第3話 「部活動仮入部期間」開始②  出会い

[多目的A]教室


 教室が4つ入りそうな位の広さで、奥行きがある。教室前後にあるホワイトボードには、「ようこそ!演劇部へ!」と大きく書いており、隣には「開始は16:00〜」と書いてある。その周りには様々なキャラクターのイラストが描かれていた。絵のクオリティはやはり高い。絵心が無い悠之亮は羨ましく思った。辺りを見ると、「本町西高演劇部」と背中に書かれた黒いジャージを着ている先輩が8、9人いた。男子は4人、女子5人。男子は全員カッコよく見えて、女子は全員可愛く、綺麗に見えた。その人達は、椅子で幾つかの円を作り、何かの準備をしながら話していた。入り口近くに椅子が横一列に20脚程、並べており、奥から新入生が7人座っている。全員女子だった。悠之亮は今になってあの先輩2人が喜んでいた理由を理解した。教室の時計の針が4時を指した時、ある一人の女子先輩が新入生の前にやってきた。

「それでは、時間になったので始めたいと思います。本日は、演劇部に仮入部で来てくれてありがとうございます。部長の平田花純です。カスミって呼んでください! フフフ……!」

 感高い声で話、笑っているのは部長の平田花純。外見はメガネをかけていて前髪なしの少し大人っぽい感じの人だ。

「これからみなさんには『読み合わせ』と言うのをしてもらいます。簡単に言うと、台本の読み合わせです!」

 ただ繰り返しただけだぞと思いながらも、へぇ〜と首を動かした。他のみんなも首の動きは、同じようにしていた。

「それじゃあ早速、分かれてやってみよう! 」

「そんな丸投げにすんなよ(笑)。分かんないのにかわいそうだろ(笑)。」

 何をどうすればいいかわからないのに丸投げにされた所を、アリス服の先輩が止め、説明してくれた。結局、「読み合わせ」というのは、一つの台本を音読することだった。やりたい役を決め、声でその役の雰囲気を作ると言う意味もあるのだと言う。悠之亮たちはそうなのかと納得しながら、話を聞いていた。

「さすが蓮ちゃん! 頼りになるぅ!!」

「お前の説明になってなさ過ぎんだよ。」

「それじゃあ、分かれてやってみよう! とりあえず……円ごとに台本違うから、みんな行きたいとこに行ってやってみてください。」

 ひたすら明るい平田部長に、クールに毒づくレン先輩。投げてばかりで大丈夫か、この部長? そんなことを思いながら悠之亮はみんなの動きに合わせた。5脚の椅子が円形になっていて、それが4つあった。台本を見て回ったが、どの台本も悠之亮はあまり魅力を感じなかった。動物園の動物達の話、ハンバーガー屋の話、銀行の話、部活で起きたいざこざの話。どの台本もタイトルから、下らない感じがして仕方なかった。しかし読み合わせをしてみると、意外に面白いと思い始め、先輩達ともうまく話せて、楽しい時間を過ごした。

 5時になり、仮入部の人たちは下校時刻となった。悠之亮含め新入生は、まだいたいと思っていた。その空気を察したのか、先輩達は話し合っていた。そしてレン先輩が新入生の所にきた。

「今話し合ってて、この後、視聴覚室で春大会の練習やるんだけど……もう帰るって言うのも全然良いんだけど……てか本来帰らなきゃいけない時間だし……だから……。」

 そう言い渋っていると、レン先輩の後ろから優しい声がした。

「今のだけじゃ、演劇がどんな感じか、まだわからないだろうし、役者とか裏方とか、どんなことやるか見せられてないからさ……どうかな? この後視聴覚室に見にこない? そこなら劇がどんなのか見せれるし。」

 こっちに歩いて提案してきたのは、濃い茶色の長い髪に柔らかい表情、柔らかい笑顔で、おっとりした感じの女子先輩。笑っているときの顔が温かく綺麗に感じた。悠之亮は彼女と目があっただけで、彼女が強く印象に残り、自分の中に深く刻み込まれた。

 


 これが、出会いだった。そして、深く刻み込まれたのは、彼女の「」と未来でつけられる「」である事を、彼はまだ知らない______。







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