第5話 片と両

 その後の勇者は圧倒的だった。


 聖なる力の二乗で次々と化け物を斬り伏せ、斬り捨て、斬り刻んだ。


 ぶっちゃけ、途中で魔王が要らなくなったまである。一応職業ジョブ:魔王も<聖魔法>を扱えるのだが、アンデッドと聖の力という相反する属性のため、威力が激減する。そして何より、とても痛い。すごく痛い。試しにうーめんと同じ<聖なる矢ホーリーアロー>を撃ってみたところ、脳を掻き回されるような痛みを感じたため、八宝菜の中で余程のことがない限り<聖魔法>の封印が決定した。余談だが、八宝菜は別ゲーで脳を掻き回されたことがある。


「それじゃあ、お休み」


 最後の一匹を両断し、聖剣を鞘に納めた。


「お疲れ~」

「お疲れ様」

「もしかして今回成果なし?」

「いや、余りくらいはあるんじゃないかな。……ほら」


 うーめんは推定:眼球収集家アイ・コレクターを殴りつけて退かした。そして、グズグズになった大量の眼球が乗る机を蹴り上げると——、


「——地下室のさらに地下?」

「貴重なもの、保管してそうじゃない?」

「よっしゃ行くぞ」

「任せろー」


 バリバリと扉を引きはがし、中に飛び込む。流石にもう化け物はいないだろうという判断だ。


 床に降り立つ。


 八宝菜とうーめんの眼前に広がる光景。それは、無数の眼球だった。


 否、ただの眼球ではない。それら全てが魔眼。


 先程と違うのは、瓶詰めされた魔眼が、綺麗に棚に並んでいるところだった。


 見る者によっては、恐怖を煽る光景。しかし、二人にとっては宝の山。


「うーめん! ここにあるの片っ端から<鑑定>してくれ!」

「いや、他力本願すぎでしょ」

「私の<魂眼>だと魂がある生物のことしか分かんねぇんだよ」


 幽霊レイスの固有スキルの一つ、<魂眼>。生物に等しく在る魂の形、色、清濁等を視認し、その生物に付属する情報を感じ取るスキル。言ってしまえば、<鑑定>の生物バージョン。故に、魔眼が対象である今、<魂眼>は役立たずなのである。


「んー、良さげなのはこれとこれとこれ……かな?」

「おっ、三つもあんの?」

「逆に三つないんじゃないかな。私たちが殺した中に、レアそうなのいたからね」

「やめろよ、後悔しちゃうだろ」

「草」


 向かい合わせになるよう座り込み、コトンと瓶を三つ置く。


 梅鼠色、朱殷しゅあん色、鮮紅色。それぞれの色の瞳を眺め、うーめんは鮮紅色の魔眼の瓶をひょいと持ち上げた。


「こっちはラズベリージャムみたいで綺麗だね」

「例えがお上品すぎんか?」

「なら、八宝菜はどう思ったのさ」

「動脈血」

「真っ先に出るのそれってやばない???」

「それはそう」

「じゃあ、こっちは静脈血?」

「うん」

「“うん”じゃないが」


 朱殷色の魔眼の瓶を持ち上げて言ったうーめんは、何の迷いもなく肯定した八宝菜に呆れ顔になった。


「ちなみに、こっちの鮮やかな赤い魔眼は<吸収ドレイン>、どす黒い赤の魔眼は<幻覚ファントム>、んでこっちの……、何色? これ。薄紅梅?」

「梅鼠色な」

「梅鼠色の魔眼は<妨害ジャミング>ね。他にあったのは<燃焼コンバッション>とか<凍結フリーズ>とかだけど……」

「魔法で足りる」

「だよね」


 純粋な魔法攻撃系の魔眼は、八宝菜もうーめんも活用できないため見送りである。


「私<妨害ジャミング>でも良い?」

「どんな効果なん?」

「ざっくり言うと、魔力の流れを乱すスキルが込められてる」

「……天敵化計画進行中?」

「まぁ、視野には入れてるね」


 魔力で魂を覆うことで現世に留まっている幽霊レイス。魔力を乱されれば、強制成仏は免れないだろう。他にも使い道はあるが……それを二人が気づいているかは不明である。


「と、いうわけでよろしく」

「りょーかーい」


 うーめんの目を抉った。


 <妨害ジャミング>の魔眼を嵌め込んだ。


「おー、ぴったり」

「そう? 良かった

 ……で、八宝菜はどっちにするの?」

「両方」

「二つも?」

「知ってるか、うーめん。ヒトは目が二つあるんだぜ……」

「違うそうじゃない」

「はよはよ」

「ちゃんと策があるんだろうね?」


 八宝菜の目を抉った。


 <吸収ドレイン>と<幻覚ファントム>の魔眼を嵌め込んだ。


「で、どうする気なの?」

「ヒント:魔眼には実体があるぞ!」

「なるほど、<実体化>さえ解けばどうにでもなるってことね……。あれ? でも<実体化>しないと他の人から見えないんじゃ……」

「そうじゃん……」

「え、どうするの?」

「安心しろ、盲目のアバターになったことならある」

「結局、力技じゃないのさ……」


 うーめんに魔眼が作用しないよう目を閉じる八宝菜に、再び呆れ顔になった。


「私は慣れてっからいいけど、うーめんはずっと片目だけ閉じてるのめんどいでしょ? そふかに頼んで眼帯つくってもらおうぜ」

「そふか君って裁縫師なの?」

「うんにゃ? リアル技能」

「女子力高いな……」

「あいつ何でもから」

「君は何でもけどね」

「おめーも大概だろ」


 抉った八宝菜の片目を弄ぶうーめんと、うーめんの片目を握りつぶす八宝菜。


「本人の前で容赦ないね」

「え? あぁ、無意識」

「無意識でそれやる???」


 そうは言っておきながら、目の前で自分の眼球を潰されても、うーめんは平然としている。どころか、「さっさと帰ろー」と梯子を先に登って行った。


 八宝菜も後に続き、ついでに地下室を魔法で破壊したところで、


「…………………………………あっ」

「え、何?」

「番長のお土産として取っとけばよかった……」

「あ」


 魔眼採取、これにて完了。


「後味わっる!!!!!!」

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