第6話 Miaの歌とシウ
「はじまりは黄色、終は桃色、ありがとうはオレンジ、さよならはペパーミント」
「.....新しい歌?」
「違うよ、この世界のこと。」
「.....ふ〜ん、お前ちゃんと寝ろよ。」
「え!寝てるさ!もう!!!怒るよ!!いや、怒った!!ただ、じっとなんかしていられないんだよ。今日のこれからのこと、明日のこと、考えるだけでじっとなんかしちゃいられない!」
「おかしなやつだな、俺は何も考えずにずっと寝ていたいよ。」
「なにそれ贅沢ー!」
「なんだそれ、お前は欲張りだよ。」
「あはは、僕は欲張りだよ、ふふっ」
「白鳥にはなれない」と言った。確かにそう言った。あの夜、ミシオは。頭の中をぐるぐるとやけに巡るその言葉はどういう意味か全く分からなかった。まるでミシオ自身のようだった。そりゃ鳥にはなれないだろ。俺らは人なんだから。翼なんてないし飛べないし。そりゃ飛べるなら飛んでみたいけど。でも、違うな。多分だけどあいつはそういう意味で言ったんじゃないな。...たぶん。
「シュウ」
何度も蘇るあの言葉を言われた夜から抜け出せなくなっている俺を呼ぶ声がする。
「........アキ!!!!!」
俺は味噌ラーメンを食べていた手を止める。ふぅん....アキの今日のお昼は親子丼だ。おいしそう。
「シュウ、お前、授業出ないのになんでお昼は食ってんの?」
「なんでって...今日、アキ一限だろ。それでアキのご飯食べれなかったから。」
この間アキに怒られたから俺なりに努力した。いつものアキご飯のない日は極力学食に行くことにしたのだ。えらい。
「いや、そうじゃな........なるほど。お前なりに.....シュウじゃないみたいだな。」
「なんだよそれ」
「はは」
アキは笑った。乾いた笑いはアキの笑い方の癖だ。全然笑ってないように見えるけどそんなことはない。ちゃんと笑っている。
「あ、そういえば、仕事さ、どうなってんの?受けるの?もう夏だぞ?」
「あー」
歯切れ悪く返すには理由があった。アキの言う依頼とは『Miaに曲を作ってあげること』だった。しかも作詞はすでにしてあるそうで俺が頼まれたのは作曲だった。歌詞に目は通した。だが、いまだに音を付けられていない。依頼は4月に受けたのに。一度Miaにはまだ出来ていないと謝った。Miaはそれを聞いて綺麗な声で笑った。「大丈夫、itsuki、あなたのタイミングで作って欲しい。あなたを信じてる。」と。どうしてMiaは俺をそこまで信じられるんだろうか。
「なあ、アキ、Miaってどんなやつなの?」
「........ゴホッゴホッ、ちょ、みず!」
「?....はい、どうぞ。」
突如、むせているアキに水を渡す。大丈夫か、そんなに親子丼食べたかった?お腹空いてんのか。
「なんで?珍しいね、お前が誰かに興味示すのって。」
「........っ、そう?」
「他人に興味を示す」。まあ、確かに自分から誰かに関わろうとしたことなかったな。基本ひとりでもなんとかなるし。ひとりって寂しいけれど、ずっと俺にはアキとかハナちゃんが居てくれたから。それは居心地が良かった。わざわざ誰かとたわむれてこの場所を無くそうと思わなかった。それがいつしか無関心とかなんとか言われて、今まで出来た恋人達にもそうやって言われてきた。「本当に私の事好き?」って聞かれて泣かれて別れるのがお決まりのパターンだった。めんどくさいものは全部、遠ざけてきた。それが癖になっていった。でも、いま自分からめんどくさい何かに関わろうとしてる。アキに言われて自分でも驚いた。
「あ、なんかつくれそう。」
「え!俺、まだ何も言ってないけどMiaのこと.......!」
驚いてまたむせそうなアキ。
「うん、自分で聞く。Miaに。俺、帰るわ。」
「は!?え!帰んの!?」
「うん。アキも一緒に帰る?」
「........いや、でも心配だし、お前ひとりだと何しでかすか心配だし。」
「アキってなんか長生きしなさそうだな。」
