24 杯目 回転遊具

SIDE 石丸いしまる 比地大ひじた


 紘目ひろめ邸を去った後、それぞれの帰路に就くため、我々は解散した。同じ福岡行きのコシロー氏たちとは経路が違うので別行動である。数日ぶりに、私は独りになった。


 我々の青春を賭けたうどん運動は、望んだ形では終わらなかった。けれどうどんの平和を守るために、少しは寄与できただろうと思う。我々の姿は、世間にはどう映っただろう。空港へ向かう電車の中で、私はSNSを見た。真っ先に目に入ったコメントは、次の通りだった。


「え、まだ反抗してんのwww」


 電車の壁にもたれかかっていた私は、その場にへなりとなった。終点の空港駅に到着しても、立ち上がれなかった。


 我々の最後の配信には、非難や中傷が多く寄せられていた。

 福岡行きの機内で時系列を追っていくと、この短時間でどのように情勢が変わったかが、おぼろげながら読み取れ始めた。

 端的に述べるならば、ネット民は「最終声明」を以て納得したのだった。そのセレモニイ的姑息な自己批判を見て問題が解決したと思ってしまった。問題の本質を忘れ、綺麗にメッキされたガワを見て安易に拳を下ろしてしまった。だからその後の我々の主張もネット民には届かず、「反省したのに追い打ちをかける冷酷非道な集団」として認識されてしまった。

 ひょっとすると、此度こたびの謎マナーの本質など、彼らネット民からすればどうでも良かったのかもしれない。盛り上がるネタが浮上し、面白そうだから乗っかった。そこに思想や深慮など、初めからなかったのかもしれない。


 であるならば、我々が青春を賭けて臨んだこの全国共闘うどん運動は、一体何だったのだろうか。我々の正しさに無関心な世間や、論理すら噛み合わないマナー講師。彼らの理解を得ようと懸命に呼びかけてきた我々の行為は、最初から何の意味も持たない、無駄な行為だったのではないか。絶対に起こりえない未来を夢見て、回転遊具にぶら下がっていただけではなかったか。


……なんだか、悪い幻を見ていたような気になった。


 やがて縦の衝撃があり、私の静寂が破られた。福岡の地に戻ってきた瞬間だった。

 時刻は午後九時五十五分、福岡空港が一日を終えようとしている時のことだった。

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