第4話 海蝕洞より

 船上。ごろつき共の一人が所有していた船に、三人は乗っていた。


「ここで合ってるんだよね?」

「へぇ、姉御! 海賊団のやつらはこの島をねぐらにしてるんです。宝を奪ったあとは大抵ここに帰ってくるんでさ」

「……その姉御ってのどうにかなんない?」

「「「姉御は姉御です!!!」」」

「ふ、ふふっ。よ、良かったじゃん。んふふ、懐かれて。ふぅ……ふははっ」

「良かったね番長、ふふ。ははっ、仲間が増えてっ、あはは!」

「なにわろてんねん」


 文字に起こせばきっと“w”が生い茂っているほどに大爆笑するそふかとバッグ・クロージャーをジト目で見つめた。若干拗ねている。


 へそを曲げた番長を懐柔するため動いたのはそふかだった。


「<詠唱破棄>、<収納>」


 MPの節約のための<詠唱破棄>の後、そふかは<収納>から何かを取り出した。


「はい、ハンバーグ」

「は~~~??? 許した」

「やったぜ」


 文芸部の不文律として、好物を与えれば何とかなるというものがある。これは酷い。


 もぐもぐとそふか作のハンバーグを咀嚼する番長は放っておいて、バッグ・クロージャーとそふかの二人は敵の基地たる島を眺める。


 波に浸食され、崖に穴が開いたような形の海蝕洞。


 そこに、海賊の船はあった。


 小型の船が数艘、洞窟に収まるように並ぶ。


 そして島を囲むように、大型の船が五隻、配置されている。いずれも血のように赤い帆を上げていることから、その全てが海賊船であることが分かる。恐らく、この島全土が、海賊団の領域なのだろう。


「割と多いね。数減らすか」

「え? どうやって?」


 さらりと発せられた一言に、バッグ・クロージャーは疑問符を浮かべる。


「こうやって」


 海が凹んだ。


「へ……?」


 瞬間、海賊船から身の毛もよだつ絶叫が響く。


 ドカンと爆発がそこかしこで起こり、何事かと島からぞろぞろと海賊が出てくる。小型の船は全て沈み、船内にいた海賊たちは藻掻き苦しみながら海の底へ消えた。


「待って??? 待って♡♡♡」

「何をどうやって???」

「船の下の海水の温度上げます。水蒸気出るくらいまで上げます。水蒸気の温度上げます。水蒸気は最大で約2500度ほどまで上げられます。1538度で鉄は溶けます。後はもうお分かりですね?」

「えげつな……」


 沈んでゆく海賊を注視すれば、火傷で爛れる皮膚が見えたことだろう。なお、悲鳴を上げる男を眺める趣味の人間はいなかったため、「美形の優男が何かやべーことした」としか認識されなかった。


「まぁそこまではやってないよ。精々150度ほどかな。僕は八宝菜みたいにグロ好きではないからね。後は水蒸気爆発起こしたくらいで……」

「爆発???」

「水蒸気爆発って水がマグマとか、温度が高いものに触れると水蒸気が大量に発生し、爆発するっていうのが原理なんだけどね。水中で一部の水の温度を一気に上げたら起こせるんじゃないかと思って。その結果がこれ」

「どうしよう番長。戦闘描写がないまま終わる気配がしてきた」

「ほ、ほら。まだ大型船は残ってるから」

「残りも全部沈めようか?」

「「戦わせてくださいお願いします」」


 戦闘の助っ人に呼んだそふかに、全ての出番を取られそうになるという事態になった。


「てかちょっと聞きたいんだけど、今の<無詠唱>ってやつじゃない?」

「あぁ、そうだよ」

「<詠唱破棄>と両方取ってるん???」

「まぁね。MPの問題もあるけど、<詠唱破棄>がかっこいいときと<無詠唱>かっこいいときがあるだろ?」

「これが八宝菜が言ってた“かっこつけ”か……」

「は???」

「ヒン、威圧しないで……」

「あいつなんて言ってた???」

「なんか“そふかは努力一切してない大天才に見えるけど、全ての部門にある程度才能があるだけで他は全部努力で補ってるんよ。かっこつけだから努力してるとこは見せないけど。まぁ、それでも十分凄いがな。”って言ってた」

「理解した。あいつは後で殺すとして……」

「いや草」


 そふかは羽を広げ、告げる。


「まずはあいつらを殺そうか」

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