「いや!やかましいわ!じゃあ、心配させんな!」
「あはは、ごもっともだな、いつもありがとう、アキ。」
「いやっ、別に、いいよ。シュウはシュウのままでいてくれよ。」
「なんだよ、それ。で、帰るの?帰らねえの?」
「........今からバイトだから終わったらシュウの家行くわ。........夕飯作りに。」
「おっけー。今日、俺、チーズ使った料理がいい。温かいやつ。」
じゃあ、と言いながらアキに手を振る。アキは任せてと言ったように手を振り返した。アキにはいつも感謝しかない。
「よし....」
家に着き、デスクトップパソコンを起動させる。早速、MiaにMiaのことを聞こうと思った。
「Mia、突然のメッセージごめん。あなたのことを知りたい。よかったら聞かせて。」
とだけ、メッセージを送った。
「返信来るまで聴くか。」
俺は何個か公開しているMiaの歌を聴く。
「はちみつ.......」
息をつくようにそっとでた。綺麗で甘い、まるで蜂蜜みたいなそんな歌声だった。男性?いや、女性か?まあ、どちらでもいいか。はっきり言うと好きな声だった。とても。あ、眠くなってきた.....あまりにも心地の良いMiaの声は睡魔を引き連れてきた。Miaの歌はどれも本当に素敵だった。
「?」
ふと疑問に思ったのはMiaが少し前から投稿が止まっていること。調べてみるとMiaは投稿スペースが早く頻繁に歌をあげていた。多くは自分の作ったであろう曲。たまに他の人の曲を歌ったのを投稿している。どれもクオリティが高く、とてもいい。途中まで歌ったものなどはなく、ひとつひとつ、丁寧でとても拘っていた。そこにはMiaの、Miaだけの世界があった。
「なんで俺に依頼なんかしてきたんだ?こんなにもすげぇ曲作ってんのに。Miaが伸びてるのはMia自身が作ったこの音楽がすごく素敵で声が唯一無二でMiaにしかないものだからだろ......」
俺なんて最近やっと名が知れてきたもので、Miaより知名度は正直言ってない。そんな歌姫が俺に曲を作ってほしいと依頼してきた。まぁ、歌詞はあるらしく俺に求められたのは音だけだけど。どうして、音だけ俺なんだ?スランプ?........違うな。多分だけど、これだけの人が、単にスランプに陥ったからと他人に自分の音楽を任せる訳ないんだ。
俺は最後にMiaが投稿した歌をかけた。ふわっと蜂蜜のような優しく綺麗な甘い声が俺の部屋を包み込んだ。Miaの世界で何があったんだろうか。こんなにも大切にMiaは自分の曲を歌っているのに。わかる、声で。Miaの声がいっている。この歌たちは自分の大切な、なくてはならないものだと。
俺はずっとMiaの曲を聴き倒した。何回も何回も繰り返した。.....あ、やばい、まじで眠くなってきた。
眠い、眠いな、眠い眠い眠い眠いねむ、い。Miaからは連絡はまだな―――。
「........!」
ガバッと上体を起こし目を開けたらすっかり夕方になっていた。あ、眠ってたのか。ゆうがた?ん、この声......
「.....Mia」
あぁ、そうだよな、だってMiaの声聴きながら寝てたんだもんな。寝ぼけてるのか。Miaの声があいつの声に聴こえたなんて。
「あ!」
俺はパソコンをみて飛びついた。
「Miaからきてる!」
Miaからメールがきていた。
『こんにちは。itsuki。
連絡が遅くなってごめんなさい。Miaです。
私に連絡をくれてありがとう。とても嬉しい。私もあなたのことを知りたいと思っていた。
よかったら、お互いの話をしませんか?』
これがMiaから来たメッセージだった。お互いのことを話す..........何を話したらいいんだ?Miaには何から聞く?なんだったら教えてくれるだろうか.......。
Mia、あんたはどうして俺に曲をつくるよう頼んだんだ。どうして.......。どうして、Miaの歌声に歌に寂しさを感じたんだ?
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