25 杯目 エピローグ

 結局私は、コシのある人間になれたのだろうか。


 今回の件では、マナー講師ばかりでなく、名も知れぬ大衆に私は踏みつけられた。その屈辱的経験を私は生涯忘れないであろうし、そこから得るものもあるだろう。その意味では、此度こたびの経験は将来のコシに寄与しうると考えられる。


 けれど……それと同時に、胡乱うろんな存在としての私も、また身を以て知ることになった。この運動では、学生という、単位を人質に取られた身分であるが故に存在する時間的制約に邪魔され、中途半端な終焉しゅうえんを迎えざるを得なかった。もし学生でなければ、単位という拘束条件に邪魔されず、納得ゆくまで運動ができたはずだ。しかし一方で、学生でなかったとしたら、数年後なるべき社会人という身分であったとしたら、そもそもうどん運動など起こせず、紘目ひろめ氏の暴力的謎マナーによってうどんが殲滅せんめつされてゆく様を見過ごすことしかできなかったであろう。学生という、何者でもなく、何者にもなる前の胡乱な存在であるが故に、うどん運動をこのように始め、このように終わらせる道しか私には取りえなかったようにも思われる。終わって初めて見えるようになっただけで、初めから一つしかない道を、我が開拓の道と思って進んでいたのだ……


 自ら考えた此度の運動でさえも、私に予定された工程の一つに過ぎないように思われ始めた。私という人間は、何者かにこねられ、寝かされ、決められた工程を進むだけの生地なのかもしれない。そんな考えに、私は至った。

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うどんうんどう~学生運動編~ べてぃ @he_tasu_dakuten

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