」


 試合中、オレたちのチームの声援が響き渡っている中、うっすらと美雨の声が

聞こえる。


 おそらく試合中でこの声を聞き取れるのはオレくらいだろう。試合をしながら

先生からの指示を聞くために、耳にも意識を巡らせている。


 これはかなり難しい。一流選手でも、前の相手の選手に精一杯で周りの声が聞

こえなくなることが多々ある。


 しかし、オレはいつも通りのプレーをする。


 フリーのレイアップでは少しスカして打ったり、スリーを決めた時には、調子

に乗ったりと。


 これは悪い訳ではない。


 自分の中で流れを作るために重要な行動である。スリーを決めた時には、自分

の流れを掴むチャンス。


 もう一度打って、また入れば今度は自分だけの流れではなく、チームの流れ、

ゲームの流れを掴むことができる。


 これを続けて試合は決着をするのだ。


 スポーツにおいて、流れというものはとても重要なことなのである。


 そうして相手がタイムアウトを取り、休憩中。


 こそこそと後輩がオレに耳打ちをしてきた。


「……先輩。……アレって誰ですか……?」


「あぁ……気にしないでくれ」


 後輩の視線の先には、誰から奪ったのか分からない応援で使うメガホンを持っ

ている。


 そして、応援している人たちに混ざってメガホンを叩いている。


 マジで誰から奪ったんだよ。返してやれよ。


「あ、分かりましたっす……」


 後輩は身を引き、オレの首周辺に保冷剤を当てる。


 そして、休んでいるオレたちに、監督が口を開いた。


「もう30点差開いたから、お前たち出すよ。準備しておけ」


「はいっ!」


 1ピリ後半──既にオレたちは、たった7分程度で30点差を付けていた。


 この後、オレの出番は無かった。


***


「つまんねっ!」


 最寄り駅から、家まで歩く帰り道。


 駅で待っていた美雨と合流すると、ちっと舌打ちしてから、ご飯を食べて美味しっと思わず口にしてしまうような感じで吐き出した。


「来なければ良かっただけだろ」


 どうやら美雨は、オレの試合時間の短さにキレているらしい。


 これからの試合の為にも、怪我は避けたいし、体力も温存しておきたいのが本

音。


 良くあることだ。大事な試合の前に大怪我をするというのは。


「ふんっ、いいし。少しでも見れたから」


「どっちだよ」


「てか、裕也ってあんな上手だったんだ。ある程度は上手だって知ってたけど」


「オレ何か言ったことあったっけ?」 


 美雨は、オレがバスケ部だということしか知らない。 


「だって裕也の学校ってバスケ強いとこじゃん。あたし調べたよ」


 しかし、強豪校ということを知っていた。


 おそらく学生証を拾った時に調べていたのだろう


「まあ、お前来ると面倒臭くなりそうだから一生場所とか教えねーけどな」


「はぁ⁉︎」


「だって人のメガホン奪ってただろ」


「あれはあたしが睨みつけながら貸してって言ったら素直に貸してくれたのよ」


「誰でもギャルに睨まれれば貸すに決まってんだろ」


「だってどうしてもあれで応援したかったんだもん!」


 話にならないようだ。


「とにかく、人の物奪ったりしているなら来させることはできない」


 後輩達だって一生懸命応援してくれているんだ。それを邪魔するようなら流石

のオレも許せない。


 声を一番出しているからオレたちと練習させる時だってある。実力も大事だ

が、オレたちのチームでは人間性も問われるのだ。


 頑張ってオレたちの所で練習したいと思っている後輩達を邪魔するのは、いつ

もとは訳が違う。


「だ、だって……」


「言い訳するなよ」


「わ、分かってるし! 分かってるし……」


 美雨も応援してみたくてつい行動してしまったのだろう。


 気持ちは分かる。


 あんなに盛り上がっていたら自分も一緒に、となってしまうものだ。あまり説

教みたいにはなりたくはないが、ギャルというのは自分の非をあまり認めたくな

いというプライドを持っているらしい。


「でもっ」


「ちょっとコンビニ行ってくるわ」


 分かってると言いながらも、でも、と言い訳をしようとしていたので、オレは

一旦距離を置いて落ち着かせることにした。


 1人でいれば考えさせられるだろう。ちゃんと立場を弁えて行動できるように

なってほしい。


 そうすれば──オレも応援されるのは嬉しいので、応援に来るのは大歓迎だ。


 そうして、結局オレが説教するまで認めなかった美雨は、少し半泣きになりな

がらも、オレの背中でスゥスゥと寝たのだった。


————————————————————————————————————


SS(ショートストーリー)


「か、カッコよ!」 

 

 バスケの試合を見ているあたしは、思わずそう漏らしてしまった。

 

 慌てて口を塞いだが、誰もあたしの声を聞いていないのか、誰も振り向いていなかったので逆に恥ずかしい思いをした。


「す、すごすぎる」

 

 スリーを軽々しく打ち、スパッと綺麗な音がなって気持ちよく入る。

 

 周りからも流石エースという声が飛んでいるので、裕也はめちゃくちゃ上手いのだろう。流石、あたしの自慢の、自慢の……? 同居人? んー自慢できるような設定じゃないからいいやっ。

 

 とにかく、裕也はめっちゃバスケが上手い!

 

 でも──試合時間が短い! 交代してから全然出てきない。何なら、汗で体が冷えないようにか、試合に出るような格好をもうしていない。


「はぁ……」

 

 ため息が漏れる。

 

 せっかくメガホン奪って応援してたのに……。

 

 そうして裕也はあの後試合に出てこず、かなり凹んでいたあたしは「つまんねっ!」と口にしてしまった。

 

 そしてメガホンを奪ったことについて、あたしが子供みたいに意地を張っていると、遅い時間まで説教された。


 まあ——その説教で疲れたのか、いつもより裕也の背中で寝るのが気持ち良かったからよき!


 あ、実はまだバイト一回も入ってない。


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