第3話 酒場へ

 セヒア王国の東端、エシカ領。広大な海を観光地とし、豊かな海産物に恵まれた領地。創造神が最初に現れた地ともされ、世界最大の教会が存在することで有名である。


 そして、その煌びやかな場所とはかけ離れた、奥まった土地にある酒場。昼間から荒くれ者が飲んだくれ、喧嘩っ早いやつらの殴り合いを見て賭ける。そんな大国にありがちな闇を抱えるところに、絵師トリオは来ていた。


「ここまで来て言うのもなんだけど、海賊が描きたいだけなら、想像して描けばいいんじゃ?」

「ハァーーーーー↑↑↑ これだから想像力豊か族は!!!」

「そんな想像力あったら現地に態々行ってスケッチとかやるわけねぇんだよなぁ!!!!」


 素面な分、酔っ払いよりたちの悪い小競り合いをしながら、三人は酒場に入っていった。


 強面の大男や体中に刺青を入れた男らがこちらを睨みつける。

 怪しげな香が店中に焚かれており、甘ったるい臭いを纏った娼婦が超絶美男であるそふかに視線を送っていた。


「これ確か一応子供もできるゲームだよね???」

「子供ギャン泣きじゃん」

「流石にこんなところには来ないんじゃないかな……多分」


 あまりの“大人向け”な雰囲気に一瞬たじろぐが、気を取り直して番長が一歩前に出る。今回の情報収集役は番長になった。これは厳粛なじゃんけんの結果である。基本的に番長は運がつよつよなのだが、心理戦に死ぬほど弱いため、そふかの「僕はチョキを出すよ」とバッグ・クロージャーの「じゃあわたしはグーね」の圧力に負けてグーを出した。二人ともパーを出した。


 よって、威風堂々たる姿で先陣を切る番長は、じゃんけんクソ雑魚であることを証明している。これは酷い。


「こんにちは」

「ア゛ァ゛?」


 明らかに歓迎されていない様子に番長の笑みが引き攣るが、そふかは「いいからさっさと情報聞き出せ」と手話で伝え、バッグ・クロージャーはそふかの後ろという世界一安全な場所でぬくぬくしている。俺もそこに行きたい、と番長は切に願った。


「“オブロッド海賊団”について教えてもらえないか?」

「……」

「あぁ、不躾に申し訳ない。こちらをどうぞ」


 セヒア金貨が溢れんばかりに詰まった麻袋をカウンターにドンと置く。酒場中の視線が集まった。


「情報量として破格だ。もし知っていることを教えてくれるなら、これはあんたの物になる」

「ほう?」


 男が下卑た笑みを浮かべる。金貨に釘付けになってることから、番長は交渉が成立しそうなことに胸を撫でおろした。


「……」

「他にも何か?」


 だが、黙り込む男に不信感を覚える。男の視線の先にいるのは、そふかの肩に乗った手のひらサイズのバッグ・クロージャーだった。


「あんたのツレ、精霊か? オークションなら高値で売れそうだなァ」

「ア゛゛゛???」


 今度は番長がドスの利いた声になった。


「そうだなァ、そこの精霊を渡してくれんなら、俺の知ってること何でも——」

「——OK、やっぱやめだ」

「は?」


 にっこりと、人好きのする爽やかな笑顔のまま、番長は男の頭を掴み——カウンターに叩きつけた。


「死にたくなけりゃあ情報寄こせ」


 その後、大乱闘の末に情報と舎弟を手に入れたのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る