18 杯目 制約

SIDE コシロー 


 紘目ひろめ邸へ辿り着いた僕たちは、今後行うべき活動を石丸さん主導で話し合った。「うちでやれ」と紘目氏から言われた時、確かに僕たちは話し合った。だけれども、それはあまりにも僕たちの意表を突いた話だったので、考慮しないまま即決してしまった。あまりにも検討が不十分だった。とはいえ、あのままでは警察の手によってすぐにでも追い出されることがはっきりしていたので、あの時点では妥当な判断だったとも言える。

 そして今、僕たちの拠点となったこの場所は、紘目氏の実家である。居心地悪いことこの上なく、拠点として何とも使いづらい所である。それはそうだろう。敵の本拠地なのだから。それも激しい攻防の末に制圧した土地ではなく、向こうから入れと言われたのだから。

 こちらも訳が分からないが、あちらのご家族はもっと困惑しているだろう。初めに一応インターホンを鳴らしたところ、紘目氏からご家族に話が行っていたようで、追い出されずに済んだ。とはいえ明らかに歓迎されておらず、二言三言交わしただけで扉は閉じられた。


 さて話し合いの重点は、マナー撤回の機運を効率的に高める計画の策定だった。紘目氏の勤務先で、予定していた通り議論の場に氏が乗ってきたならば、あるいは少なくとも僕たちがあの場で主張し続けていたならば、社員の注目を集め、いくらかの人々は賛同してくれただろう、と石丸さんは見ている。または賛同しなくとも「迷惑だから、さっさとうどんマナーを取り下げてあの連中にゃ帰ってもらえ」との圧力をかける社員も出てきただろう、との見立てである。そして数日以内には撤回されるだろうとの見通しだった。

 しかし今、活動の場所を変えた以上、衆目を集める新たな方法を考える必要がある。そこで僕たちは、SNS上で活動を伝えることにした。特に動画を配信することで、僕たちの考えを一般の人々に伝わりやすくするという方針となった。会場の変更という問題に対しては、これによって一応の回答ができた。

 

 そしてもう一つ、時間制限という問題に対しても話し合った。今言ったように、さっきまでは数日以内の勝利を見込んでいたからさほど気にかけなかったが、僕たちが学生であるがために、逃れることのできない恒例行事がある。その一つ、期末試験がもうすぐ始まるのだ。それまでに決着をつけなければならない。これも、SNSでの民意獲得により早期決着を推進するという方針が決まった。

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